王女奪還2
モンスター図鑑
№003
『ホムンクルス』
「愚者の石」により生まれし怪物。
人間や他の動物の体に埋め込むと宿主を飲み込み怪物に変える。
形は統一されていない。
ホムンクルスを最初に作り出したのは古代の錬金術士だったと言われている。
「愚者の石」で作られるホムンクルスは寄生する人間の本来の性質と精神により姿や能力を変える。
寿命は長くなく、本体に込められた魔力が尽きてしまうかまては破壊されることで消滅してしまう。
完全なホムンクルスを作るのには「賢者の石」が必要だと言われる。
横にいたグレイの姿がかすれる。
紫の閃光。
男の頭上に出現したグレイが紫に光る大剣を振り落とす。
祭壇が木っ端微塵になり粉塵を撒き散らす。
「危ないじゃないですか。」
舞い上がる粉塵を、男が抜け出た。
全身の死に装束は全くの無傷。
男の右腕には何かを抱えていた。
「はっ!」
気合いと共に突風となって走り込んだアダスが刀で斬りかかり、男の後ろからグレイが大剣を突き出す。
男は軽く左手の甲でアダスの斬り込みを横に反らし、グレイの突きを横に跳んで避けた。
「話をしたいのですが……」
もう一度後ろに跳んで祭壇から降りて下の床に男がフワリと着地する。
「この方を巻き込みたくなければしばしお時間を頂戴したい。」
男が右腕に抱えているものを二人に見せる。
「!?」
男が抱えていたのは気を失っている美しい、ケイトにそっくりの女性だった。
「生け贄に傷がつくのは魔王様が嫌いますので……」
男が指を鳴らすと床に赤い魔方陣が現れる。
「彼女を上に…」
魔方陣が光、蔓が生え出して女性を巻いて天井にあるシャンデリアの上に運び降ろした。
「…さて、いつでも来ていいですよ。」
男が笑った。
「・・・強ぇ。」
オッサン、グレイの攻撃が通用しないってどんだけだよ!
「・・・・お前、ただの魔物じゃないな。」
グレイが自分の顔にある×型の傷に軽く触れて
「・・・あぁ、そうか。お前は魔王とは血縁関係、いわゆる魔将と言うところか。」
グレイの声には、軽い怒りに似た響きがあった。
男が死に装束を翻し、翼をはためかせ名乗り上げる。
「そのとおりです。私は好奇心ゆえに他を滅ぼす者、魔王様の再従兄弟にあたる、キュリアスと申します。」
言葉が意味する事実に二人の動きが止まる。
ヤバいくらい強いのはわかったけど…再従兄弟ってすごいのか?
正直、動きが止まったがアダスにはあまり理解ができていなかった。
「どうんすんだよグレイ?」
「俺に聞くな。しかしここで俺達が退いたら未来が変わる。」
「ケイトの存在も無くなるって訳か……」
アダスが刀を構え直す。
「未来が変わる?興味深いことを話してますね。」
キュリアスと名乗った男が喋りだす。
アダスとグレイの間で。
「なっ!?」
「・・・・・。」
アダスが刀を振るが、キュリアスは軽く避けてその場を逃げる。
「貴方達とはどうも戦う気がしませんね。」
アダスの追撃の刃も身をひねってかわすキュリアス。
「そこだ。」
「!」
一瞬でキュリアスの横に移動したグレイが大剣を振るう。
キュリアスは肘と膝の間で大剣の刃を挟んで受け止める。
そのまま、受け止めた肘と膝を軸にしてグレイの顔面に電光の如く蹴りを放つ。
「ふん。」
グレイが蹴りを左腕で受け止め、素早く腕をまわして脇挟み込んだ。
「おやおや、これは困りました。」
「オラァァァッ!」
アダスが刀を振る。
キュリアスが空いてる片手をアダスに向けた。
「!?」
掌に赤い魔方陣が現れ、波紋生み魔方陣の中心から怪物の異形な腕が顕現する。
キィィィィィン!
