第3話:基地の中の街 (★)
レイヴンの意識回復から、3日後―――
(一体なんの冗談だ、これは!?)
ソリス=J=フィアレスの操るギア・フレーム【オール・ガンズ】の後ろには、部下の搭乗する同じ機体の姿が三機。無残に溶かされた10機近い部下の機体。炎上する自分たちの基地―――そして、機体のカメラを通して見据える前には―――見たことのない謎のギア・フレームが仁王立ちしている。
全体的に赤く角ばったボディからは、どことなく【オール・ガンズ】に似通ったデザインが見て取れるが、性能は圧倒的に上だった。特徴的なのは、右腕にある一見鉄くずの集まりのような巨大な固定武装。片眼が隠れているかのような奇抜な頭部の左センサーが浅葱色の光を灯している。
(明らかに戦争時代の機体ではない・・・かといって今の時代にこれほどの機体建造力をもった勢力があるだと・・・!?)
敵機が不意にダッシュをきってくる。
「来るぞ!散開!!」
ソリスが指示を飛ばすと同時に後ろの部下も動く。
敵機の右腕が開き、その爪が灼熱を宿す。突進と同時に放たれた強力無比な一撃はかろうじて空を切るが、追撃で振られた一撃の余波が味方機の一機をとらえた。機体頭部が吹き飛び、コックピットを抉り取る。
『カイツェル!!』
部下が絶命した友の名を叫ぶ。
「くっ・・・撃ちかけろ!」
全機が両肩の大型レールガンを加えマシンガンを一斉掃射する。
すさまじい破壊力が敵機を包み込み、爆炎や土煙りで周囲が紅に染まる。
普通、これほどの火力で撃ち込まれれば並みの機体など跡形もないはずだ。だが―――相手は『普通』ではなかった。
「いかん!」
ソリスが叫ぶのと同時に、敵機が爆炎を突き破る。灼熱の大爪が味方機をとらえ、1秒足らずで融解させ赤い金属の水へと変える。パイロットは即死。そして、驚いたことに敵機には目立ったダメージが見受けられなかった。
(このままでは、全滅は確実・・・ならば)
隊長としてソリスは覚悟を決めるが・・・
『よ、ソリス』
最後の味方機から通信が入る。
「ブルネルか」
相手は長年連れそった親友、ブルネル=サラーズ。スキンヘッドが特徴の黒人。その彼に『隊長』をつけず呼ばれるのは久しぶりだった。
「ちょうどいい、今、指示を言おうとしていたところだ」
『ふっふ。当ててみようか?』
「・・・」
『どうせ、退けってんだろ?んで『後から来る』。違うか?』
ソリスは苦笑する。どうやらお見通しらしかった。
「そうだ。わかっているなら―――」
『お断りだね』
突如言葉を遮られ目を丸くする。
その言葉にいつものふざけた調子はなく、ひたすらに真剣さだけが感じられた。
『お前には妹がいんだろう?・・・最後にあった時は、まだ15歳だったが・・・きっといい女になってるんだろうよ・・・間違いねぇ』
そう言いながらブルネルの機体が踏み出す。ソリス機の前へ―――
「待て・・・何をする気だ!」
『たった1人の肉親だろ。世界に2人といない家族だろ。悲しませるなよ・・・俺みたいによ・・・』
(まさか!!)
