第十五話「賑やかな夕べ」
今日は外で動き回って汚れたからという理由でシャワーを浴びせられ、それからダイニングテーブルに並んだ魚に舌鼓を打ったディナーのあと、二階へ上がり、疲労と満腹でウトウトしていると、刃物を持った小悪魔がやって来た。
「ねえ、スノウ。爪、伸びてない?」
「適当に研いでますから、ご心配なく」
「そうでしょ? そうよね。私も伸びてきたなあと思ってたの」
「会話がすれ違ってますよ、ご主人さま」
「ねえ、知ってた? お風呂上がりって、お湯で爪が柔らかくなってるから、切りやすいのよ」
「切らせませんよ。深爪になって痛い思いをするのは、もう御免蒙りますから」
「え~、何の話かな? とにかく、一流ネイリストの私に任せなさい。――あっ、ちょっと! 何で逃げるのよ」
そりゃあ、逃げない方がおかしい。利き手に爪切り鋏と棒鑢をV字に構えたご主人さまは、捕獲を成功させて勝利を掴み取りたいのかもしれないが、僕としては悪意や悪役のVにしか感じられない。
ベッドやチェストの下を潜り抜け、廊下へ出て階段をジャンプして飛び降りたまでは良かったものの、着地点に脱いだ洋服等を入れた籠を抱えたゲルハルトさまが居たのが不味かった。
「グレーテさん、捕まえて!」
「よし来たっ!」
全然、良くない。籠を置いて中からエプロンを取り出し、それを闘牛士のように構えたゲルハルトさまに追い駆けられ、僕はコーナーに追い詰められてしまった。じりじりと間合いを縮めてくるゲルハルトさまは、獲物を甚振る肉食獣のような眼をしていて、今にも耳や尻尾の先から炎が上がりそうな雰囲気である。
「さあ、観念なさい」
「ぶわっ」
我ながら情けない声を上げてしまったが、僕は飛び掛かって来たゲルハルトさまによって捕獲された。頭と羽根をエプロンですっぽり覆われた挙句、そのまま腹の下に腕を通すように抱きかかえられてしまったため、どう足掻いても逃げようがない。姿は見えないながら、声や足音を聞く限り、捕り物が終わった段階でご主人さまも追いついたらしく、僕を抱えたままのゲルハルトさまとご主人さまはリビングへ移動した。
陸歩き猫も、袋被せたり小さな箱に入れると落ち着いて大人しくなると思うのだが、そこは空飛び猫も似たようなもので、狭くて暗いところに居ると妙な安心感を覚えてしまい、本気で暴れる気にならなくなってしまう。
そして、抵抗できない僕は、四つ足全ての爪を切り揃えられてから、ようやく拘束を解かれた。安全性は増したかもしれないが、攻撃力も防御力も半減してしまったような気分である。
「もう暗いし、今日は疲れてるでしょうから、ドタバタ騒ぎをやってないで、早く寝なさいね」
「あっ、はい」
「お騒がせしました」
お詫びの気持ちと共に頭を下げてから、ご主人さまと僕は再び二階へ戻った。