異形な腕がアダスの刀を受け止めた。
「硬ぇ!」
異形な腕とアダスの刀が拮抗する。
「オォォォォォッ!」
闘気術!全開だぁっ!
刀が白く、白から青に変化して輝き、異形な腕に刃が食い込みそして切断。そのままキュリアスへ斬り込む。
「ふむ、なかなかうまくいきませんね。」
キュリアスがグレイの大剣を挟んでいた肘と膝を放し宙で回転。
アダスの刀をかわし右足でアダスを蹴り飛ばし左足でグレイを蹴り飛ばすが、
「効かん!」
グレイが大剣の側面で受け止めた。
大剣ごと後方へと足を引きずり耐えきった。
アダスはわざと転がって体全体に衝撃を分散。
頬に触れた石床の冷たさを一瞬感じながら、回転して起き上がる。
「・・・・・。」
キュリアスがアダスとグレイに片手を向ける。
かざしたキュリアスの両手に、多重の魔方陣が展開される。
「貴方達とは殺り合いたくないので……自らは手を下しません。」
笑みと共に告げると同時。
多重に展開された魔方陣に波紋が生まれ、百匹以上の魔物や怪物が溢れ出た。
「・・・今更ですか、貴方の大剣を見て思い出しました。我が主、魔王様の思い人ですよね。」
「・・・・・黙れ、思い出したくもない。」
グレイの頭から足先まで青白い光に包まれ、大剣が紫のオーラに包まれる。
グレイが放つあまりにも膨大な圧力によりグレイの周りを覆う空気が歪んでいる。
ぐ、グレイがキレてる……ていうか、全身を闘気で覆ってる!?
あくまでも武器強化と身体部分強化用の術であり、闘気術を完全に全身に使うとは聞いたことがない。
げんに、アダスは今まで闘気を纏わせていたのは刀か腕、せいぜい足腰しか闘気を纏わせたことしかない。
「・・・ハァ~~……」
グレイの姿が消えた。
肉が砕ける音、弾ける音、破ぜる音。
キュリアスの周りに召喚された魔物や怪物が確実に一匹一匹、確実に肉の塊となり塵にとなって散っていく。
「み、見えねぇ……」
いくら目を闘気で強化して見ても、グレイの姿を捕らえることができない。
「困りました……少し、ふざけすぎたみたいです。」
予想以上の出来事だったのか、キュリアスの額に汗が垂れているのが見える。
「死ね。」
キュリアスの前に姿を現したグレイが大剣を振り落とす。
「いや、死ぬわけにいけませんから。」
唸りをあげて迫る大剣を、キュリアスは両手で挟んで受け止める。
グレイの怪力によりキュリアスが膝をついた。
「何ていう馬鹿力…貴方、本当に人間ですか?」
このままグレイが押し切るかと思ったその時、
「お待ちなさい!!」
部屋の空気を震わす一喝に、キュリアスとグレイとアダスが上を見る。
シャンデリアの上に、王女レイナが立っていた。
緑の瞳は光を放ち、握りしめた手に焦げた縄が握られていた。
シャンデリアにある火の灯った蝋燭で焼き切ったのだろう。
たくましい王女だな。
さすがケイトのご先祖様。
アダスがそう思った時、レイナが飛び降りた。
グレイの真上に
「なっ!?」
グレイがとっさに大剣を手放し、両腕でレイナを受け止めた。
その間にキュリアスが後ろに下がり安全圏に逃げた。
「御身は何を危ないことをするのですか!?」
怒るグレイの瞳に、レイナが映っていた。
レイナは、グレイを見つめ返す。
「今は私の身を案じている時ではありません。」
「いや、しかし…」
「黙りなさい。今話しをしているのは私です。今あなたに話す権限を与えません。」
「・・・・・。」
レイナの一喝にグレイが黙り込んでしまった。
やっぱ似てるな……ケイトに…いや、それ以上か。
てか、怖いなうん。
遠目で見て思うアダスであった。
レイナが後ろを向いてキュリアスを見る。
「キュリアスさん、あなたも責任があります。戦いたくなかったら私を誘拐しない方が効率的ではなくて?」
「・・・・・。」
言葉のマシンガンにキュリアスが黙る。
額には冷や汗が流れる。
「そもそも、何で私が魔王の生け贄なのですか!他にも人がいるでしょう?」
叩きつけられる質問。
キュリアスがまぁまぁ、と手で表現しながら口を開く。
「いや、…あの……すみませんでした。」
謝った!!悪魔を謝らしちゃったよ!?
