第25話:新たなる剣<7>
7番隊格納庫―――
カイ=アドフストを中心に新型テストの為の最終調整が行われている。
今行われているのは、演習で使う試作武装の取り付けである。
「オーライオーライ、もう少し右だ!よーし!ゆっくり降ろせー!」
黒い光沢の刀身が印象的な細身のブレードが右椀に装着される。
「プロフェッサー。なんです、この武器は?初めて見ますが・・・」
ソリスの問いにカイは自慢げに答えた。
「当然じゃ。これもまたワシの開発した特別製じゃからな」
「資料では〈C・M・B〉でしたか?」
「うむ、アルちゃんは接近と火器を両立させる戦闘スタイルが目立っておる。いうなればオールラウンダーじゃ。特化ではなく、あくまでスタンダード性を高めた専用機を追求した結果の武器になるの」
「スタンダード性というと?」
「とにかく丈夫で長持ち、と言う事じゃな。最高なモノが最強とは限らないと言う事じゃ。常に基本を忘れてはいかんからの」
「まぁ、おっしゃりたい事はよくわかります」
「うむ、それでよい。ところで、アルちゃんはどこじゃ?」
「街に出かけると言っていましたが」
「もしや、アルちゃんが連れて来た若造も一緒か?」
「まぁ、そうなりますね」
「あやつ、一体何者じゃ。やけにアルちゃんと親しいようじゃが」
「素性は知れませんが、アルの人を見る目は確かですから今のところは心配ないと思いますが―――」
「違う!あの若造がアルちゃんをたぶらかす心配はないのかと聞いておるんじゃい!」
「―――――――――さぁ」
●
「ん?」
「なに、レイヴン」
「なにか、妙な感じがしたが・・・気のせいか」
バニッシュは木を背に座り込んでいた、ダメージから立ち直れないのか、それとも単に立ち上がらないだけなのかわからない。
2人は警戒しながら、相手の動きをうかがっていた。
「―――いい連携してんじゃねぇか・・・効いたぜ。クソッタレが」
長い間を置いてから、口から血の混じったツバを地面に吹き捨て、空を見上げるバニッシュ。
「お前にはききたいことがある。おとなしく捕まってもらおうか」
「俺がお前に教えるって?馬鹿言うんじゃねぇよ。どうせその内思い出すだろうよ」
「言ったはずだ。焦らされるのは好かない、とな」
「別に焦らしてなんかいねぇよ。単に時間の問題って言ってるだけの話さ」
そう言うとバニッシュは、またニヤリと笑う。レイヴンがハッとなる。
「アル!さがれ!」
「え?」
バニッシュの後ろの空間が歪む。大気から染み出すように現れたのは、いつぞやの黒い機体だ。
「思った以上にやるな。出直させてもらうとするか・・・」
機体が差し出した腕に飛び乗ると同時に上昇が始まる。周囲にすさまじい風が巻き起こり、今以上に近づくことができない。
「くそ!待て、バニッシュ!」
「今は俺よりも残してきた連れの心配でもするこったな。あばよ、レイヴン」
数秒後には敵は彼方へと逃げ去っていった。確かに今は、アミーナの方を優先すべきだろう。
「ち、アル。いったんアミーナのところへ―――」
「レイヴン・・・記憶が戻ったの?」
「なに?」
踵を返したところでいきなりアルがそう訊ねてくる。
「だって、今あの男のことをバニッシュって呼んでたじゃない」
「・・・っ!」
間違いなく言っていた。自分はあの男の名前など知らなかったはずだ。にもかかわらずあたかも当然のようにその名を口に出した。
だが、それだけだ・・・いぜんとして肝心な記憶はない
「・・・・・いや。だが、今はアミーナが心配だ」
「わかった。戻ろう!」
●
「ん・・・・・・あれ、私―――お?」
アミーナが気がついた場所は、薄暗い屋内だった。数秒たってから柱の1つに後ろ手に拘束されているのに気づく。
見渡すと壁際にはギア・フレームが数体固定されている。どう見ても【オール・ガンズ】ではない。旧世代の機体ばかりだ。
間違いなく格納庫。気絶させられてからここに運ばれた様だ。ああ、なんというか・・・
「今の私ってすっごくヒロインって感じがするー」
アミーナはいつもどおり呑気だった。
「それにしてもあれが気になる・・・」
視線の先にあるのは、布をかぶせられた何か。ギア・フレームのようにも見えるが、通常の機体の2倍の大きさがある。
しかも布の下にのぞけるのは、これまた通常の脚部ではなく、細い金属板のようなものが8枚あるようだ。
