時の王国
[時の王国]の説明
<土地>
この王国はシンガレル山を土台にして建国された。
土台となるシンガレル山の標高は8000メラーズ。
王国領域面積は7000キロメラーズ。シンガレル山の周りには350キロメラーズの太古の樹海が広がっている。
<王国>
人口 約1億人。土台となるシンガレル山の頂上には国王の住まう城が建っている。
城内には無数の時計が飾られており、一つ一つの時計が世界中に存在する数多の国の時を刻んでいる。
王国の地下には、土台となるシンガレル山の水脈を利用して作った水路が無数に広がっている。
王国の入口である正門は、旅人のために日が沈むまで入国ができる。
門番は24時間交代で勤務している。
<階級>
この王国には五つの階級が存在する。階級の身分により住む土地が決められている。
1. 王族
2. 五等爵
3. 騎士団
4. 国民・商人
5. 奴隷・死刑囚
~〈時の王国建国記録〉から~
暗い宇宙に一つの隕石(星)が小惑星の間を通っていた。
とある青い星の天文学者は、昼でも赤く輝くこの星を『イール・スター(凶星)』と呼んだ。
小惑星の間を飛ぶ星、イールは心を持つ生物だった。
ちゃんと目があり、口があった。体は高熱や冷気を通さないため、分厚く硬い甲羅で覆われていた。
イールの誕生は、本当に「偶然」の出来事だった。ある銀河系で突然起きた星と星の衝突により発生したエネルギーが宇宙の塵に未完全な生命を与え、巨大化させた生物がイールだった。
イールの目的はただ一つ。
生きていくために他の星に寄生してエネルギーを吸い取り、より強大な生物、完全体になることだ。
これまでに生まれた銀河系の星々を寄生してエネルギーを吸い尽くし、消滅させた。
次に目指す星は、青く輝く生命エネルギーに満ちた星だ。
※※※ ※※※
紀元前七千億年の『ガイア(地球)』に凶星イールが堕ちた。
イールの禍々しい邪気によって衝突の際、一部の生物が絶滅した。
イールはガイアに突き刺さった途端、猛スピードで地中深くに潜り、ガイアの『コア(核)』に住み着いた。
イールはエネルギーの吸引以外の機能を全て停止し、長く深い眠りについた。
この星の生命エネルギーをどう吸い尽くすかという夢を見て……。
時が経つにつれて、イールの意識は形を作り始め、白く輝く狼犬になった。
狼犬にはイールの力である「時渡り」が宿っていた。
狼犬はガイアの時を渡るにつれ、ガイアの歴史に興味を持ち始めた。
※※〇※
X506年の夏、<時の王国>の国民領域にある小さな鍛冶屋で、ルジー・カレブとその妻ローズの間に、元気な男の子が誕生した。
赤ん坊はローズの身体から産み落とされると、産婆さんの顔にキック!元気な産声を響かせたのだった。
「おお、男の子だ!」
父のカレブとその弟ロイスは大喜び。
男の子なら、伝統の鍛冶仕事をしっかりと教えられるからだ。
赤ん坊がこの世で初めて聞いた音は、まだ朝日が顔を出す前に、父カレブが仕事場で剣を鍛えるハンマーの音だった。
仕事を終えたカレブは妻ローズを呼び、二人で赤ん坊の名前を考え始めた。しかし、なかなかしっくりくる名前が思い付かない。
「よし、弟のロイスに名付け親をお願いしよう。」
カレブはそう決心し、ロイスに相談した。
「もちろん、引き受けるよ。」
ロイスは快諾した。
翌日、ロイスが考えた名前を兄カレブに伝えると、カレブは満面の笑みを浮かべた。
「とても気に入ったよ。妻にも教えてくる。」
カレブはそう言って、ローズに赤ん坊の名前を伝えた。
ローズは微笑み、赤ん坊を抱きながら近所の友人たちに名前を知らせに行った。
「皆さん!祝福してくださいな!私たちの息子の名前は『アダス』になりましたの!」
ローズがあまりにも大きな声で長男の名前を叫ぶものだから、町の半分の人々が赤ん坊の名前を知ることとなった。それもそのはず、ローズの友人は多かったのだ。
※※〇※
アダスが生まれて十七年後の秋、一般地域の学校で国史についての授業が行われていた。