「謝るぐらいですむとお思いですか!どれだけの人に迷惑をかけているのかお分かりになって!?」
レイナの猛攻に、再びキュリアスは言葉を失う。
レイナを抱えるグレイの瞳には同情の色が浮かんでいるではないか。
「・・・か、帰ります。」
たじたじになったキュリアスの足下に赤い魔方陣が現れた。
「実際、私の狙いは貴方を見ることだったのですが…ロイス様………」
キュリアスが魔方陣の中に消えた。
ん?……ロイス?
アダスが耳を疑う。
「ところでロイス。この方は誰なのです?」
「ああっと、こいつは……」
グレイがアダスを見る。
「・・・レイナ様。しばしお時間をいただいてもよろしくですか?」
「かまいませんわ。」
レイナがそう答えると、グレイがアダスに手招きして部屋の角に連れてく。
「いや~、悪いな今まで黙ってて。俺はお前の叔父さんだ。」
「そーなんだ…っておい!!軽いだろ!何か色々と説明とかあるだろ普通!?」
アダスが平手でツッコンだ。
「・・・・・なんか面倒臭くてな。」
「酷っ!面倒臭いで済ませやがった!!親父達がどれほど……」
「まぁまぁ、落ち着け。」
グレイのことロイスがアダスを手で制した。
「兄さんや義姉さんには心配かけてすまないと思ってるが……」
「思ってるが?」
「帰ろうにも帰れなくてだな。」
「た、確かに……」
忘れてた……そういえば俺、過去にいるんだっけな。
「でもまぁ、帰る方法は無くはないんだが……」
グレイが頭をかいた。
「・・・・・は?」
「いや~、お前達はまだ帰れるはずだが…あれ?気づかなかったのか?」
「はぁー!?気づくも何も知らないしそんなこと!つーか、何でそんなこと知ってだよ!?」
「・・・後でな。」
グレイの雰囲気が変わった。
「・・・・魔王は今俺を見てるしな。」
グレイの空色の目には苛立ちがあった。
視線は東北に向けて斜め上方に向けられていた。
古い修道院の地下室を貫き、東北の異国へと。
東北にある古城バルコニー。
青い焔の前。
冷たい熱を背に、人骨でできた玉座があった。
笑い髑髏の肘掛け。
その肘掛けに置かれる肘。
頭蓋骨を撫でる白い手。
真っ黒なブーツ、続く大理石のように白くて美しい足。
黒生地の袴には、紫色のスミレが儚く咲いていた。
着物の襟元は大きく下げられ、白い肩が覗くほど乱れていた。
長く美しい紫の髪と、血色の唇。
唇に浮かぶは魅力的な笑み。
隣に控えているのは額に角を持つうら若き女性は、渋い顔をしていた。
「リリス様。まだあの殿方に思いを寄せているようですね。」
「ナタニア、少し黙れ。」
玉座に座る女が腕を軽く振った。
魔将のナタニアが宙に浮き引き寄せられ、迎えたのは女の白い手。
ナタニアの首を魔王リリスの片手が掴み絞めりあげた。
「ロイスこそ妾の運命の相手じゃ。いくらお主でも文句を言うなれば殺してしまうかものぅ。」
気管締め付けられ、呼吸ができなく、口をパクパクさせる。
首から手を放し床に転がす。
首を押さえてナタニアが咳き込む。
「す、すみませんでした。魔王様!」
呼吸が落ち着き、リリスの前にひれ伏すナタニアが言い続ける。
「私めのような無能な者に、気高き魔王様の恋に不満を持ったことを恥と思います。誠にすみませんでした!!」
他にいた二人の魔将は、ひれ伏すナタニアに哀れな視線を向けていた。
女魔将は健気だった。
「お主には恋が必要じゃのう。キュアリスなんかどうじゃ?」
白魚のような指が、ナタニアの顎を撫でる。
