8月の夜とエウリディーケ
11月。
ペガサスが空を駆けているわ。
けれども、私をここから連れ出したりしてくれないし。
あなたを連れて来てはくれないの。
2月。
オリオンが私を見つめるわ。
けれども、彼はちっとも私を助けようとはしないし。
あなたほどの魅力はありはしないの。
5月。
デメテルがとても羨ましいわ。
けれども、彼女は娘を私と同じところに攫われたし。
あなたと違って助けには来なかったの。
8月。
やっとあなたが会いに来てくれた。
私はずっとずっと、ここで待っていたの。
渡された果物を食べて生きていたの。
でも、もう私とあなたは会うことができない。
あなたの周りに、1年に1度会うことが許された夫婦がいる。
けれど、私とあなたは1年に1度さえも会うことは許されない。
触れることさえも。
私は、繋いだあなたの手の温もりは今でも忘れない。
私の手を引いて一緒に逃げてくれた、暖かい手。
ごめんなさい。
あなたは何も悪くない。
私が、あなたの顔を見たいと願ったから。
助けに来てくれた、あなたの優しさに甘えたから。
ただ、あなたは優しかっただけ。
優しいから、私に笑顔を見せてくれた。
だから、私は寂しくないの。
そのために、二度と会えなくなったとしても。
こうして、優しいあなたを見ていられるから。
夜になれば、あなたを見ていられるから。
あなたが気に病む必要はどこにもないの。
だって、私は幸せだから。
あなたに愛されたから。