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第23話:新たなる剣<5>

 北部の朝。第1番隊基地管轄の刑務所は、未曾有の緊急事態に陥っていた―――


 そこかしこで車体や、潰れたギア・フレームの部品が散乱し、施設も半分が倒壊、または炎上していた。


 そして、その上空に浮かぶ機影は、自身がもたらした破壊を笑いながら見下ろしていた。


『ひゃははははは!潰れろ!』


 漆黒の機体が機能を失ったレーダー塔に人差し指を向け、クイッとひねる。レーダー塔が、歪んで真っ二つになり轟音を立てながら崩れ落ちた。


 この機会をチャンスと見たのか、数人の囚人が脱走してくる。しかし、


『おっと、逃げる気か?』


 その彼らの前に破壊者が降り立ち、進路を塞ぐ。


「な、なんだ?お前、どこのやつだ!?俺達を解放しに来たんじゃないのか?」


 囚人の1人がそう言うが、


『お前ら、【ディス・フィアー】を見たよな―――』


「でぃす・・・なんだ?それよりお前は―――」


『とりあえず死ね』


 バニッシュは機体の能力など使わず、足先で囚人の集団を蹴りはらった。壁に叩きつけられたり、地面に強く落下したりして、全ての囚人が動かなくなる。


『アディオス。安らかな眠りを・・・無理か?ははははは!』


 高笑いするパイロットの動きを機体が忠実に真似る。


『なかなか楽しかったぜ。そんじゃ仕事に・・・いやお楽しみはこれからだな』


 【ディス・フィアー】が振り返り、敵が振り下ろした音波刀(ソニックブレード)を手で受け止める。


 驚く事にあらゆる物質を両断出来る筈の武装がまるで棒きれのように扱われていた。


『く・・・!お前ぇーッ!!』


 斬りかかった機体―――【オールガンズS】の外部スピーカーからルゥの声が響く。


『そういやお前もいたな・・・悪いな。忘れてたわ』


 【ディス・フィアー】が相手を馬鹿にするように首をかしげる。


『よくもバハルを!お前だけは!!』


 【オールガンズS】が肩に装備しているもう1本の剣を引き抜き、高速の斬撃を繰り出す。しかしまたもや剣を掴まれ、止められる。完全に見切られていた。


『許さないってか?』


 バニッシュが鼻で笑う。次の瞬間、漆黒の機体が両腕をひねると、元々薄く脆い刀身が半ばから叩き折られ、砕け散った。


『まだ!!』


 素早く剣を放り捨て、格闘戦を仕掛ける。近接用に特化した【オールガンズ・S】は自身の素手を用いての戦闘を行えるようになっている。


『いいねぇ・・・おれはこっちの方が好きだぜ』


 相手の拳撃をいとも簡単に受け止めるバニッシュ。そして不敵に笑う。


『だが少しばかりパワー不足だ』


 恐ろしいほどの出力を吐き出した【ディス・フィアー】は、掴んでいた【オールガンズ・S】の拳をいとも簡単に握りつぶした。


『な・・・!?』


 あまりの能力の違いにルゥは愕然とする。その隙に【ディス・フィアー】が相手の胴体に蹴りを叩きこんだ。


 水色の機体が建物の外壁に叩きつけられズルズルと崩れ落ちる。


『惜しいな〜。機体が違えばもうちょっと楽しめたのによ。あ、お前らじゃその機体が最新式か?』


 【オールガンズ・S】から反応は返ってこない。衝撃で中のパイロットは気絶しているようだった。


『つまんね。とりあえず目撃者は殲滅っと・・・そういえば―――』


 砲撃音。【ディス・フィアー】が素早く反応し、上空へと飛びあがる。その場を通過した砲弾がレーダー塔に直撃し、爆砕した。


『お前は楽しませてくれんのか?』


 見降ろす先―――森の中には煙を立ち昇らせる大砲を構えた白い機体【ディオン】がいた。


今この機体が装備している長射程200mm滑空大砲は一撃で山肌に大穴を開ける程の破壊力がある。余波だけでもギア・フレームを中破させられる強力無比な兵装。しかし、致命的な欠点も存在する。


