第四十四話「そして明日へと続く」
密談というとダークでダーディな連想をするかもしれないけど、実際にした提案は非常にクリアでクリーンなもの。若さまもお年頃なのだから、王室内では話し辛い青春特有の悩みを打ち明けられる相手がいた方が、ストレスも溜め込まなくて公務に支障をきたさなくなるのではないかということ。それから、ご主人さまは若さまのことを好意的に見ている様子だからお誂え向きではないかということだ。
「王子さまのお話し相手になるなんて、こんな機会は滅多にないと思うわ」
「そうでしょう、ご主人さま」
「だけど、事前に教えておいてくれなかったから、ビックリしちゃった。スノウがドラゴンに連れて行かれた時は、本当に攫われちゃったんだとばかり思ってたんだからね?」
「ご心配お掛けしました」
只今の時刻は、星々が輝き月も昇った真夜中。王宮での歓迎の宴も終わり、陛下が用意させた馬車に乗ってゲルハルト家へと戻り、すっかり就寝準備を整えた状態である。
お互いに今日一日の疲労が心にも身体にも溜まっているが、ご主人さまのほうは頭の中の興奮が冷めやらない様子なので、僕は窓辺で丸くなりつつ、ベッドで横になっているご主人さまとのトークに付き合っている。
「今日の体験談も、のちのちお父さまに手紙で伝えたほうが宜しいかと」
「う~ん、その必要は無いんじゃないかな」
「というと?」
「だって、パパの勤め先は魔法務省なのよ? お役人の耳に王室関連の噂が入らないとは到底思えないもの。きっと、すぐにパパのほうから手紙が来るわ」
「なるほど。若い新米魔女が王都の殿下と交流があるという特ダネが、話題にならないはずが無いですね」
「そういうこと」
「一流シェフが調理したステーキを食べて、思わず『生きててよかった!』と叫んだズヴォネクさまの逸話も、一緒に伝わりそうな気配がしますけど」
「フフッ。片手で目を覆って、天を仰いでたものね。あれは、よっぽど嬉しかったんじゃないかな。私も、ゾラほどじゃないけど衝撃を受けたもの」
ご主人さまは、夕方の光景を思い浮かべた様子で、天井を見ながら微笑んだ。
そして、少しの沈黙を挟んでから、窓辺に居る僕のほうを向いて呟く。
「ねえ、スノウ。私、ちゃんとした魔女になれそうな気がしてきた」
「おやおや、ようやく自身の素質に気が付かれたのですね。自信が付いたようで、何よりです」
「ううん、これは私の才能じゃなくて、スノウのおかげだと思う。初日の夜に弱音を吐いた時に、スノウが応援してくれてなかったら、ここまで頑張れずに青リンゴ村へ蜻蛉返りしようとしたはずだもの。ホントにありがとう、スノウ」
「いえいえ、御礼を言われるほどのことは何もしていませんよ。……さて。月や星が笠に覆われたり雲に隠れたりせず綺麗に見えてますから、明日もきっといい天気になるでしょう。そうなれば、また今朝のように誰かさんが闖入してこないとも限りませんから、そろそろ寝た方が良いですよ」
「ウフフ。そうね、スノウ。あんまり夜更かししないほうが良さそうな気がしてきた。おやすみなさい」
「おやすみなさい、ご主人さま」
静かに目を閉じてから程なくして、ご主人さまは安堵に満ちた表情で寝息を立て始めた。僕は、それを確認してホッと胸を撫で下ろしてから、おそらく明日も賑やかな一日になりそうだと気ままな予想しつつ、大きな欠伸を一つして瞼を下ろした。
*
ご主人さまの魔女修業は、まだまだ始まったばかり。これから先も、これまで出逢った人物と、これから行くことになるであろう様々な地で、幾多の困難に出遭い、数多の感動を体験していくことだろう。
だけど、そのお話をするのは、もう少し先になってからにするとして、ひとまず、ここまでを出逢い篇として、長くなった物語を一度締め括ろうと思う。機会があれば、物語のパートを改め、この続きに来るであろう成長篇や恋愛篇をお届けするね。
それでは、ごきげんよう、また今度!