教授は情熱的に王国の歴史を語り、生徒たちは興味津々で聞いていた。
「この『時の王国』は一千年前、まだ王が住む『時の城』や地下水路が造られて間もない頃に王族の娘が行方不明になりました・・・」
歴史学教授の話を真面目に聞いていた可愛らしい青年が、斜め前に座る席で黒コートを着た友人がフードで顔を隠して居眠りをしているのに気づいた。
「・・・現在、X523年。ケルス・レイトール十二世が『時の王国』を治めております。・・・ではここを黒板に書くのでメモをとるように。」
生徒を見ず、黒板に教授が顔を向けた瞬間、青年が居眠りをしているフードの友人に向かって紙くずを投げた。紙くずが頭に当たる直前、
「わぁっ!!」
とフードの友人が叫んで飛び起きた。
「ルジー・アダス君。どうかしたのかね?」
ーsideアダスー
「ルジー・アダス君。どうかしたのかね?」
気づくと、片眼鏡の男が歴史の太い本を片手で持って目の前に立っていた。
「えっ、いや、し、白い犬が・・・・・・ハッ!」
まず自分がどこにいるのかを思い出し、今どのような状況なのかを悟った。
「やべっ!!」
アダスは急いで口をつぐんだが、
「ほほぉ〜。授業中、夢の中で冒険でもしていたと。」
遅かった。教授の首筋が痙攣しているのが見える。
ー・・・やばい。このままだと個人指導だと言ってクソ長い説教がくる!!
「教授! 眠っていたのに」
「今晩、私の家に来なさい。」
そう言うと、教授は静かに教室から出ていった。
「・・・・・そ、そんな〜!」
アダスはショックのあまり気が遠くなった。
どこかで自分のことを嘲笑う声と、学園の下校を知らせる鐘の音が、妙にアダスを惨めな気持ちにさせた。
ー俺は悪くないのに・・・・・・教授の話し方が遅くて長いから眠くなるんだ!
アダスは自分が考えた言い訳を自分に言い聞かせて気を落ち着かせることにした。
その時、無意識に右手の指先で顎をかいていた。
「あっ、またやっちまった。」
最近できたストレスでの癖だ。
不愉快なことが起きたりするとつい顎をかいてしまう。
そもそも、この学園に来たのが間違いだったかもしれない。
卒業したら騎士の位に進級できると言うことだからこの学園に入学したのだ。
ここには入る前は自由に外で遊んだり、親父の鍛冶仕事を手伝っていたのに・・・
[時の王国]は上の位に進級するには有能な騎士学園から卒業か、商売で上階級者に気に入られて推薦による進級かのどちらかだ。
もちろんこの法律らしき仕来たりに逆らって、違法進級をするとすぐさま鑑識にばれて即逮捕。
身分は最下位の階級に落とされ、強制的に無法地帯に送り込まれる。
「残念な事態になったね、アダス。」
斜め後ろから、幼い頃から聞きなれた声。
「そんな事を言うなら早く起こしてくれよ、天才ケイト君。」
「て、天才って…僕の嫌いな呼び名で呼ばないでよっ!不良アダス!!」
「あ~、わかったわかった落ち着けよ。」
友人のケイトがを頬を赤くふくらましてアダスの前に立ち、腰に手を当てる。
その姿はまさに一人の少女。
こんな可愛いのにコイツ、男なんだぜ……と残念に思うアダス。
「そんなに夜、教授の家に行くのが嫌なら行くのをやめればいいじゃん。」
「俺に無法地帯で暮らせと言うのか、ケイト?」
アダスは幼いときに見た違法をして強制的に無法地帯へ送られる女性の泣き顔を思い出して気分を悪くなった。
「教授の家に行かないなんて無理だろ。」
「無理じゃないよ。」
ケイトが言い返した。
ケイトの瞳に危ない輝きがキラキラと見える。
・・・こいつ、何か危ないことを企んでるな。
「僕の父上が持つ身分は使えばいいんだ。どうせ僕しか跡継ぎがいないしさ。」
「おいおい。黒いなお前。」
ケイトの父親には一度も会ったことがはないが、王国警備隊の隊長である子爵と、ケイト本人から聞いている。
普通、五等爵はこの一般地域に住むはずはないのだが
……まぁ、ケイトが無理を言ってこの地域に子爵家の別荘を建て、今の学園に通っているんだろうな。
まったくケイトの父親は親バカ過ぎるだろ!