『さっさと捨てろよ。そんなもん持ってちゃ動けないだろ?』


 バニッシュの指摘どおりである。砲撃時に起きる強力な反動を抑える為に、地面に装備を完全に固定する必要があるのだ。結果として機体は、その場を一切動く事ができない。


『ちっ!』


 砲撃。もう一度滑空大砲が轟音を響かせる。目にもとまらぬ速度の砲弾が【ディス・フィア―】の胴体に着弾したはずだった。しかし爆発は起こらず、機体の装甲に触れた時点で弾が停止し、あっけなく落下した。


『返すぜ。ほれ』


 漆黒の機体が指を相手に向ける。その先端に大気の歪みが発生する。


『!!』


 大砲を離脱(パージ)し、【ディオン】がその場から退避。残された大砲に歪んだ大気が直撃する。フレームが歪み、まるで粘土の様に潰され、滑空大砲が見るも無残に粉砕された。


『出てこいよ。山1つ丸裸にしても―――』


 バニッシュが言い終える前に森の中から、無数の弾丸が襲いかかった。なんなく回避運動をとると、射撃地点を見下ろす。


 【ディオン】は新しく、ガトリングキャノンを装備していた。重量のある強力な武装だが、得体のしれない能力を使う【ディス・フィアー】と比べると、頼りなく感じる。


『なるほど、森の中に武器を隠してやがったか。てっことは、俺が来るのを予想でもしてたのか。読みがいいな』


 感心していると、警告音が響いた。大型熱源接近。


『ミサイルかよ。どこから―――なに!?』


 レーダーで確認しようとした瞬間、機体を衝撃が襲った。メインカメラが爆炎で埋め尽くされる。


『ちぃッ・・・!』


 爆炎を振り払うと、今度は逃げ場がないほどの小型ミサイル群が降り注いだ。次々と着弾しさすがの怪物機体もたまらず降下する。


 【ディオン】のハッキングシステムによって、レーダーを狂わされていた。気がついた時には直撃を回避できない距離にまで大型ミサイルが到達していたのだ。その後の小型ミサイルの波状攻撃から、付近の防衛システムにもアクセスしていたようだ。


『やるなぁ。なかなか楽しいぜ・・・』


 煙の尾を引きながら機体が着地し、ゆらりと直立する。


 【ディオン】は有無を言わさず、ガトリングキャノンを正確に速射。狙いは敵機―――の足元。派手にえぐられ、地面が陥没。漆黒の機体がバランスを崩して転倒する。


 そこに絶妙なタイミングで再び小型ミサイルの豪雨が襲いかかった。


 すさまじい轟音と爆炎が発生し、周囲の木々が一斉になぎ倒される。【ディオン】は吹き飛ばされないよう、火器を地面につきたて片膝をつき、対衝撃防御の姿勢をとっていた。


 一瞬とも永遠ともとれる爆撃の嵐が唐突にやみ、静寂が訪れる。普通ならこれ程のミサイルを受けて、無事で済むはずがない。


『ち、あれだけたたきこんでも・・・!』


 ロイドが舌打ちする。漆黒の機体は多少装甲に傷がついたぐらいで、損傷らしいものはまったく見られなかった。


『いいねぇ。完全にやられた。はめられた。それでもこれが当然だ』


 【ディス・フィアー】が衝撃波放つ。今度は構えなし。


『くっ!!』


 間一髪のところで【ディオン】は回避できたが、放り捨てたガトリングキャノンが粉砕される。素早く固定武装の大型ハンドガンを抜くと、後ろに跳び、置くように連射する。


『いい動きと判断だ。まだ楽しめそうだな』


 バニッシュがそう言って、逃げた機体を追おうとする。しかし、ふと足が止まる。


(妙だな・・・あの逃げるような動き・・・・・)


 飛行翼を展開。バニッシュが何かを感じ、機体を上空へと飛翔させる。


 目を閉じて、集中する。するとコックピット内を走る無数のラインに金色の光がともる。


 機体を通して感覚が強化される。そして、その音を聞いた。多数の車両が移動している―――


『・・・・・なるほど、援軍か。全部相手すんのは疲れるな』


 森に隠れた【ディオン】が射撃で牽制して来る。避わしながら漆黒の機体はさらに上昇。


 相手は独力で自分を倒せないと分かっていた。派手な攻撃をしながらもレーダーを狂わせ、援軍の接近を悟らせないようにしていたのだ。


 さすがに大編隊を相手にする気は今はない。それに当初の目的は達成している。


『なかなかだぜ【白銃】。次はもっと楽しもうぜ』


バニッシュはそう言い残し、機体を反転させると、一気に加速。凄まじい速度で戦線を離脱していった。

 

