夜美の中学生活
舞式亮夜がトウキョウ魔法学校へ向かうのを見送った舞式夜美は、そのまま二条トウキョウ中学校へ向かった。
14歳である夜美は、現在、中学3年生。
亮夜の通う魔法学校とは異なり、普通の授業を行う中学校に通っている。
そのこともあって、実情はともかく、形式的には普通の女の子であった。
家から20分程かけて歩くと、そこに二条トウキョウ中学校があった。
玄関から入り、3年2組の教室へ向かう。念のため説明するが、組の数字付けに特別な意味はない。
始業時間まで、まだ40分近くある。控えめに言っても来るのが早すぎだ。
しかし、夜美にとってはいつものことだ。
荷物を置いた後、夜美は図書室に行って、次々と本を読み始めた。
夜美は、常識観が欠けている自覚がある。
トウキョウにやって来たばかりの頃は、食べ物一つで大騒ぎを起こしたり、お金の使い方がおかしかったり(お金を払わないといったことではない。使う桁がおかしかった)したなど、本人は気づいていないが、常識のずれた女の子として一部で話題にもなっていた。
亮夜が戻ってきた後、知識を得ることが重要であると二人は結論付けた。
その結果、生活の準備と共に、図書館などで本を読み倒したことは、一部で伝説になっていた程だった。
今は、最低限の生活をする分の知識を身につけたため、人間的なズレが起きている程度で済んでいるのだが、そういった事情を抜きにしても、夜美は本を読むことが好きだった。
毎日、図書館で1冊読み切ることを密かな目標にしている夜美が今日、主に読むことにしたのは、ニッポンの歴史書の一つだった。
3分の2程度を読み終えて、夜美は図書室を後にした。
始業まで後10分。
少し用事を済ませて、教室に戻った夜美は、となりの机にいた友人から声を掛けられた。
「おはよう、夜美ちゃん」
明るい声で掛けてくれたのは、高橋喬子。
「おはよう、喬子さん、真由さん、恵美さん」
離れて横並びにいた工藤真由、後方にいた和田恵美も含めてあいさつを返して、夜美は着席する。
それ以外にも友人は十分にいた。だが、席の都合なのか、今はこの3人と会話することが多い。他の友人にも声を掛ける姿は、亮夜とはかなり異なると言えるだろう。
「それでさー、ケータイ水没させてさー」
「マジ、大変じゃん!」
「色々大変だろうね・・・」
「ホント、ママに1か月お小遣い禁止とか。で、今度の休み、皆でカラオケ行きたいなー」
「おごらせる気まんまんじゃーん」
「あはは、バレた?でもいいじゃん」
「お金はちゃんと用意しないとダメだよ?」
「ほら、舞式さんも怒ってるよ」
「ごめん。今度遊びに行くから、ね?」
「それで誤魔化しちゃダメだよ!」
「うーんと、ごめんね。ちょっと、お兄ちゃんが・・・」
「また始まったよ、舞式さんのお兄さん話・・・」
「確かさ、そのお兄さんって、大半の成績で5を収めた超優等生だって?」
「ええー、そんなすごいの!?」
「聞いた話じゃ、二人暮らしで、中学生なのにお金稼いでいたって・・・」
「うっわ、すごいウラヤマ」
「ていうか、高橋さん、そのお兄さんと舞式さんが一緒にいるの見たことあるよね?」
「いやー、改めて聞くとすごい兄妹だなーって・・・」
「でしょ?お兄ちゃんすごいでしょ?」
「はいはい、すごいねー」
お調子者の喬子、空気を読むのが上手い真由、突っ込み役の恵美、兄関連を除いて常識的な夜美と、うまいこと話が弾んでいた。
亮夜のことを話している夜美は、いつも楽しそうであった。
その姿は、一部の男子生徒を魅了させた。
実際、文武両道、家庭的、そのうえ可愛い夜美は、普通の男子生徒に「気にするな」と言われて、本当にその通りに出来る人は少ないだろう。遠巻きに少なからず男子たちがちらちら見ていることからも、その点が伺える。
しかし、異性として、モテているかと言うと、疑問がつく。
スタイル的にはかなり貧相__決して女性らしさを出すスリーサイズの所ではなく、あくまで身長的なスタイルである__な点は一部から残念がられているし、センスの表現力は高くとも、その矛先が少しずれているのは、ギャップ萌えがあるとはいえ、残念だと見られている。また、あまりに優れているがために近寄りがたいという部分もあった。
だが、それ以上に、残念な点があった。
それは、かなりのブラコンであるということ。
実の兄である亮夜を強く慕い、事あるごとに亮夜の話題を出す。
