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第一幕 第2話 一日の終わりに

相変わらずの一日を終えて家に帰り、できたての夜食が食卓に並べられた時、母さんの宣言通り反省文の理由を尋ねられてしまった。



「ご飯の前に、何があったのかすこーしだけ教えて?」


やっぱり忘れてはくれないのか…。



………………

……………………



「そっかぁ、そんなことがあったんだ。

ふふふ。それは、んー、ご苦労さまだね。」


「笑い事じゃないよ...。もう、ほんと何回目だろ?反省文もそうだけど、あの文章。」


「まあ、学校ってそんなもんでしょ。」


「そういわれるとそうなんだけどさぁ...。」


「そういえばいつもはどんな勉強してるの?あんまりこういうこと聞く機会ないし、教えてよ。」


「うーん、他に...計算だとか、先生と一緒に下の子達に読み書きを教えたりとかかな?」


「他には他には?」


「ああ、最近は魔女について学んだよ?」


「え...。魔女?」



どうしたんだろうか、魔女という言葉を口にした途端、母さんの顔に不安の色が見えた。



「そう。魔女。悪い人達じゃないよね。

この村を守ってくれているなんて、でも見たことないかも。でも、すごく素敵な人だろうね!」


「そ、そうだね。今は...そうだね。」



後半はよく聞こえなかったが、きっと母さんは魔女が悪い人だと教わったのだろう。

そんなことは無い。

事実、この村の発展には魔女が大きく関わっている。

その魔女は【無欲】の魔女と呼ばれ、彼女はこの村を永きにわたって守っているのだという。



「やっぱり、勉強は大変そうだね。」


「うぅ...。賢者様の話とかなら何回読んでも飽きないんだけどなぁ...。」



さらに愚痴を重ねようとしたところで



グゥゥーーー



体は正直だ。



「食べよっか?」


「うん。」


「「いただきます」」



やっぱりご飯は温かいうちに限る。

このために生きてると言っても過言じゃないだろう。いや、ほんとに。美味い。



ただ、こんな日々が続くことが俺の望みだ。



………………

……………………



幸せを堪能し、洗い物を済ませ一息つこうと椅子についた時、後ろからスッと一冊の分厚い本が差し出された。



「これを渡す日が来るとはねぇ。」



しみじみと感慨深いふうにそう言って、母さんが差し出した本には何故かまったく読めない文字でタイトルらしきものが書かれていた。

しかしそれよりも気になったのは母さんの言葉の方だ。



「どういうこと?渡す日って、何?」


「あー、ううん、気にしないで…それよりもさ!ほら、この本!なんだかわかる?」



無理矢理話をそらされてしまったが、これは気にしないほうがよさそうだ。

ところで、この本、作者名は書いてないしタイトルも読めない。読めない、というのも、文字自体見たことないものなのだ。

これは一体なんなのだろうか?



「何も読めないからなぁ…わかんないや。」



すると、いたずらっ子のような笑顔で母さんが衝撃の答えを返してきた。



「これはね、あの、あなたの大好きな――」

「賢者様⁉︎」


「あははっ!すごい食いつきようだね?

そうだよぉ。その賢者様。」


「読んでいい?」


「もう開いてるね…。許可を取ろうとする態度じゃないよ…。まあ、そのために持ってきたんだし、ゆっくり読むのよ?」



やばい、心臓がオーバーヒートしそうだ。

既に思考は半分停止状態だ。

そっと本を両手で持ち、宝箱を開く時のように力強く表紙を開いた。


何が書かれているんだろう。

何を思って賢者様はこれを書いたんだろう。

さまざまな考えが頭を駆け回る。


しかし、運命の1ページ目、そんな思考は一気に吹き飛ばされることになる。



「え…?え?なんだ、これ。」


「どっ…ふふ…どうしたの?」


「…読めない。」



そう。読めなかったのだ。

よく考えればそれもそのはず。タイトルさえ読めないのだ。内容も読めなくて当然だ。



「そりゃあそうだよぉ。これ、賢者様の使う独自の文字だもん。」


「そうなんだ…。ん?独自の文字?そんな文字があるなんて聞いたことはない。つまり、これを見たことがある人は母さんと俺だけ…!」


「大興奮だね。まあ、読み進めてごらん?」



言われた通り、読み進めてみよう。



………………

……………………



ペラ、ペラと、ページをめくる音だけが静かな夜に生み出される。

読めない文字でも見始めると案外すんなりと受け入れてしまう。

1枚、また1枚と読み進めていくと、本の半ばまできた頃だった。



(...ぇ。.....たが...)



「え?」


「どうしたの?リン?」


「今の声...」


「声?え?誰もいないよ...?」


「気のせいかな?」


気のせいにして、本に意識を戻そうとしたその時。


(.....ょ。おねがい。)


「...っ!」


「リンっ!」



突如激しい頭痛に襲われた。

母さんが駆け寄ってくるが意識が持っていかれるのが先のようだ。

意識が途切れる寸前、さっきの声が今度はハッキリと意思を持って聞こえてきた。


「そろそろ目覚めの時よ。」


女の人の声だ...。



意識が途切れた。


………………

……………………


「...ン!リン!」



どれくらい気絶していたのだろうか。

母さんが隣で呼んでいた。



「ん...うぅ...」


「よかった!大丈夫?突然苦しそうにしたから何事かと思って...」


「ううん、大丈夫。心配かけて、ごめん。」



どうやらほんの数秒だったようだ。

気絶する寸前読んでいたページを見るとまた頭痛がきそうな気がしてならず、どうしても見られなかった。

気絶している間に何かを誰かから言われていた気がしたが何も思い出せない。

まあ、覚えていないということはそれほど大事なことではないということだろう。



「今日は、もう寝るよ。」


「うん。それがいいよ。もう大丈夫なの?」


「大丈夫。多分疲れてたんじゃないかな。反省文とか書いたし。」


「そうかもね。ゆっくり休むのよ?」


「ありがとう母さん。おやすみなさい。」


「おやすみ、リン。」



………………

……………………



「声...。声、か。もうじき...ね。」



朝が来るのがひどく恐ろしい。

願うことを忌み嫌った1人の魔女は密かにため息をこぼした。

第2話更新が遅れまして誠に申し訳ございませんでした!

3話目はもう少し早めに投稿しますので、また読みにいらしてください!

それではm(_ _)m失礼。

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