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異世界へ来たのだから墓守として過ごしてみよう  作者: 東条李禹
現実世界編
1/4

彼女との約束

自信の新作です。

こちらもまちまちやっていくので、応援お願いします。

 

 8月14日・午後2時15分


 中学生最後の夏休み。

 俺は、いつものように墓に訪れる。

 夏を制する者は受験を制すと言うが、俺には受験などは関係ない。この墓さえ守れればフリーターでもなんでもいい。

 この墓は俺の親族などではない。この墓に眠るのは、俺の師匠にあたる女性の墓だ。

 俺がこの女性と一緒に過ごした時間は、両親が出張に行っている間に預けられた5日間だけだ。

 しかし、この5日間で俺の人生は変わった。


◇◇◇


 去年の夏・8月21日・午前11時12分


「君!君は人が死んだらどこに行くと思う?」


 唐突の質問。預けられてから4日が経っただろうか。

 変わった環境に馴染んでいた俺は、唐突すぎる質問に絶句した。

 人が死んだらどこへ行くか。宗教によって違ったりするが、あの世とでも言うべきだろうか。

 昔の人々はあの世とこの世の区別をはっきりと線引きしていなかったようだが、現代では、あの世とこの世では越えられない線があると考えられている。

 よって、俺の答えはこうだ。


「あの世ですかね」

「つまらないなぁ。君は」


 即答で言われた。せめて数秒おいて、考えてから言って欲しかった。少し落ち込むじゃないか。

 あの世という定番がダメなら極楽上土だろうか。

 この問いに俺は正確な答えを出せないな。


「わかリません。蓮さん」


 蓮さんというのは、預けられ先の家主だ。

 容姿端麗で頭脳明晰の大学4年生、れん 奏晴そうは。一流大学をトップの成績で合格していて、大学四年生にして様々な資格を取っている。言わば将来を約束されたエリートだ。

