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第十八話「紳士用サイズ」

 魔法薬の調合と聞くと、君らの世界では、大釜で(かえる)やら(さそり)やらをドロドロになるまでグツグツ煮込む姿を想像するかもしれない。かくいう僕らの世界でも、古代の魔女たちは、そうやって霊薬を発明してきた。でも、現代では魔法も学問的に体系立ったものとなり、かつては汽船を動かせるほどの鉱物を浪費して産み出されていた妙薬も、今や鍋一つで生成できるようになった。

 便利だし、合理的だし、簡単なんだけど、レシピ通りに材料を(ほう)り込み、仕上げに魔杖(まじょう)を一振りするだけで完成してしまうので、面白味や有難味に欠けるのもまた事実。手の込んだ料理を作るより余程簡単なので、砂糖と塩を間違えるようなご主人さまでも、滅多に失敗することが無い。

 

「スノウ。今、サラッと悪口を言われたような感じがしたんだけど」

「おや? ご主人さまは、読心術を心得ていらっしゃるのですか?」

「心を読まなくても、私を見てる目で何となく感じるところがあるものよ。魔女の勘は鋭いんだから」

「おやおや。あっ、残りの薬草は鍋を火から離して、中身が冷めてから仕上げに加えてください」

「わかった。じゃあ、ひとまず、キッチンでする作業は、これで終わりね」


 ご主人さまは(かまど)の火を弱めてから鍋の蓋を閉じると、鋳物製の鍋敷き(トリベット)を作業台の上に置き、鍋を持ち上げるべく、ミトンを探し始めた。だが、(かまど)の周囲にも、調理台の近くやダイニングテーブルの辺りにも、どこにも見当たらない。

 ご主人さまと僕が探し物をしてウロウロしていると、店舗の方からゲルハルトさまが様子を見に来た。


「調合とやらは、だいぶ進んだようだね。何を探してるんだい、レベッカちゃん?」

「あっ、グレーテさん。ミトンって、どこにありますか?」

「ミトン? 革手袋(グローブ)ならガレージの方にあるはずだけど、持って来ようか?」

「ええっと、そういう頑丈な手袋じゃなくて、熱々のお鍋を持ち運ぶためのもので、布巾より厚手のキルトで出来てる……」

「ああ、そっちね。あたしはそういうのを使わなくても平気だから、出してないのよ。たしか、この辺に仕舞ってあったような……」


 ゲルハルトさまは、ダイニングチェアを(かまど)の隣にあるパントリースペースへ移動させると、背の高い棚の上の方を探し、タータンチェックのミトンを取り出してご主人さまに手渡した。


「コレで間に合うかい?」

「はい、充分です。このミトン、大きいですね」

「今夜にでも帰ってくるだろうけど、この家にはもう一人、紅茶が好きな男が居るんでね。彼の手の大きさに合わせたら、それくらいの大きさが必要なんだ」

「その男の人って、グレーテさんのご家族やお友達ですか?」 

「どっちでもないよ。まあ、ちょいとした親切というか、よんどころない事情って奴があってさ。好きに住まわせてるんだ」


 ゲルハルトさまは片眉を下げ、どう説明したものかと悩ましいような表情を見せていたが、店先から呼ぶ声が聞こえてきたため、急いで椅子をテーブルの近くへ戻してからバタバタと店の方へ戻って行った。

 キッチンからゲルハルトさまの姿が見えなくなってから、ご主人さまは僕の方を向き、耳元で(ささや)いた。


「どんな事情かは、聞かない方が良いのかしら?」

「そうですね。その方が賢明でしょう。誰にでも、踏み込まれたくない領域というものがありますから」

「そうよね。でも、ちょっと気にならない?」

「まったく気にならないかと言われれば、全否定は出来ません。しかし、今夜にもお帰りになるそうですから、その方が戻られてから伺っても遅くはないのではないかと」

「回りくどいな~、スノウは。要するに、どういうことなの?」

「暗くなるまで待ちましょう、ということです。何はともあれ、ミトンが見付かったのですから、鍋を移動させないと」

「あっ、そうだった。忘れるところだった」


 ご主人さまは考えるのを中断すると、ミトンを両手に()め、(かまど)の方へ向かった。

 ゲルハルトさまが言っていた人物は、のちにハンカチの謎を解くキーマンとなるのだが、そのお話は、また少し後になってからにしよう。

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