まだ亮夜がこの学校にいた時は、二人の甘々ムードにげんなりしている人がいたどころか、先生から規制を出される始末であった。
その亮夜が卒業しても、やっぱりブラコンは披露したままだった。
あまりにブラコンであるがために、一部ではファンクラブが出来ている有様だ。遠巻きに見て楽しむという人物が形成されていった結果、こうなったのである。
夜美に告白した、勇敢な男子生徒もいたが、やはり兄と比べられて惨敗した男子生徒が大多数であった。
ちなみに、亮夜も割とモテていたのだが、やはりシスコンな点がマイナスな評価をされて、近寄りがたい雰囲気もあって、告白する程の強者は現れなかった。
そうやって話していると、始業開始まで5分を切っていた。
夜美は一言断ってから、授業の用意をした。
その日の1時間目は、数学。2時間目は美術、3時間目は社会、4時間目は英語だった。
いずれも、夜美は真面目かつ、好成績なアクションが続いた。
数学は、厄介な式を次々と解き、美術は、芸術的な彫刻を掘り__お題はお花なのだが、かなりきれいではあったがとげとげしかった__、社会や英語も、問題なく終わらせた。
続けて、昼にあるのは給食だ。
学校で用意した、格安のご飯を、皆で盛り付けて食べる。机を固めるのか、一人で黙々と食べるのかは好みが分かれるだろう。
夜美は周囲に誘われたら一緒に食べるが、そうでない場合は一人で食べている。
ちなみに、食べる量は、普通に盛り付けられた分は食べるくらいにはしっかり食べている。他の女子と比べると、少し多いと思われるが、そういう問題は特になかった。__一部の男子からは、なぜあんなちんちくりんなのか、疑問に思われているが。
5時間目は体育だった。
中学以降では、専用の体操服に着替えるというケースが多く、この中学校も例外ではない。しかし、そういった事を気にする生徒のため、ロッカーと着替え室が別になった上、個室の着替え室もいくつか用意されていた。
給食を終えた夜美は、着替えを持って、個室の着替え室に入った。
彼女は、亮夜程ではないが、隙を晒さないタイプであった。それがたとえ、親友が相手であろうと。
亮夜のように、身体が傷ついていて、そっちに配慮したというわけではない。一部の身体コンプレックスを抱えている女子たちのように、それを気にしているわけでもない。
夜美はそもそも、壮絶な過去から、堂々と隙を見せることが、亮夜の前以外では出来なくなっていた。
実際、学内で昼寝をしている所を一度も見たことがないとか、注意散漫関連で、先生に怒られた事が一度もないとか、覗きの変態を、見られる前に捕まえるなど、良くも悪くもかなりの神経質であった。
ただし、さすがに魔法道具は持ち込んでいない。素の状態でも問題なく魔法が使えるということもあるが、そもそも一応は禁止されている。
それでも、カバン等に、カギを掛けて容易に開けられないようにする__改造携帯電話など、あまり見せたくないものも混じっていた__など、防犯などの準備はいつでも十分であった。
着替え終えて、ロッカーに二重カギを仕掛けて、体育館に向かった夜美は、知り合い達と遊んでいた。
最も、身体能力で、並の男子でさえ敵わないので、大体が一方的な勝負になってしまうのだが。
相手にボールをぶつけるドッジボールは、的確にかわして、素早く的確に当てる。相手を追いかける鬼ごっこは、そもそも早い上、ジャンプ力の格が違うので、容易に逃げられる。スタミナも十分にあるので、まともにやってはほぼ勝負にならないのが常であった。__ちなみに、この身体能力の高さから、一部では忍者と称されることもあった。
今日の体育の授業では、1組と合同球技対決であった。
夜美の実力は、学校内で有名な話だ。学校内の不良たちを一人でしばき倒した事は、未だに一部で語り継がれている。その小さな体からは想像が出来ない程、どの点を見ても、非の内所がない、極めて優秀であった。
おかげで、チーム同士の対決では、夜美と当たらないように祈る、夜美と同じチームになることを祈る、そんな人が出てくる程だった。
バレーボールでは、ボールの打ち方は速い上、正確だわ、ボールの回収も上手く、さらにブロッキングまでこなすと、ジャパンスポーツ大会に出ても、全く違和感のない成績だった。
こんなことが、ほとんどのスポーツで行われているので、もはや別の何かを見ているかのように、夜美を見ているという人物も少なくなかった。
