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こはるびよりの冬 作者:
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 薄灰色の雲に覆われた空。
 舞い落ちる白い雪。
 葉を落とした黒い木々の枝に。枯れた草や、茶色の大地にも雪は触れていく。
 だんだんと白が浸食する世界の中で、浮かび上がるようにある漆黒の存在。
 それを見てしまえば、胸に喜びが広がる。それはもう自分ではどうしようもなくて、小春は小さく息を吐いた。
 そして、引き寄せられるように、ゆっくりと歩いていく。
 冬の王もまたゆっくりと立ち上がった。
 振り返って、小春を見る。その目に驚きはなく、ここに来たのが小春だと分かっていたかのようだった。
 小春は冬の王の前まで来ると、その黒い双眸を見上げた。
「おはようございます、フウさま」
「また……起きてしまったのか」
「はい」
 冬の王の静かな声に、小春は微笑んでうなずいた。
 まっすぐに、冬の王の目を見る。その視界に入るだけで、好き、と思う。思ってしまう。
「フウさま。小春はやっぱりフウさまのことが好きです」
 冬の王はかすかに眉根を寄せた。
 その変化だけでくじけそうになるが、小春はぎゅっとこぶしを握る。
 ここで言葉を止めるわけにはいかない。
「春の王さまと春を過ごしていたとき、とても心が落ち着きました。安心しました。ここが小春の過ごす季節なのだと思いました。でも、フウさまがいたら、といつも思っていました。フウさまがいたら春をどう思ったのだろう、好きになってくれるだろうか、っていつも考えていました。小春は春が好きです。でも、やっぱりもう春を一番だとは言えなくなりました」
「姫……」
「小春は!」
 強引に冬の王の声を遮る。また拒絶されるのは嫌だ。すべてを言い切りたい。伝えてしまいたい。
 すべての気持ちと、決意を込めて、小春は冬の王を見る。
 小春の目に、冬の王はそれを感じたのか。軽く目を見開いた。
「小春は、次代の春の女王になんてなりません。小春はフウさまと冬を過ごします。春の王さまが言っていたのです。本当に小春が次代の春なのかどうか分からないって。春の王さまはそう思ったけど、それが本当かどうか分からないって。だったら小春は、小春がここにいる理由は違うと思うのです。小春は春の王さまの次になるためじゃなくて、ここから春の王さまがいなくなるからじゃなくて、ただフウさまと一緒にいるためにここにいるのです。小春がここにいる理由は、それだけです。それだけでいいのです。小春は、フウさまと一緒にいたい」
 小春は冬の王の手を握った。冷たく優しい手を強く握る。
「フウさま、小春はまた冬に目を覚ましました。春を生きるはずの小春が冬に目を覚ますのは、フウさまと過ごすためです。フウさまはそう思いませんか?」
 次代の春というなら、小春は冬には目覚めないはずだ。
 それなのに前の冬も、今も、小春は目覚めている。
 それが、すべてだ。
 それがすべての理由を、小春の願いを後押ししてくれる。
 小春は冬の王を見つめ続ける。
 そうだな、とうなずいてほしかった。受け入れてほしかった。しかし。
「俺には……なんとも言えないな」
 冬の王は小春の目を見つめ返して言う。
 それはごまかしもなにもない、冬の王の本心の言葉だった。
 ――受け入れてはもらえなかった。
 冬の王の手を握っていた、小春の手から力が抜ける。
 しかし、その小春の手を今度は冬の王が掴んだ。とても優しく。
「姫の言うことが本当に正しいのか、俺には分からない。ただ……そうならいい、とは思う。春の王がいなくなるからではなくて、もっと別の理由で姫がここにいるのなら、それが一番いい」
「……それは、春の王さまがいなくなるのが嫌だからですか?」
「もちろんだ。だが、それだけではなくて……」
 ふと、冬の王が目を細めた。
「一人を寂しいとも思わないし、冬を眺めることに飽きることもないが、それでも姫とともに冬を過ごすことも幸せだと思う」
 小春は息をのんだ。期待が胸の中で暴れ出しそうだ。
「フウさま、それは……」
「眠くなるまでなら、姫の好きに過ごせばいい」
 素っ気ない言葉だ。
 でも十分だ。十分だった。
 小春は、冬の王に受け入れられたのだ。
「フウさま!」
 涙がにじみ、ポロポロと涙はこぼれた。
 冬の王は目を細めると、冷たい指で肌に触れないように、小春の涙のしずくだけをぬぐう。
 好き、と小春はまた思う。
「フウさま、大好きです!」
 だから、小春は泣きながら笑った。
 外では薄灰色の雲から光がこぼれはじめる。
 それは世界を暖かく包む日差しだった。


   ※ ※ ※


 小春日和こはるびより――冬のはじめのころの、春に似たのどかで暖かな天気のこと。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

この作品は「冬の童話祭2018」に参加しています。

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