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鵺と狼犬

[時の王国]は元々、山を柱として建てられた王国なので王国領域から外である領域の周りは広葉樹より寒さに強い針葉樹の方が多く朝や夜の空気が冷える時間は霧に森が包まれている。

この森が王国周辺にあるため、[時の王国]を旅人達の間では<霧の王国>と呼ばれていた。


二人が門をくぐり森に入った時には地面と水平線に霧が絨毯のように出現していた。

まるで、雲の上に森があるかのように感じられる不思議な光景だった。



「ここで少し休むか。」


しばらく散策したアダスは大木の根元に腰を下ろしてケイトに促した。


「結構歩いたもんね。」


ケイトがアダスの横に腰を下ろした。


「しかし何だ?この不気味な静けさは。何の気配も感じねぇな。」


アダスは手の甲で額に浮かぶ汗をぬぐった。


「そうかな、森って静かなものじゃないの?」


ケイトが大弓の弦を張りながら答えた。


王国領内に林はあるが森がないからアダスやケイトが森に詳しいわけがなかった。


ん~森ってこんなに静かなもんなのか?


「グオオオオオオオオッ!」


アダスが頭を横にひねったその時、どこからともなく力強い獣の咆哮が霧が包む森に響き渡った。


「あの咆哮、大物がいるみたいだな。」


「ワクワクするね♪」


と言いながらケイトは矢筒から一本矢を引き抜いていた。


バキバキッ!


遠くの方から木々が押し倒される音が徐々に近づい来る。

アダスは鞘から愛刀を抜いた。

もう一刀は腰に下げたままだ。

まだ二刀を使うイメージが湧かねーしな。


バキバキッ…………………


木を押し倒す音が止まった。


ケイトが音が近づいてきた方へ向けて矢の鏃を向ける。


「出てきな…」


ドオォォォンッ!!


前にあった木が吹き飛び二人の頭上を越えて大木にぶち当たり砕け散った。


「な、何だこいつ!?」


アダスが呟く。


二人の目の前に現れたのは民間人が住む家一軒ほどのでかさを誇る怪物、魔獣がいた。

魔獣の姿は異様で頭が猿で胴が狸、四肢が虎で尾が白蛇。

猿頭と尾の白蛇から放たれる瞳によるプレッシャーは重力となって一時的動きを止める。


しかし、アダスは魔獣の禍々しい瞳の奥に怯えがあるのが見えた。


何だこいつ……一体何に怯えてんだ?


「・・・東洋のキメラ、幻想種か<鵺>。」


ボソッとケイトが呟く。


「ん、何だって?」


「鵺だよ。前、学園にあった<怪物の書>に書いてあったのを思い出したんだ。」


そう言えばこいつ、いつも俺が昼休みの時間に相手をしないとプリプリ怒りながら読書棟に行ってたな…


なんてことを思い出していたら


「オオオォォォッ!」


鵺が速度を落とさず二人に突っ込んできた。


「アダスこれ掴んで!」


ケイトが急いで予備の弦を取り出し、先端をアダスに差し向ける。


「おうっ!」


アダスはケイトが何をするのかを理解し、弦を受け取りケイトの顔を見て頷いた。


「まかせろ。」


鵺が一歩踏み出したその瞬間、二人はお互い左右逆の方向へ走り猛スピードで木の幹に弦を縛りつけ弦を鵺の足首ぐらいの高さまでピンと張った。


ただ前に走るだけの鵺は前足を弦に引っ掛けて派手に転倒。


鵺の転倒による勢いのあまりに森の四分の一が震え、森で静かにしていた鳥達が空に舞い上がった。


「よし。」


「やったー!」


ケイトがアダスの方へやって来て片手を上げてきたのでアダスもそれに応じ片手を上げハイタッチをした。


その時、


「ガァァァァァアッ!!」


怒りのあまりに唇がめくれた鵺が立ち上がり、白くて目立つケイトに唸りながら襲い掛かる。


「えっ!?」


あまりの急展開でケイトの動きが鈍り逃げ切れない。


間に合わない…ならっ!


「ケイト!」


ドンッ!


「うわっ!」


アダスがケイトの体を横に突き飛ばし


「ふんっ!」


振り落とされる鵺の前足をアダスが刀の峰で負担をかけないで横にずらし受け流した。


「こっちだエテ公。」


アダスと鵺が対峙する。


「ガァァァァァッ!!」


鵺がアダスに再び腕を振り落すため上に持ち上げた瞬間、一本の矢が風を切り鵺の右目に深く突き刺さった。


「ギャァァァァァッ!?」


鵺の動きが一瞬だけ止まった。

アダスはこれを好機と見て鵺の懐に潜り込み腹に一太刀入れて素早く下がる。


「ガァァッ!」


間一髪、反撃に出た鵺の前足がアダスを捕え損なった。


後ろに大きく跳んで距離を取ったアダスが矢が飛来した方を見る。

そこには木に登ったケイトが片手持つ弓を振って微笑みかけていた。


・・・気を抜きすぎだろ。もし、こいつに仲間がいたら狙われるぞまったく。


アダスはケイトに手を振らず、鵺の方に視線を戻した。

鵺は目に刺さった矢を抜こうとしてやけくそになっていた。


「ん?」


その時、アダスは鵺の体に何かが足りないことに気づいた。


尾の白蛇がいない。




ーsideケイトー





ケイトはアダスが無反応に対して頬をふくらました。


むぅー、反応無いアダスなんてつまんないッ!