「ふう、楽しかった!」
「相変わらず、すごい活躍だね。ジャパンスポーツ大会で優勝できるんじゃないの?」
「まだまだだよ、皆の力がないと、勝てないって」
「あんな忍者みたいな動きが出来ているのに?」
「練習はしていないからさ、最適な動きは出来ていないんだよね」
「それでこれは、おかしいんじゃないの?」
「たまに思うんだけど、舞式さんって化け物じゃない?」
「もー、酷いよ。一応、普通の人間だよ」
夜美のジョークなのか、本心から言っているのか分からない言葉に、一同は笑いに包まれた。
夜美としては、実際に半分半分な感覚であった。
幼い頃から異常な生活をしてきたことは自覚している。魔法師であることは明かしていないのだが、魔法を抜きにしても、ほとんどの点で異常であった。
命を賭けた壮絶な訓練。
9歳にして、兄との二人暮らし。
小学生にして、資金稼ぎ。
多大な努力と、異常な環境が、普通の女の子とかけ離れた、能力を生み出すことになった。
人格面も、これらの影響で、やや異常なことになっている。
孤立した中、唯一の理解者だった兄。
身近な人の死を知った、達観性。
一人だった、都会暮らし。
戻って来た、頼もしい兄。
これらが混ざり合った結果、2面性を持つ、少しズレたお嬢様の誕生であった。
こうも普通に会話しているようだが、夜美はどうしても、本心からかわすような会話が出来なかった。
普通の女の子がしそうな会話と、自分の性格に合わせた会話、人間として理想的な会話が混ざっているので、一見すると、しっかり話しているように見えて、実際は心を通い合わせるかのような会話ではなかった。よく言えば、社交辞令、悪く言えば、表面的にしか付き合っていないということになる。
夜美本人も、本気で仲よくしようという気にはならなかったという点があり、本人も自覚していた。兄がおこしたトラウマを考えると、本心から信用するということが、亮夜を除いて出来なかった。そういう点でも、この兄妹はよく似ていた。
だが、好意を抱かせた方が有利という打算もあってか、普段は、素の親しみやすい態度で通している。この点も、2面性のある性格の一因なのかもしれない。
個室でさっさと着替え終えて、6時間目は、国語だった。
これもそつなくこなして、今日の授業は終わりだ。
「じゃあ、帰るね」
「今日も遊びに来てくれないのー?」
「いつものように、お兄さんのために、お家の掃除なんじゃない?」
「うん、そういうことなんだ。ごめんね」
友人たちのお誘いを断って、夜美はさっさと家に帰った。
家に戻った夜美は、お家の掃除を行っていた。
魔法を駆使して、次々と部屋の床や壁を掃除していく。
数分で掃除を終わらせて、宿題を片付けた後は、夕食のための準備を行った。
明日の準備やお風呂の初期準備も終わらせて、夜美は実験室に向かった。
身体的トレーニングは、学校や別の特訓施設で行っているのに対して、魔法のトレーニングは、プライベートな時間で行うことが多い。__なお、筋力トレーニングもある程度行っているのだが、身体が太くならない程度の量しか行っていない。
今回は、感知能力を強化することにした。
暗い中や、死角から敵が襲ってきた際に対処するための、対策だ。
目を閉じて、周囲に集中する。
出現した的に狙いを定めて、魔法を放つ。
破壊することはできたものの、夜美の満足する結果とはならなかった。
このプロセスをもっと速く行う。
そのためには、周囲への注意能力を上げて、早く見つけられるようにする。その場の座標を即座に変換して、魔法の放つ場所を決める。それを意識したまま、魔法を早く組み立てる。
この点を意識することが、感知能力と、対応能力を上げるポイントだ。
出現パターンを変更して、何回も繰り返した。
100回近く繰り返して、平均1秒を切った。目標としては、エレメンタルズや魔法六公爵の発動速度に匹敵する程の速さであるが、いくら彼女でも、そこまで速くするのは難しかった。並の魔法師では、感知が出来なかったり、どちらかに時間をかけすぎるということも多いので、夜美が優秀だと結論づけるのには、十分だろう。
そして、また少し強くなったのも事実だ。
終わらせた後、亮夜が帰ってくる予定の時間が目前になっていた。
本を読んで勉強していると、亮夜が帰って来たので、亮夜を玄関まで迎えに来た。
