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第二十二話「外れたカン」

 女という字を三角に三つ書くと(かしま)しいという字になるだろう? 三人でも(かしま)しいのに、五人も(そろ)えばどれだけ騒々しくなるかは、想像に難くないはずだ。

 しかし、ゲルハルトさまは成人しているし、ご主人さまやズヴォネクさまも年齢が二桁に達していて、相手の気持ちを考えての言動ができるから、まだ良い。問題は、ズヴォネクさまが連れてきた半人半(きつね)の姉妹にある。最初の紹介によれば、少し身体が大きくて耳の先が黒い方が六歳になる姉のニーナ・ネレムさま、反対に尻尾の先が白い方が五歳の妹ノーラ・ネレムさま。二人とも共通してお転婆で、お(しゃべ)り好きで、そして思い立ったが吉日とばかりに考えたことをすぐに行動に移す傾向にある。


「このつばさ、せなかにくっついてるよ、ノーラ」

「あっ、ホントだ! キャハハ。おもしろいね、ニーナおねえちゃん」

「羽根がもげますから、あまり強く引っ張らないでくださいよ」


 注意しても、幼気な女児というものは情け容赦ないものである。ズヴォネクさまが止めに入らなかったら、きっと僕の周囲はクッションを引き裂いたかのように羽毛が散らばったことだろう。

 食事が始まれば少しは大人しくなるかと思いきや、そんなことは決してなく、人参を刺したフォークや熱々のポタージュを(すく)ったスプーンを僕の口元へ押し付けてきたり、房から外した葡萄(ぶどう)を僕の頭や背中の上に幾つ乗せられるかチャレンジしてきたりした。元気いっぱいなのは結構だが、僕としてはまともに食事が出来ないので、本音を言えばそっとしておいてほしいところだった。まぁ、楽しいディナータイムに水を差すといけないので、不平不満は心に留めておいたけどね。

 ゲルハルトさまが、大きめの器を持って来て僕の上に乗っけられている葡萄を移し入れると、ご主人さまが質問した。


「そういえば、グレーテさん。今日、夜にも誰か帰ってくるって言ってませんでしたっけ?」

「えっ、だれ? どんなひと?」

「おとこのひと? おんなのひと? せはたかい? しっぽはある?」

「こら、チビ共。レベッカの話に割り込むんじゃない」

「フフッ。まぁ、昨日の手紙には『今、汽車の車窓から田園風景を見ながら筆を執っている』としか書いてなかったから、到着が遅れてるのかもしれないし、どこかで途中下車したのかもしれない。虫が知らせたような気がしたから、念のためにも今朝はあんなことを言ったけど、あたしの勘は外れることの方が多いから」

「そうだったんですね。――あらあら?」


 ご主人さまが視線をゲルハルトさまからダイニングテーブルへ戻すと、ネレム姉妹が、二人の間に座っているズヴォネクさまに頭を預けて寄りかかるようにして眠りこけている姿が目に入った。ご主人さまが不思議そうに小首をかしげつつ、どうしたのだろうかと考えていると、それを察したズヴォネクさまが説明した。

 

「満腹になると、いつもこんな調子なんだ。急にゼンマイが切れた人形みたいになっちまうから、いつもなら適当に着替えさせてベッドまで運ぶんだけどさ。――おい、起きろよ。ここはお前たちの家じゃないぞ」


 ズヴォネクさまが姉妹の肩を揺すって起こそうとすると、ゲルハルトさまが止めた。


「まぁまぁ、無理に起こすことないじゃないか。今日はこの辺でお開きにして、暗くなる前に帰りな。――ねぇ、レベッカちゃん?」

「なんでしょう?」

「悪いけど、おチビちゃんを抱いて家まで送って行ってくれないかしら。あたしは、ここを片付けたり何なりしなきゃいけないから」

「はーい」

「スノウちゃんも、用心棒(ボディーガード)として付いて行ってね」

「承知しました」


 このあと、遠慮するズヴォネクさまが姉妹を二人とも担いで帰ろうとしたが、いくら体格に恵まれた種族といえども、そこは十一歳の少女のこと。ニーナ・ネレムさまを背負った状態では、とてももう一人抱きかかえることが出来そうになかったので、ノーラ・ネレムさまはご主人さまが抱っこし、二人は長い影を連れながら暮れなずむ街へと歩き出した。

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