バカ息子とクソ親父
久しぶりの投稿です。
誤字脱字があったらすみません。
「親父!親父!チクショー」
異世界・メドラードでは死者を弔わずに丸一日が経つと、廃人へと変貌する。
廃人になった人間は自分の親族を殺し、殺し、殺し、不死者王となっていく。
そのため、メドラードには死者を弔うための役割を与えられた3人の墓守がいる。
【火葬の墓守・指田 黎人】
【水葬の墓守・紗江咲 香菠】
【土葬の墓守・金沢 茜】
また、この3人にはある特権が認められている。
不老不死の特権・生きる屍。外部からのいかなる接触に対しても体は一切傷つかず、合計で1000人の人を弔うまで、死ぬことはできない。
そして、この3人は必ず異世界の住人から選ばれる。劇的でいて未練を残して死んだ者の中から……。
険しい山々に囲まれた森の中に奥深くに、火葬屋・鳳凰が聳え立つ。
今日もまた、火葬の墓守の元へ一人の客が現れた。
「サシダ・レイトは入るか!」
「いらっしゃいませ。火葬をお望みでしょうか?」
「お前がサシダ・レイトか?よし。頼む、親父を楽にしてやってくれ」
「──かしこまりました」
心地の悪い営業スマイルをいつもの顔に戻して、俺はマッチと腕輪を持って外に出る。今回の客は死者の親族。焦り方からみて、死後2日というところか。
「親父さんの場所は?」
「え……山の麓の民家に」
先ほどまでのマニュアル対応からの一転に戸惑う時間を与えずに、すぐさま山を駆け下りる。
20年間も山にこもると足もかなり早くなる。
「ここか。火葬屋・鳳凰です。親族様のご依頼により弔いに参りました」
「は、墓守様!早く、早く夫を」
「わかってます。いますぐに儀式を行います。弔書はありますか?」
「ここに」
「では、火葬の墓守・指田 黎人の名の下に、儀式を執り行います」
『『クリメート!』』
◇ ◇ ◇
「ついた……か」
俺の能力、心情介入。死んだ人間の深層心理に介入して生前の記憶を体感する。死人を冒涜するかのような力。
こんなことをしなくても一瞬で火葬することはできる。しかし、この過程は俺が人を埋葬する上で最も大事にしている過程だ。
「上映開始」
◆ ◆ ◆
「このバカ息子が!いつまで親のすねをかじって生きているつもりだ。とっと自立せんか」
「ったく、言われなくてもわかってるよクソ親父」
親父は息子がでっていたことを確認すると自分の部屋にもどった。
親父の部屋は散らかっており足の踏み場もない。でも、親父はこれが定位置ならしく場所を動かせば怒鳴るし、さらに散らかせばもっと怒鳴る。理不尽な大人だ。おれは絶対あんな大人にはならねぇ。
──10年後
ついに結婚だ。ざまぁみろクソ親父。おれは自立したぞ!
「親父見たか!これがおれの本気だ!親父のすねなんかかじらなくても、おれはおれの人生を生きていける。どうだ!」
「そうだな」
おれのやることなすこと全てにイチャモンをつけてきた親父がその時だけ、なにも言わなかったのを覚えている。
そして、親父は死んだ。
──20年後
「このバカ息子が!」
おれは父親になった。そして、息子は今やあの頃のおれだ。おれのことをクソ親父と呼ぶ。
なんだ、おれは結局あんな大人になっちまったのか。
「クソ親父が今に見てろ!あっと言わせてやるからな」
息子はそう言うと、素早く出て行った。ハンターという職についた息子は毎日、森に入って猛獣を相手に戦っている。おれはそれが許せなかった。
親にもらった命を粗末にするな!
そう言いたかったのだ。
「クソッ。あの野郎、今に見てろよ……」
息子はその日、気性が荒れていた。だからだろう、おれは心配だった。
息子をつけて森に入った。息子が危ない目に合えば身をもってそれを防ぐために。
案の定、息子は獰猛な猛獣に足元をすくわれた。振り下ろされた猛獣の一撃をおれは止めにかかった。
『これにて イシカワ・ゲン 完』
◆ ◆ ◆
「終わったか。ことの結末はわかった。再構築、イシカワ・ゲン」
墓守の言葉とともに周囲から光の粒子が集まり真っ暗な空間に一人の老いぼれた男が現れる。
彼こそが、イシカワ・ゲン。
「イシカワ・ゲンさんですね。おれは、火葬屋・鳳凰の指田黎人です。あなたを弔いに来ました。弔書に署名と遺言をお書きください」
「……わかりました」
イシカワ・ゲンは全てを理解した上で遺言を書いている。元の世界では死人は絶対に蘇らない。このメドラードでも例外ではない。しかし、この空間だけは別だ。
あまり知られていないが、墓守は不老不死の特権以外にも1つ特権を持っている。おれ場合は、この心情介入だが他の墓守も何かしらの死者と交流できる特権がある。
「お願いします」
「息子さんに対してでいいんですか?」
「はい」
これはおれの能力に対する制限。遺言は一人にしか宛てられない。
「ではお預かりします。あなたのこれからに祝福があらんことを」
『『ピリオド!』』
◇ ◇ ◇
「もどったか」
おれの手には遺言をいれた弔書と使った跡が見えるマッチがあった。
「ありがとうございます」
「こっちも仕事ですから。それよりバカ息子さん!遺言です」
怪訝そうな顔をする父親そっくりのその男はゆっくり弔書を開け、遺言を黙読する。
内容はなんとなくわかる。
タカシへ
元気してるか?
父さんは少しの間、旅に出る。母さんを泣かすんじゃねぇぞ。
お前をクソ息子なんて言ったがな、お前は昔のおれなんかよりもずっと強い男だ。自慢の息子だ。
だからな、体には気を使ってくれ。お前の命はお前だけのものじゃないんだ。それだけはわかってくれ。
クソ親父より
「これにて儀式を終了します」
息子の目には涙があった。
ささやかですがチート頭脳1000PV突破です。
題名は変わりましたが、気にせずに読んでください。