その時、アダスが話をまったく聞いていないことに気が付いたケイトがアダスの右頬をギュムッ!っとつねった。
「痛ででッ!?」
「話を聞いてるのアダス!!」
「ん?あっ…ごめん、何の話だっけ?ついお前の口がよく動くもんだから感心してたんだ。」
「もぉ~~っ!」
涙目になりながらケイトが頬をふくらました。
・・・ヤベぇ可愛いなこいつ、本当は女の子じゃないのか?
なんて、いつも考えてしまう。
いまだケイトの性別がわからにいな。・・・長い付き合いなんだけどわかんねぇなぁ~
「今晩、二人で王国の外で獣狩りをやろうって、言ったんだよ!! 」
「・・・はぁ!?」
アダスの額から汗が流れた。
多分、脂汗だ。
「な、何言ってんだよ!王国の領地から出るには国王か五等爵の長である公爵の許可書がなきゃいけないんだぜっ!!」
ゼェー、ハァー
とノンストップで言い切って息絶え絶えにしながらケイトの顔を覗いた。
しかし、ケイトの瞳からあのキラキラとした輝きが消えることはなかった。
「大丈夫っ!!」
ケイトが一枚の洋紙を取り出しアダスの前で広げた。
―――――――――――――――
許可書
ルジー・アダス
リーフ・ケイト
以上この二人は王国領地外での獣狩りを許可する。
国王 ケルス・レイト十二世
―――――――――――――――
「・・・・・。」
「昨日から用意してたんだ♪」
「・・・・・。」
アダスは驚きを隠せなかった。
えっ?・・・マジかよ。
ケイトの行動力や国王が簡単に許可書を出すのにも驚いたが、アダスは色あせていた夢を思い出していた。
幼い頃、外の世界に憧れて一般地域で最も高い大木に登って遠くの地平線を良く見ていたものだ。
今では学園に入ってあの地平線を見に行く暇が無くなり、外の世界への憧れを忘れつつあった。
こ、これが運命…いや、念願が叶うってことか。
「・・・わかった、一緒に行こう。」
もう断る理由……意味はない。
「やった~っ!!」
ケイトが跳びはね喜びを表現する。
「・・・・・落ち着けよ。」
跳ね回るケイトの頭を捕まえたアダスがケイトに尋ねた。
「今夜の何時に正門前に行くんだ?」
「ん~、そうだねぇ……」
先程とは違う難しい顔つきになったケイトがアダスの手に頭を掴まれたまま考え始めた。
「う~ん、月が真上に来た頃がいいかな。」
「月乙女の時刻か…問題ない。」
アダスはケイトの頭を放した。
「獣狩りに行くなら武器ぐらい用意しなきゃな。それと、」
アダスは自分の腰に下げている愛刀の柄を指で軽く叩いた。
「自分の身は自分で守れるよな?」
「もちろん♪」
ケイトと別れ、家に帰ったアダスは早速外に出かける準備を始めた。
カーン、カーン、カーン……
家の横にある仕事場から鉄を叩く音が聞こえてくる。
親父達は注文された品を明日に出すため忙しいはずだから何も言わなくていいよな。
そう思ったアダスは目的の物がある父の書斎に入った。
部屋の中はどこもかしこも武器や防具で溢れていた。
「・・・うーん。」
アダスは辺りを見回し、武器の山をあさる。
「よし、これにしよう。」
アダスが選び出したのは一本の刀だった。
装飾的にもアダスがもともと腰に下げている愛刀に似ている。
もしかしたら、カレブが予備のために作った物かもしれない。
試しに柄を握るとしっくりと手に馴染んだ。