親友の意図を察したソリスが叫ぶ。
「よせ、ブルネル!!」
『おっと、近づかない方がいいぜ。もう、【TNT】が起動してんだ・・・』
【TNT】―――自爆装置。声紋起動で、起動後解除不可能。破壊力は設定可能だが、最低でも半径500メートルを塵に変えることができる。
『たまには年上面させろって』
「そんなもの、関係ない!!」
叫ぶ声も、友の決意には届かない。
『後は・・・たのんだぜぇぇぇ!!』
叫びながらブルネル機が特攻する。敵機の右腕の攻撃をかいくぐりながら接近する。余波であちこちの装甲が溶けるのもかまわず接近し、ついに懐に飛び込むことに成功。そのまま抱きしめるように組みつく。さすがに零距離では武装を使えないらしい。
「ブルネルーーーーーっ!!」
ソリスが叫ぶと同時に、ブルネルの機体のシルエットが歪み、巨大な爆炎が巻き起こる。
彼の機体は、その余波に吹き飛ばされ、基地の瓦礫の中に飲み込まれた―――
●
「ここが一番タイムサービスをいっぱいやってる『シンセン』ね」
「・・・」
「あっちが衣類品を売ってるとこ、近くのまちから入ってきたりするから結構かわいいものもあったりするの」
「・・・」
「それで―――」
「アル」
レイヴンの声でアルが動きを止めて振り返る。
「何?ちょっとお店の説明が早すぎた?」
「いや、そうじゃない」
「じゃあ、何?」
「俺が聞きたいのは、なぜ基地の中に店があるのかだ」
うーん、とアルが周りを見渡す。
彼女とレイヴンがいたの近隣の街の繁華街ではない。れっきとした基地の敷地内だった。都市のショッピングエリア顔負けの店が所狭しと軒を連ねていた。
「普通じゃない?」
「普通ではないな」
まず基地というのは、訓練や補給など戦いにおいて重要な拠点であり、お店などが立ち並ぶところではないはずだ。
「でも実際建ってるし、こんなに」
「それが認められているのが、俺の抱いている疑問だ」
「ふーん。軍事拠点がどんなものかわかってるんだ?」
そう言われレイヴンが、確かに、と呟き、あごに手を当てる。
「俺は軍事拠点の概要を知っている・・・つまりこういう環境に慣れているということか・・・」
「何か思い出したの?」
「いや、今のは感覚的なものだからな・・・」
レイヴンが目を覚ましてから4日たったがいまだ記憶が戻る気配が見当たらなかった。
医師の話では、記憶喪失というものは、時間の経過もしくはなんらかのきっかけによって戻ることがあるらしい。とりあえず脳に刺激を与えようということで共に基地の繁華街、通称【基地街】を散策することになったのだ。
「まあ、無理することないわ。あなたみたいな人だらけだし、ここ」
「どういうことだ?」
「ここにいる人たちは、みんな難民。家とか家族とか職場とか・・・戦争で自分の居場所を失った人たちの暮らす場所なの」
「なるほど・・・しかし、なぜ基地の中に住まわせている?」
「うちの隊長の意向なのよ。初めは外に難民キャンプを造る計画があったんだけど、この地方は夜になると凶暴な夜行生物がでるから、そういうのから人々を守るならこっちの方が何かと都合いいらしいの。そしたら数年で街ができちゃったらしいわ」
「結構なことだな」
「でも、実際は隊長がやさしいってところが一番大きいの。ここの人たちはみんな隊長に感謝してる。軍への言い分を考えるのには2日かかったらしいけどね」
「戦争の傷跡・・・か」
栄え、活気にあふれた『街』。それをを見つめている中・・・
―――――――グウゥゥ
ふと聞こえたそんな音。
「あ・・・」
「?」
その音源は、顔を真赤にしたアルだった。あわてて腹を隠し、視線を向ける相手を睨む。
「な、何よ!別にいいじゃない!お腹すいたんだから!夜勤明けで何も食べてないのよ!」
「何も言っていないが?」
「とにかく!今のは忘れること!いい!?」
「わ、わかった」
アルの剣幕に多少ひるみつつもそう返す。
「さあ、さっさとお昼食べにいくわよ」
「そうか。ならここで別行動だな」
そう言ってレイヴンは、まわれ右する。
「へ、何で?一緒に食べにいかないの?」
「店に入ろうにも、俺は金銭を持たん」
「お金ぐらい出してあげるわよ」
「いや、自分の食料は、自分で調達することにする。ベットから起きれないときは世話になっていたからな。動けるようになったからには、これ以上迷惑はかけられん。さっき通ったところに配給施設があったからな。そこで昼食をとる」
「で、でもあそこのご飯、あまりおいしくないし・・・」
「飢えないのなら構わん。お前は別の場所でたべるといい」
「ちょ、ちょっと!」
「できるなら昼食後も街の案内を頼みたい。地理を早く頭にいれておきたいからな」
そう言ってレイヴンはスタスタ歩いて行ってしまった。
その場にはアルだけが残る。
(アルちゃんとのお昼を断るなんて)
(どんだけ女心わかんねえんだ?)
(珍しいこともあるものねえ)
(あそこのもの積極的に食べに行くなんて・・・)
遠巻きに事の成り行きを見ていた人たちが口々にそんなことを呟いていた。
割と早く更新できました。なかみは短くなってしまいましたが、すこしだけでも戦闘シーンを書けて自己満足しています。ご意見などございましたら是非いただきたいと思います。