アダスは幼い頃からあの可愛くない性格は全くもって変わってない。

でも、もし変わっていたらアダスとは出合わなかったかもしれない。


ケイトは五歳の頃、仕事一筋の父親が許せなくて家を飛び出し、走ったあげくなぜか一般地域の公園で迷い込んで泣いているところを青髪で黒コートを着た同年代の男の子に助けてもらった日を思い出した。


初めて会った時、僕はアダスが纏っていた独特の雰囲気に引かれてたなぁ…


シュルルルッ!


木の上で思い出に浸っているケイトの腰に何かが巻きついた。


「なっ!?」


気づいた時には腕の動きが封じられていた。


「シャーッ!!」


鵺の尾である白蛇がケイトの上半身に巻きついていたのだ。


しまったやばい!


「シャーッ!」


白蛇が口を大きく開いてケイトを丸呑みしようと迫ってくるのをケイトはとっさにまだ動く足で白蛇の頭を踏みつけ抵抗する。


「くっ、……この!」


少しずつ白蛇の締めつけが強くなり呼吸するのが辛くなる。


「あ………。」


・・・アダス助けて!


白蛇の頭を押さえつけるのと締めつけに抵抗するのに精一杯で声がでない。


・・・助けて!!




ーsideアダスー




「ちっ、なかなかしぶといな。」


アダスは矢が抜けた鵺と激しい攻防を繰り返していた。


こいつ、腹に一太刀を入れたのによく動くな。


鵺の攻撃を刀で受け流しながらアダスが踏み込み横に一閃。

鵺は毛を切らせながらも後ろに大きく跳んで避ける。


前より、動きに無駄がないな。頭が猿だから学習してるのか?


「ガァァァァァ!!」


鵺が飛び掛かる。


「猿ごときに負けるかぁぁぁぁぁ!!」


よくわからないテンションでアダスが鵺を迎えうった。

至近距離で鵺の爪が顔面に迫る。


「おぉぉぉぉ!!」


アダスが雄叫びをあげながら頭を横に傾けて爪をかわし、そのまま爪を蹴り上げた。


「おぉぉぉぉ!!」


体制が崩れた鵺の懐に潜り込み刀を突き出す。

鵺がとっさに空いている腕でガードをするが


「おぉぉぉぉ!!なめるなぁぁ!!」


刀に薄くて白いオーラが包まれた。


ズブリッ!


刀は腕を貫通して鵺の心臓を串刺しにした。


「ガッ、ギャァァァァァ!!」


手応えを感じたアダスが刀を引き抜いて後ろに下がった直後、鵺は身をよじり胸をかきむしっり、やがて動かなくなった。


まさか、学園で唯一真面目に学んだ闘気術がここで役にたつとは思わなかったな。

やっぱ、実戦しねーとわからないこともあるな。


闘気術とは武器に自分の体にたぎる気を流し込んで武器や身体の性能を上げる術であり、ある程度極めると剣一振りで山が両断するとも言われている術だ。


・・・ん?そう言えば…


刀を鞘に戻している時、アダスはいつも横にいるはずの友人がいないのに気づいた。


・・・ケイト。


胸騒ぎがしたアダスはケイトがいた木へと歩み寄る。


「なっ!?」


木の上に白蛇がいてケイトを締め付け、グったりしているケイトを今にも呑み込もうと口を大きく開いてところだった。


「させるかぁぁ!!」


気を愛刀に瞬間的に流し込むと同時に抜刀し、愛刀を投げた。

愛刀の刃が白蛇の側頭部に貫通しそのまま木に磔にする。


「・・・・・。」


白蛇の拘束解けたケイトが木から落ちる。


「危ねぇっ!!」


アダスは走ったが、このままでは間に合わない。


「届けっ!」


地を蹴り、思いっきり前に飛びこんだ。


ガシッ!


「よしっ!!」


アダスの両腕が地面すれすれでケイトを受け止めることができた。


「ケイト!!」


アダスは顔が青白くなったケイトを地面に寝かした。


「おい、しっかりしろっ!!」


「・・・・・。」


幸いケイトは呼吸をしていた。

派手な鎧のおかげで骨が折れはしなかったみたいだ。


あともう少し、俺が鵺を倒すのが遅れていたら今頃ケイトは……いやいや


アダスは首を振った。


俺が弱気になってどうする!


