プロローグ
たとえ茨の道となろうとも、高貴な魔女を目指すことを誓います
――「魔女の誓い」第1条
やあやあ。僕の名前は、スノウ。この世界に、よくいるタイプの空飛び猫さ。
君らもよく知ってる陸歩き猫と違って、人語を解するところと、背中に大きな翼が生えているのが特徴だよ。
寿命も長いし、魔力耐性も高いから、昔から僕らの種族は、魔女の使い魔として生きてきたんだ。
今、僕の隣でも、新たにご主人さまになったばかりの魔女が、箒に乗って飛んでいるよ。
いい天気で、絶好の空飛び日和だけど、ちょっぴり向かい風が強いかな。
「ねえ、スノウ。ホントに、こっちで合ってるの? 足元が雲ばっかりで、全然、島が見えてこないんだけどっ!」
「合ってますよ、ご主人さま。僕を信じてください」
「まあ、何度も行ったことがあるスノウが合ってるっていうのなら、正解でしょうけど……」
「安心してください、ご主人さま。島に接近したら、眼下の雲海も途切れてきますよ」
やれやれ。似なくていいところが、遺伝しちゃったものだな。
こういう心配性なところは、前のご主人さまと変わらないよ。あの母にしてこの娘ありだ。
住み慣れた村をあとにしたばかりで不安なのは分かるけど、大変なのは島に到着してからなんだぞ。
そういえば、前のご主人さまには、呼びやすいからっていう理由だけで、ジョンってあだ名を付けられたんだったな。
その前は、年寄りくさいという理由で、ジジ猫呼ばわりされたんだっけ。
今度こそは、不名誉で理不尽な扱いをされないようにしなくっちゃ。
「島に着いたら、まず初めに修業中にお世話になるお宅へ向かいますとお伝えしましたが、自己紹介は考えてますか?」
「もちろんよ。挨拶は大事だもの」
「では、僕がホストファミリーだと思って自己紹介してみてください」
「はじめまして。私は、新米魔女のレベッカです。この子は、使い魔のスノウ。よろしくお願いします!」
ああ、うん。文面は完璧だけど、どうだと言わんばかりに、自慢げにこちらを見ないで欲しいな。
ほらほら。よそ見してるあいだに、雲の切れ間から草木の緑が顔を出してきたよ。
「わあ、キレイな島ね! あっ、ドラゴンもいる!」
「この辺りは魔素が豊富な土壌で、魔界生物も棲息しやすい環境が整っているのですよ、ご主人さま」
魔素とは読んで字のごとしで、魔力の素になる物質のこと。君たちの世界で言えば、元素に近いかな。魔素を呪文で連結することで、魔力が生まれて魔法として発動することが出来るってわけ。
魔素が豊富だと魔法が使いやすくて術式も成功しやすいから、魔女修業には魔素の多い土地が好まれるんだ。
「へえ~。それで、どこに降りればいいの?」
「もう少し右に飛ぶと、赤い尖塔が見えてきます。その塔の下には、放射線状に伸びる街道があって、その中心に、祭日にだけ使われる大広場があります」
尖塔は、これからお世話になる島を統べている王族がお住いのお城の末端に該当する場所で、そこから城壁を辿って行くと、背の高い鉄扉が厳めしい立派な正門へ回ることが出来るよ。
城壁の周囲は、昼夜を問わず武勇に優れた近衛兵が警護にあたっているから、遠巻きで眺めるのは良しとしても、あんまり近くでウロウロ歩き回ったり、ジロジロ眺めたりするのはオススメできないスポットだね。
「日頃はそれほど人気が多くありませんから、そこが安全でしょう。ホストファミリーのお宅にも、程近い距離にあります」
「わかった。あっちの方の広場ね。それじゃあ、どっちが先に着くか競争よ。よーい、ドン!」
「わわっ。お待ちください、ご主人さまーっ!」
着地点が見えた途端、さっきまでの不安もどこ吹く風で、嬉々として急降下を始めたご主人さまを、僕は全速力で追いかけた。
まったく。修業のシの字にも達してないというのに、猫騒がせなお人だな。今から先が思いやられるよ。