 しかし、彼女は根本的な部分が欠落している。良く言えば考え方が特殊な人、悪く言えば変人。

 常人では考えないことばかりに、というか、そんなことにしか興味がない。

 人が死んだらどこに行くという質問もその一環なのだろう。


「そうかぁ。わからないかぁ」


 蓮さんは微笑みながらそう言った。

 小馬鹿にされいるようで少し腹が立つ。

ならば蓮さんには、正確な答えがわかるのだろうか……いや、わかるはずがないだろう。それでも蓮さんは自分なりに答えを出してしまうのだ。


「私は墓だと思う」


 また始まった。

 この4日間で合計7回、流石に退屈だ。まぁでも、今までの答えにしてはかなり平凡な方か。

 墓、墓石・納骨棺カロート・境界石・外柵などから構成される死者の霊を祀ったり慰めるためのもの。というのは常識だが、非・常識人の蓮さんがそんな答えを出すのは珍しい。

 雪でも降るのではないか。短い付き合いではあるが、俺はそんなことを考えていた。


「墓に入った後はどうなるんですか?」

「そりゃぁ…異世界に転生するに決まっているだろっ!」


 やってしまった。

 また話が訳の分からぬ方向に行ってしまった。

 墓から異世界って、死んだ人みんな転生しちゃってんじゃないか。突っ込む気にもならねぇ。

 だいたい、人間は必ず死ぬ生き物。人間だけじゃない、生きる物ということは時期に死ぬ物ということだ。

 この世に生けるすべての物には寿命がある。その儚い一生の中で何を成し遂げられるか、それが生き物の本望じゃないか。今から死んだ後考えるなんて、バカバカしい。


「死んだ人は生き返りません。例え異世界だろうと、転生などはしません。少なくとも僕はそう思います」


 口調を強くして言った。

 つい先日に、最愛のペットであり家族であった、猫のタマを失った俺はどうにも虫の居所が悪い。八つ当たりではあるけれど。


「君。君の考えは何を根拠に言える?」

「根拠?そんなもの常識的に考えれば、」

「常識は根拠にはならないよ」


 反論の途中で口を挟まれる。

 確かに常識的に、というのは根拠にはならないだろう。しかし、そちらには明確な理由があるだろうか。あるとすれば、それは、蓮さんの思考だけなのだろう。

 蓮さんが自信を持って何かを言えるのは、常識的という不特定多数の考えが混じったものが、自分の考え抜いた思考に敵う訳がないと確信しているからだ。

 俺はそう思う。

 ここで、そっちにも根拠がない、と言うのは程度の低いイタチごっこだ。


「そうですか」


 頭脳明晰の蓮さんに口喧嘩なんてとんでもない。軽く返り討ちにあうだけだ。

 そう考えると、これが一番の選択だろう。残りの1日間はできるだけ蓮さんの質問には関わりたくない。


◇◇◇


 8月22日・午前6時15分


「おはようございます。蓮さん」


 早起きした俺は着替えてリビングにいた。

 蓮さんの家は意外と普通で、都内の3LDKのマンションだ。

 時刻は午前6時を過ぎた。いくら早く起きても、蓮さんは決まってリビングでコーヒーを飲んでいる。

 本人曰く、これがないと始まらないらしい。最後まで早起きで勝つことはできなかった。


「おはよぉ〜君!」


 なぜ俺が『君』と呼ばれているかは謎だが、初対面であった時からずっと君のままだった。

 両親と蓮さんのつながりは親戚ではなく、ただのママ友繋がりならしい。

 今日の10時には、俺の親が迎えに来る。蓮さんと過ごせる時間は後わずかだ。

 しっかりと言っておきたい。お世話になりました、と。少し照れくさいけど言っておきたい。


 同日・午前8時50分


「君。散歩いこっか!」


 突然の誘いであったが、断る理由もみつからない。

 軽く頷いて返事をし、準備をするために急いで部屋に戻る。

 片付けていたキャリーバッグからお気に入りのジャケットを取り出して部屋を出る。


「準備できました!行きましょう」


◇◇◇


 同日・9時21分


 見慣れてきたこの景色とも今日でお別れ。

 そう考えると妙に込み上げてくるものがある。

 蓮さんはどう思っているのだろうか。俺にはわからない。何気ない顔で歩く彼女の横顔に釘付けになっていた。


「君!人は死んだらどこに行くと思う?」


 再びの質問に俺はまたもや絶句した。

 これは不快な絶句ではない。考えるための間、とでも言おう。

 ここで言うべきことは決まっている。最後ぐらい蓮さんの言う通りになってもいいだろう。

 

「えっと‥墓ですか?」

「そう。よくできたな君。これで及第点といったところか」


 合格か。

 一体何に合格したのだろう。これをきっかけにまた会うこともできるのだろうか。

 期待に胸を膨らます俺とは裏腹に、蓮さんは冷たい一瞬冷たいを目していた。

 そして、いつも通りの明るい目に戻ると微笑みながらこう言った。


「ありがとう。君、いや、指田さしだ 黎人れいと。あなたは良い人間だ。死の怖さも少なからず知っている。これから私は死ぬかもしれない。死んで異世界に行くかもしれない。そして、異世界で新たな人生を始めるのかもしれない。そこで、君に相談がある。私の墓守になってくれないか?」


 今までとは違った、畏まった喋り方に俺は驚きを隠せない。

 話の内容も現実離れしている。ついにおかしくなったか。

 第一に、墓守ってなんだよ。なんで平気で自分が死んだ後の話するんだよ。クソッ。


「…やめてください。死んだ時の話なんかしないでください」

「いいから聞け。指田 黎人。私には時間がないんだ。とにかく、私は死ぬかもしれない。というか君もだ。どちらかが死んでどちらかが生き残る。生き残った方がその人の墓守になるんだ。いいね!」

「いいね!じゃないですよ!何言っているんですか!蓮さ…」



「「「ドーーーーーーン」」」



 大きな物音がする。地震だろうか。それも通常の規模じゃない。立つことすらできない。

 こんなビル街でそんな地震起きたら。


「えっ?」


 耐震用の工事がされたビルでもさすがに限界がある。

 目の前に広がるのは、ビルの一部。人間なんぞ、軽く潰せてしまうぐらいの大きな瓦礫だった。その真下には俺の影。

 ヤバい。このままじゃ下敷きに。


「約束。守れよ君!」


 そして、蓮 奏晴は俺の代わりに下敷きになって死んだ。

先日、風祭トキヤ先生とコラボさせていただきまいた。

まだまだ、新入りですが頑張ります。(受験勉強も)

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