うん、予備として持って行こうかと考えたけど、せっかくだし二本の刀で新しい剣術、二刀流でも考えとこうかな。
手にいれた刀を愛刀の反対側に下げて、再び部屋の中を見回した。
「次は防具だな。」
もう目安はついている。
書斎の棚の上にある箱を下ろして開けた。
箱の中には黒い革で作られた旅用の鎧一式が入っていた。
この防具はアダスが生まれて間もない頃に行方不明となった叔父ロイスの遺物だ。
ロイスと言えばアダスの叔父であり、[時の王国]に起こった内乱を終わらせた英雄として王国で知らない人間は誰一人もいないほどの武人公爵だった。
叔父さんかぁ……
アダスは叔父ロイスの顔をはっきりと覚えていなかった。
当時、アダスは生まれて生後六ヶ月だったので名付け親である叔父の顔を肖像画でしか知らない。
霧が一段と濃かったと言われるその日、ロイスが王国領域外にある樹海の調査に行ったきり帰ることなく行方不明となった。
「・・・・・叔父さん、借りてくぜ。」
多分この世にいないかも知れない叔父に向かってアダスは呟いていた。
何か辛気くさくなったな………ポジティブ(自称)の俺らしくもねぇ、アホらしいな。
いつも着ている黒いコートの下に防具一式を着込んで窓から月を見ると、すでに月は夜空の真上で輝いてた。
月乙女の時刻だ。
ヤベぇ、遅刻だ!
アダスが箱を戻して部屋から駆け出て急いで玄関へと向かう途中、父カレブとすれ違った。
カレブは急いで出て行く息子に何も感じないで書斎に入った。
アダスが家を出て行ったその後、書斎に入ったカレブは息子が帰ってきたら部屋を荒らしたことについて叱ろうと考えたのであった。
アダスが正門にたどり着くと、ケイトが正門の門番に許可書の紙を見せているところだった。
「あっ、やっと来たね!」
ケイトが気付き門番から離れてアダスの元に歩いてきた。
「もう、遅いぞ!来ないかと思ったじゃないか。」
「おう、わりぃわりぃ……ん?」
アダスが頭を下げながらケイトの武装姿を凝視する。
腰に下げているいつもの細剣は別としてケイトの体を包む純白の鎧と真っ赤な大弓に鎧と同色の白い矢筒。
………………明らかに目立つ。
「な、何だよ!ジロジロ見ないでよ、恥ずかしいなぁ」
ケイトが自分の肩を抱いて身をひねった。
「・・・おい、その姿はどうした?」
「早く行こうよ!!」
アダスの質問が聞こえていないのか、ケイトが開いた門をくぐり抜けた。
「おいっ!話を……あ~くそっ!」
ケイトの野郎っ!後で何が起こっても知らねぇぞ!!
アダスはブツブツ文句を言いながらケイトの後を追って門をくぐり抜けた。
時間の設定
月乙女の刻 午前0時(午後11時から午前1時)
闇の刻 午前2時(午前1時から午前3時)
黄金のいづる刻 午前4時(午前3時から午前5時)
農夫の刻 午前6時(午前5時から午前7時)
目覚めの刻 午前8時(午前7時から午前9時)
賢者の刻 午前10時(午前9時から午前11時)
太陽王の刻 午後0時(午前11時から午後1時)
戦士の刻 午後2時(午後1時から午後3時)
八つの刻 午後4時(午後3時から午後5時)
黄昏の刻 午後6時(午後5時から午後7時)
逢魔がの刻 午後8時(午後7時から午後9時)
星光る刻 午後10時(午後9時から午後11時)