(何か特機っぽいな・・・8本の脚部を持つ機体・・・・・うーん、なんかヤバゲな感じが・・・)
「そう、やばい事さ」
「の!?」
アミーナが驚いて、横を向くと包帯コート男が真横の鉄柱に寄りかかっていた。
「い、いつのまに・・・」
「別にこそこそ近づいたわけじゃないぜ?お前が鈍いだけだ」
「む、どうせ鈍いですよ」
「・・・面白いなお前。捕まってんのにその余裕。単に能天気なのか、それとも―――」
「うあっ!―――」
突然バニッシュがアミーナの胸ぐらをつかんで強引に引き寄せた。
「―――こういう状況に慣れた人間なのか、な」
「ははは、どうかな・・・」
鼻先が当たりそうな距離で睨んでくる赤い瞳。狂暴さが秘められたその目は誰かと似ている気がした。
「ふん・・・」
「あだっ!」
バニッシュが力を抜き、突然支えを失ったアミーナがドスンっと尻もちをつく。
「いててて・・・」
痛みに喘いでいると、急に手首の拘束感が消えた。
「へ?」
振り向くと、バニッシュがとり出したナイフでロープを切断していた。
「逃がしてやるよ、変な女」
「変って・・・」
「この先の通路は人払いしてある。そこからさっさと逃げて、今夜、襲撃があるってことを仲間に伝えてくるんだな」
「どういうつもり?あなた、ここの人達の仲間じゃないの?」
「・・・くくく、さぁな」
口の端をつりあげ、不敵に笑うバニッシュ。真意は良く分からないが、言う通りなら逃げ出すチャンスだ。
「とりあえず・・・ありがとう」
アミーナは振り返らず、一目散にその場を後にした。
「ありがとう・・・?けっ」
どこか気分を害したような気分になる。
すると、そこに別の人間が入ってきた。テロリストの一味だ。
入ってきた男はその場にいたバニッシュと断ち切られたロープをみて驚いた。
「なっ!?バニッシュさん!ここにいた人質は―――」
男の声が突如途切れる。その喉には、小さな投擲用の小型ナイフが突き刺さっていた。
「うるせぇよ。今、虫の居所が悪いんだ」
もがきながら男が倒れる。バニッシュはその上に近くの資材にかけてあった布をはぎとり、投げてかぶせた。
襲撃が今夜となった今、この格納庫の端っこで起こった事を気にする者などいない。
●
レイヴンを街に残し7番隊基地に戻って来たアルは急いでソリスのもとへと向かった。
「アミーナが拉致された?」
いきなり隊長室に飛び込んできたアルからの報告にソリスは耳を疑った。
「ええ、連絡もとれない。間違いないと思う」
「街のチンピラの仕業とも思えないな・・・これは非常事態だ」
ソリスは真っ先にテロリストの影を疑っていた。以前から怪しげな集団の情報は入っていたが、確定的でないうえ、この基地の機能もまだ半分も機能していない。
行動をおこすための足場が固まっていないのだ。
「少数精鋭で捜索隊を出そう。試作機のテストを遅らすわけにもいかん」
「アミーナをさがすなら私も・・・」
「いや、お前は本来の任務は機体テストだ。捜索は任せておけばいい。心配するな」
「・・・ありがとう」
「いや、謝るならこっちだ。護衛を一人つけてやるべきだった・・・」
緊迫した空気の隊長室。するとドアが外側からノックされる。
「・・・開いているぞ」
ギぃと扉が開く。
「あ、どうも。帰ってきました」
そう言いながら後ろにレイヴンを連れたアミーナがやってきた。
「・・・・・」
2人が数秒ほど固まった。
「―――ごめん。かんちがいだったみたい」
「・・・・・はぁ」
「ちょっ!ちがうって!捕まってたのよ!」
「だれに?近所のおばさん?」
「テロリスト!!敵さん!!」
2人がいまいち信用できないといった目つきだったので、みかねたレイヴンが口を開く。
「別れた後、偶然にも合流できた。追っ手も数人撃退した。間違いないだろう」
「どうやら、今夜この基地を襲撃するみたいね。なんか8本脚のギア・フレームもあったし」
「8本脚・・・?まさか【アラクネス】か!」
「知ってるの?」
「戦争時代に開発された対拠点用のギア・フレームだ。そんなものまで所持していたとは・・・奴らを甘く見ていたか」
「襲撃は今夜って・・・」
「時間が無い・・・」
ソリスは近くの電話を取ると、内線で各部署への連絡を始める。
「格納庫。そっちの準備はどうだ?今すぐ機体テストを始めるぞ。問答は必要ない。緊急事態だ。いまテストパイロットがそっちへ行く」
いったん受話器を離し、ソリスが言う。