その後は、二人でご飯を食べて、(今日は)一緒にお風呂に入り、9時になる少し前、二人で布団に入って眠った。
これが、舞式夜美の普段の生活の一例である。
そして、ここからは、彼女のいつもと違った日常のお話である。
その日は、学校内を散歩していた。
特に意味はなく、気分転換といった所だ。
歩いていると、3人の男の子が、1人の男の子を取り囲んでいた。
見た目的には、1つ学年が下の人たちだろう。
その雰囲気は、3人が1人をいじめているように感じられた。
夜美は3人を止めるべく、声を上げた。
「何をしているの!」
その声に、3人は振り向く。
「なんだ、女・・・げっ、舞式じゃねえか!」
「おい、焦るこたあねえ。3対1ならいけるぜ」
「何だ、俺たちとやるってえ言うのか?」
「その子を放しなさい」
いつもの優しい雰囲気とは異なる、シリアスな表情。
その雰囲気は、小学生に間違えられるとは思えない程、恐ろしさが出ていた。
「仕方ねえ、お前の鼻っぱし、ここで折ってやる!」
どうやら、止めるしかなさそうだ。物理的に。
夜美の威圧感が増す。
その雰囲気に耐えられなくなった3人は、次々に突撃し始めた。
一人目の拳が、夜美に届く前に、腕を握る。
ピンポイントで押した所は、痛みを伝えるのに最適な所だ。
一人目が、激痛に悲鳴をあげる。
二人目が、その隙に反対側から殴ろうとする。
夜美はしゃがんで、振り向きざまのパンチで追い払った。
そのまま、三人目の迫って来た腕を、片手で止める。
そこから、柔道の技の如く、姿勢を崩させて、床に叩きつけた。
二人目が再び襲い掛かる。
夜美は懐に飛び込み、正拳の一撃で、動きを止めた。
数秒にしかならない時間で、3人は倒された。
「けがしてないといいけど・・・」
夜美からすれば、学生が相手とはいえ、3流以下の不良程度の相手でしかなかった。
昔は、こんな奴らの数倍は強い奴らと戦ったものだ。
夜美の身体能力ならば、こんな奴らが何十人来ても、叩き伏せられるだろう。
ただし、それはケガを負わせてもいいという場合だ。
一人目は、苦痛によるショック、二人目は、痛みこそあるが、骨にはダメージを与えていない。三人目も、二人を足して2で割った程度のダメージに留めていた。
本気を出せば、もっと早く片が付くのだが、重症を負わせるのには、夜美には抵抗があった。魔法も交えた、インチキを働いても良かったのだが、この程度の奴らに、そこまでする気もなかった。
「大丈夫?」
先ほどまでの鬼気迫った様子はどこいったのか、普段の明るい印象に戻って、夜美はいじめられていた男の子に声をかけた。
その男の子は、小柄な姿に、髪なども子供っぽい。昔の亮夜と少し似ているかもしれないと思わせる姿だった。
「あ、あの、ありがとうございます。僕は多田幸彦と言います」
「幸彦さんね。どうして、こんなことになったの?」
深い付き合いは苦手ではあるが、人助けは嫌いではないどころか、人生の目標とまでしている夜美は、事情を聞いてみた。
「えっと・・・その・・・」
「もしかして、思い当たる理由はないの?」
「すみません」
「あなたが謝る必要はないよ」
事情を察して深く聞いてみたら、急に謝られたので、夜美はすぐに謝罪を取り消させた。
「つまり、この人たちが勝手にいじめてきたということだね?」
「う、うん、きっと、そうだと思います」
半ば断定的に決めつけた夜美の意見に、幸彦は頷く。
「そう。だったら、この人たちにはおしおきしておかないといけないね」
「え、あの?」
夜美が過激なことを口にしたのを見て、幸彦はきょとんとした態度を見せた。
「あたしは悪い人が許せない。無駄な悪だというなら、相応の報いを受けるべきだと思う」
痛みで動けなかった三人だったが、その言葉を聞いて、三人は大慌てする。
「すまん、俺が悪かった!だから許してくれ!」
「反省している?」
「本当だ!このとおりだ!」
土下座までさせて、夜美は冷ややかに一人を見詰める。
離れたところから見詰めていると、ちらっと顔をあげた。
つまりは、そういうことだ。
夜美はスカートの中が見えないように膝をつけると、相手の顔を床に倒した。
「土下座というのはこうやるの。もっときついおしおきしてあげようか?」
「・・・!!」
もはや、言葉にもなっていない。
残りの二人も、綺麗な土下座を決めていた。
それをチラ見して、夜美は言葉を続ける。
「仲間たちはあれだけ反省している。ここで幸彦さんに本気で謝るなら、それで許してあげる」
