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 ぷーぷー。ぷーぷー。


 小春はゆっくりと目を覚ました。

 起き上がって隣を見れば、ぷーぷーと独特の寝息をたてる春の王が眠っている。

 ボーっとした頭はだんだんとはっきりして、そして理解した。

 春はもう過ぎているのだ。

 それならば今はいつなのだろう。

 小春は期待と不安が入り混じった胸を押さえる。

 ベッドから降りることが出来ずに、小春は目を閉じて顔を伏せた。


『姫は、春だ。冬と交わることはない』


 深く、心の奥底に浸透する静かな声がよみがえる。

 沈む気持ちと一緒に、背中まで丸まった。額をベッドに押し付ける。

(フウさま、フウさま……)

 拒絶されているのに、それでもどうして求めてしまうのだろう……。


『小春はどうしたい?』 


 春の王の温かく優しい声が浮かぶ。

 小春が眠ってしまう直前まで、春の王は言っていた。

 小春に伝えようとしていた。


『自分がここにいる理由はなんだと思う?』


「王さま、小春は……」

 小春は顔をあげた。

 隣で眠る春の王を見る。

 気持ちよさそうな寝顔。風船のように大きな体が、ぷーぷーと寝息に合わせて上下する。

「王さま」

 小春は眠る春の王に抱き付いた。

「大好きです」

 心をこめて、伝える。聞こえていなくても良かった。それでも春の王が優しく笑ったように見えて……。小春の背中を押してくれる。

 小春はベッドから飛び出した。

 薄暗い円形の部屋をぐるりと見回す。

 思った通り、願い通り、春の王の隣のベッドが――冬の王のベッドが空いていた。

 今は冬だ。

 小春はまた冬に目覚めた。目覚めてしまった。

 その事実もまた、小春の背中を押した。

 小春は螺旋階段を全力で駆け上る。

 一番上に行けば、先の見えない柔らかな光がある。

 その先にあるものは、小春の愛おしい漆黒の存在だ。

 小春は光の中に飛び込んだ。



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