など、頭の中に考えながらアダス気を登り白蛇の死を確認して愛刀を抜いて血を拭きとり鞘に戻した。


アダスは木に登り、辺りを見回して安全を確認してケイトを寝かせている所に戻った。


「あ……アダス。」


ケイトは少しは安定したのか上半身を起こしていた。


「無理するな、寝てろよ。」


「・・・・・うん。」


ケイトは素直にしたがい横になった。


「・・・たく、とんだ災難だったな。」


「あ、」


アダスがケイトの真横に寝転んだが、アダスはケイトの頬が赤くなったのに気づかなかった。


「朝になるまでに帰らないとな…」


「・・・アダス。」


ケイトが何かを決断したような顔になる。


「アダスに聞いてほしい事があるんだ。」


「おう、聞いてやるよ。」


「前々から言おうと思っていたんだけど…」


その時、アダスは嫌な気配を感じた。

うなじの毛が逆立つような気配を。


「・・・実は僕…」


「シーっ……静かにしてろ、何か来る。」


「え?何?」


アダスがケイトを木陰まで運んで上に覆い被さった。


「ふえっ!いやちょっと、アダス何を…」


アダスの下でケイトが顔を真っ赤にしているのをアダスは気づいていなかった。


「・・・来た!」


暗い森の中から白い狼犬が現れた。

鵺とは違う底知れない圧迫感。


何だこの犬?

こいつとやりあうのはヤバイな。


「・・・ケイト、動けるか?」


「あ…えっと、一応動けるけど……どうして?」


幸いかどうか、ケイトにはあの狼犬に気付いていない。


「いいか、俺が合図したら姿勢を低くして向こうの方に行ってくれ。」


「だからどうして向こうに行くの?」


「あとで説明する。」


そう言ってアダスが白い狼犬の方に顔を向けると、白い狼犬は二人を見下ろしていた。


「なっ!!」


「何?どうしたの?」


アダスが覆い被さっていてケイトには白い狼犬が見えていない。


「・・・・・グルル。」


殺られる!!

なら、殺られる前に殺る!


アダスが愛刀を高速抜刀して白い狼犬に刀を向けるその時、


フワッ!


「「えっ?」」


地面を踏む感触が無くなり、体が下に落ちていく。


なっ、落とし穴か!?


刀を持たない手で地面を掴もうとしたが空を切った。


落ちる瞬間、アダスは白い狼犬の口が引きつりまるで落ちていく二人を嘲笑っているように見えた。


くそぉぉぉ………!


アダスはだんだん遠退いていく月に手を伸ばした。


親父、お袋……


「アダス何が起きてるの!?何で僕た」


ドンッ!


体が引っ張られる。

アダスとケイトの間に空間ができた。


「ケイト!」


とっさに手を伸ばしてケイトの手を握る。


「手を離すな!」


「アダス!」


ドンッ!!


強い衝撃が体に走り二人の手を断った。


「しまった!ケイト!!」


「アダス――――!!」


二人がお互い手を伸ばす時、辺り一面白く輝き何も見えなくなった。



白い空間の中、アダスは幼い頃から現代の日々が頭の中に浮かび上がり、そして消えていくのを感じた。

まるで走馬灯のように。


ドンッ!


体に再び衝撃が走り、アダスは目を閉じた。


・・・もう、どうにでもなれ。


「・・・・・」


長い沈黙が続いた。


気付くと体が落ちていく感覚がなく、鼻には朝露の霧で濡れた草の匂いがする。


「・・・ん?」


目を覚ますと空が見えた。右手には愛刀をしっかりと掴んでいた。

アダスは体を起こした。


・・・ッ。なんか、長い夢を見たみたいだな…


そして、アダスは辺りを見回した。


・・・木、木、木、木しかないな。


アダスは森の空き地で立っていたのだった。


ここは、王国領域の周りにある森だよな?


アダスが立ち上がり刀を鞘に戻す。


「おいケイト、お前ここがどこだ…」


アダスがいつも通りに後ろを振り向くがケイトの姿はそこにはいなかった。


・・・・・・・・・・・ッ!?


アダスの脳内に白い狼犬が浮かび上がる。


ゆ、夢じゃないのか!?


アダスが頭を押さえる。


け、ケイトはどこにいったんだ?


ヒュ~~~~・・・ドォォンッ!!


「!?」


[時の王国]だと思われる方向から火の花が咲き誇り、はかなく散っていく。


・・・これは花火、なのか?


アダスは疑問に思った。

[時の王国]では中性時代まで祝福や祭りために行われたものだが、今の時代は廃れた文化なはずだ。


王国で何かあったのか!?


王国に行きたいの山々だが、今ここにいないケイトが気になる。


・・・あいつは好奇心の塊みたいなやつだからな…


ヒュ~~~~・・・ドォォンッ!!


再び咲き、散っていく花火を見る。


王国に戻ればケイトと合流し、花火の謎がわかるかもしれない。あいつなら絶対に花火を見に行くはずだからな。


アダスは[時の王国]に向けて足を運んだ。

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