「アル、お前は機体テストをすぐに始めるんだ。この基地には今居るパイロット分の機体数しかない。できるなら戦力は多い方がいい」
アルは力強くうなづいた。
●
日が暮れ、激突の時間は迫っていた。
鋼鉄の足音がズンズンと近づく。
森林をかきわけ、無骨な三つ目の機体が7番隊基地を捉えた。
●
基地内に警報が鳴り響く。次の瞬間レーダー塔が吹き飛ばされた。
「迎撃しろ!いけ!」
基地内に常駐されていた5機のオールガンズが起動し、出撃する。
正面から衝突し、激しい銃撃戦が開始された。
その内の一番機に乗っていた司令官のソリスは、襲撃機の姿を見て正体を看破した。
『各機につぐ。敵の機体は【アラウンド】だ。火力が高い。注意しろ!』
【アラウンド】と呼ばれた機体は全部で4機。その内の一機が肩に構えた巨大なバズーカを撃ちこんできた。
ソリス機を含めた5機は散開し、爆発の範囲から逃れる。
【アラウンド】は戦争中期に開発された重火器仕様の機体である。脚部キャタピラの高速回転による高い機動性と、反動を抑える為の強靭な装甲が特徴だ。オールガンズの基礎となった機体でもあり、運動性は及ばないが、それを補って強力な重火器を複数装備できるというまさに爆撃機体である。
敵機がグレネードランチャーを構え、発射する。味方がそれを避け、弾頭はその後ろのコンテナを爆砕する。
(しかし、これが4機とは・・・)
平静を装ってはいても、ソリスは状況が非常に不利であると悟っていた。
【アラウンド】は、その対拠点能力の高さゆえ、少数量産であったという。それは一度送り込めば一機でも制圧・破壊が可能とされていたからだ。つまりは侵入を許した時点ですでに後手。
それが4機も準備されていた・・・敵はかなり前からこの基地に狙いを定めていたようだ。
(だからといってこちらが負けてやる道理はない!)
ソリスが武装のレールガンを狙いすまして発砲。正確な一撃が狙ったのは敵の持つガトリングガン。銃身に命中し、薬室に引火。凄まじい爆発が起こりその武器を持っていた敵が粉々になった。
残り3機になった敵が今まで以上に攻勢に出る。味方の一人がグレネードで腕部を破壊された。
『各機につぐ武器を狙え!機体を狙っても弾が無駄だ!』
●
外で激戦が繰り広げられる中、格納庫内でアルはカイ=アドフストと機体の最終調整を行っていた。
細かいOS設定はパイロット自身が行うため、起動にはかなりの時間が必要になると思われたが―――
(なんという入力速度・・・ソリス坊に引けを取らんのぉ)
カイが驚くのも無理はなかった。
専用OS設定は、非常に細かく本来なら完全に入力が終わるまで、1日か2日かかるのも珍しくない。
しかしアルの設定速度は並ではなかった。ある程度の工程を省略しているといえ、信じられないような速さでプログラムを打ちこんでいく。
「バイタルリンク終了――BMAは3.55LE――セルフェス値は通常の1.116――Sエリア比を――」
コックピット内のウインドウを埋め尽くす情報に目を配り、驚異の集中力でコンソールを打つ姿は、まるで無機質な機械のようだった。
(これは天才というより異常といえるかもしれんのう・・・)
争いを嫌う者が戦う才能を持っているというのはあまりに皮肉だった。
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「いやぁ、大変なことになっちゃったねぇ・・・」
民間人避難用シェルターの中にレイヴンとアミーナはいた。広い空間の中には2人しかおらず、防音効果で、外の轟音も全く届かない。
アミーナがつぶやくが、隣のレイヴンは無言のままだった。
(今回の拉致のタイミングとバニッシュとの遭遇は偶然なのか・・・?それとも―――)
「・・・・・あ、レイヴン君ちょっといい?」
ポン、と肩をたたかれてレイヴンが我に返る。
「どうした?」
「実はアルに伝え忘れた事があるの。ちょっと通信室に行ってくる」
「・・・危険だ。俺も行こう」
「うんうん。そう言ってくれると思ってたよ」
アミーナが扉を開け、レイヴンが続く。
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「見つけたぜレイヴン―――」
そして基地内に忍び込んだ影がレイヴンをとらえる。
久しぶりの更新。マイペース更新継続中。気がつけば5カ月ぶりだと(・д・)!?