「悪かった!すまん、多田!俺たちが悪かった!」
「「この通りだ!!」」
三人は幸彦に土下座をした。
「幸彦さん、これでいいよね?」
「あ、ありがとうございます。皆さん、もう顔を上げてください」
三人は三者三様の明るい顔を上げて、去って行った。
「これで、大丈夫だよね」
「本当にありがとうございます。あの、お名前は?」
「名乗る程じゃあないよ。それじゃあ、気を付けてね」
幸彦から礼を言われて、夜美は去った。
後日、今回の事件を起こした三人組は、先生に自主報告して謝罪した。
その態度をよしと見たのか、十分な注意で済まされた。
止めた人物である夜美のことは明かされなかったが、密かに伝達はされていた。
夜美のいる3年2組でも、男女問わずに、そのことは噂になっていた。
2年の不良三人組を止めたのは、夜美であると。
そのことを表面的にしか知らない人は、夜美を離れて見る人もいた。
一方、夜美の親友たちは、恐る恐る話を聞いていた。
「ねえ、夜美ちゃん。あの噂って、本当?」
「噂?」
「ほら、2年の不良三人組を止めたのは、夜美ちゃんということ」
「あの人たち、やっぱり2年だったんだ」
直接答えてはいないが、肯定しているも当然だった。
「舞式さんって、意外と喧嘩っ早いよね」
「そうそう、こないだも沢田と渡辺の喧嘩を止めにかかってさ」
「だってさ、勝手なことで傷つけあうって悲しいじゃない?」
「・・・すごいギャップ感じるんだけど」
「私も。こんな優しいこと言っているのに、意外と手が早いというか何というか」
「でも、男相手の手出しは早くないよね」
「それ、どういう意味!?」
「どちらかというと、お兄さんの方に手を出してそう」
「真由さんまで・・・。そんなに、お兄ちゃんが好きなように見える?」
「「「うん」」」
「そこまで言われると、嬉しいような恥ずかしいような・・・」
そんなことを言っていながらも、明らかに照れているような顔を夜美は浮かべている。
「前から思ってたけどさ、舞式さんって、どんなのが好みのタイプ?やっぱりお兄さんのような人?」
「絶対そうだよね!」
「それはない。いくら兄妹でも__」
「それはもっとないよー。きっと__」
そのように話が脱線し始めたのを見て、夜美は亮夜に対する想いを考え直していた。
一体、自分は兄・亮夜にどのような感情を抱いているのか。
好きだというのは当然だ。
愛していると自信を持って言える。
だが、それを異性として言うのは__。
どんなに考えても、答えは出そうにない。
そもそも、喬子からの質問も答えられないというのに、亮夜が異性として好きなのかと答えることも出来るはずがない。
今、言えるのは、亮夜のために、身も心も捧げられるということだけだった。
人を踏み台にする昔の教えとは真逆の、人を助ける生き方。
それが、亮夜の目指す生き方で、夜美もそれに倣った。
今回、一人救うことができた。
それが、今の夜美の小さな目標達成となった。
いずれ、兄と共に、世界の救世主となって、たくさんの人を助ける。
その前にも、助けられる人は、助ける。
世間の理不尽さに呑まれずに済んだ。
小さな満足感と、達成感を覚えて、夜美は脱線が悪化した友達に別れの言葉を告げて、二条トウキョウ中学校を後にした。
その帰路、夜美は一つ、満足気に一つのことを思う。
お兄ちゃん、夜美はまた一人、助けることが出来たよ__。
[完]
初の番外編エピソードです。
舞式夜美の普通っぽい中学生生活にフォーカスを当ててみました。
なるべく、日常感を出した一方で、夜美がすごいチート紛いなことになりました。
この様子だと、魔法学校に入学しても、すごいことになりそうですね。
キャラクターの設定が広がっている一方で、キャラ崩壊していないかなという不安に襲われつつあります。
念のため言っておきますが、夜美は少しセンスがずれている程度で、基本的な成績はかなり優秀な子です。
実を言うと、初期設定では、夜美はここまで優秀ではありませんでしたが、あれこれ考えている内に、ある意味亮夜を鼻で笑えるすごいキャラになりました。
ただし、本編でも見てて分かると思いますが、亮夜の強みは存分に活かされている他、夜美も兄を上手くたてているので、決して夜美が亮夜の上位互換なスペックではありません。
最後に、このおまけ編を読んでいただいて、ありがとうございました!