「か、彼は糸がついてない凧みたいな人ですよ…あたしには……」
「・・・何じゃ、脈ありか。」
リリスにからかわれた気づき、顔を紅くしたナタニアが顔を下に向けた。
恥ずかしさのあまり黙り込んでしまった。
「さて、愛しのロイスを見るためにキュアリスを送って正解だっのぉ。次は直に会いたいものじゃ。」
リリスは顔を赤くしてひれ伏すナタニアを放置し、遠くを見据える。
狂気と愛に歪む、女魔王の口もと。
遠くの王国地下から見上げる鋭い目。
見えぬはずのリリスとグレイの意志が交錯する。
「・・・まぁ、いずれ直接会うことになるじゃろう。その時は愛し合うじゃろうかてな♪」
リリスが自分の頬を撫でる。
「あぁ、早く会いたいのぉ~。」
リリスが指を鳴らすと同時に灯りが消えた。
後には、笑い声と、紫色の残像だけが漂っていた。
「・・・・・おい………!」
「・・・・・お~い!」
「・・・ん?」
ロイスは目線をずらした。
「おっ、やっと気づいたみたいだな。」
アダスがロイスの真横で手を振っていた。
「・・・近いな。」
「ふぐっ!?」
ロイスがアダスの顔を押して遠ざける。
「そろそろ王国に帰らなきゃな。」
ロイスがアダスを突き放して王女レイナの方を向く。
「王女様、帰るとしましょうか。」
「その前にあの青年は何方なんですか?」
「あぁ、あいつは甥です。」
気軽にロイスが答える。
「あら、あなたに甥なんかいたのですね。」
レイナがアダスを見る。
「であなた、お名前は何て言いますの?」
・・・ケイトとまったく同じ顔でこうも真面目に聞かれるとなんか……つらい。
「あ、アダスです。ルジー・アダスとい、言います。」
ついぎこちなく答えてしまったアダスであった。
ひぇ~なんかやりにきぃ~!
「アダスさんですか…確かにロイスと同じ瞳ですね。」
レイナがぐいぐいとアダスに顔を近寄らせて瞳を覗いてくる。
「ちょっ!近っ!?」
アダスが後ろにずり下がり、距離を取る。
「フフフ…なかなか良い反応をしますね。」
「王女様、甥をからかわないでくださいよ。あなたの顔を見てリアクションをするには訳がありましてね。」
アダスとレイナの一方的なやり取りを見たロイスがアダスに助け船を出してくれた。
「訳とは?」
「城に帰ったら話します。」
「アダス。」
城の門前までロイスがアダスに声をかけた。
「何だよグレ、……叔父さん。」
「ハハ……言いにくそうだな。いつもどうりグレイでいい。」
「悪いな。で、グレイ何か用?」
「俺は城に入ったら正式に王女が戻ってきたことを王に伝える。その間、お前は女王の部屋に行け。日が出ると同時にケイトが現れるはずだ。」
そう言ってグレイが東の空を指を指す。
確かに星々が消えていき、夜空が徐々に薄れていくのがわかった。
「おうっ!わかった。・・・・・
つーか、何でそんなことわかるんだ?」
「今は気にするな後で話してやるよ。」
「・・・・・コホン。」
二人の間にいたレイナが咳払い。
「二人で仲良く話すのは結構なことですけど、私を忘れないでいただきたいですわ。」
「いやいや王女様、忘れてなどおりませんよ。ところで、ここまで来る間に説明したこと覚えてますか?」
「覚えてますわ。今、私の部屋に私の子孫がいると言う話でしたわよね。」
「・・・もう少し詳しく話したのだが……いいでしょう。」
ケイト……今行くからな!
グレイとレイナのを置いて城の門をくぐったアダスはまっすぐに女王の部屋へ歩いていった。