完全に敵の姿が見えなくなり、ロイドはようやく臨戦態勢を解いた。機体はハンドガンを下ろし、腰に収納する。


『どうやって感づいたんだかな・・・』


 【ディオン】のコックピット内―――無数の空間ウインドウが展開し、ハッキングで見せる偽のデータと本来のデータを表示していた。


 機体性能が信じられない程に高いあの敵機。ハッキング対策もされているようだが、強力な【ディオン】の電子兵装はなんとか通用したようだ。とはいえ決定打には程遠い。


『・・・ルゥ。生きてるか?』


『・・・ロイド・・僕・・・・・守れなかった・・・』


『しばらく寝てろ。無理すんな・・・』


 音声のみの通信だったが、ロイドには、今のルゥがどんな顔をしているのかよく分かっっていた。


 何も言えない。いや、何も言わない方がいい。自分にとって大切な人を全て守るなど不可能なのだから。


 いまだに煙が立ち上る施設に、援軍が到着する。すでに敵はいない。


(こいつは、本格的に調べた方がいいかもな)


 漆黒の機体が飛び去った方角を、白い機体が見上げていた。







「意外と活気があるね」


「ああ」


 翌日の朝。レイヴン、アル、アミーナの3人はそろって近くの町に来ていた。午後から新型機の説明があるとの事で気晴らしにここに来ていた。


 7番隊基地の目と鼻の先にあるこの町―――【カールフ―ス】は食料品や衣類の流通拠点として栄えている。


 つまり、最先端のファッションとおいしい食べ物が有名な町ということだ。


 朝市がいつも開かれており、現在の活気はそこに集中している。


「おいしそうな果物がいっぱいあるねぇ〜」


「アミーナ、よだれよだれ」


「おっと、いかんいかん・・・」


 あわてて口元をぬぐったあと、さっそく大量の果物を購入するアミーナ。もちろん持つのはレイヴンである。


「やっぱりレイヴン君は力持ちだね。連れて歩いてよかったわ。さ、次行こう」


「っていきなり買い過ぎでしょ!?」


 完全に荷物持ち扱いになっているレイヴン。多少なら持って当然とは思うが、今の時点で山のような量である。しかも果物のみ。


「・・・多少重いな」


「アミーナも少し持ちなさいよ」


「えー、だって重いし〜」


「そう思うなら買うな!」


「私・・・後悔しない生き方をするって決めてるの。だから買いたい時に買う!」


「目を輝かせて言うんじゃない!限度があるでしょ!?」


「女は我慢しちゃダメよ」


「人間として我慢を覚えんかい!」


 そんな言い合いをしている2人をレイヴンが眺めていると、通りの出店から怒声が響いた。


「こらぁ!!このガキども!!」


 突如の大声に、アルとアミーナは言い合いを中断し、レイヴンも先にあるアクセサリーの店を見る。


 中年で小太りの店主が、ボロボロの服を着た2人子どもの襟首をつかまえて怒鳴っていた。その子供の手には銀色のブレスレットが握られていた。


「ガキだからって甘くしねえぞ!来い!警察に突き出してやる!」


 額に青筋を浮かべた店主はそのまま子供を店内に引きずっていこうとする。


「少年犯罪か〜。物騒だね」


「ん?アルはどこだ・・・?」


 そこで2人はさっきまで真ん中にいたはずの人が忽然と消えていることに気がつく。


「店主さん。ちょっと待って!」


 そのアルはいつのまにか店主に駆け寄っていた。


「おや、お客さんかい?少し開店が遅れるけどすまないね」


 子供をつかまえたままで店主はひとあたりのよい笑顔で話す。


「その子達どうしたんですか?」


「こいつらかい?いつも店にくるんだよ。商品を見てるだけだったから気にしてなかったんだが、今さっきこのブレスレットを盗んで出て行こうとしたのさ」


 呆れ気味に店主がそう言うと、初めて男の子が口を開いた。


「だって・・・きれいだったから・・・・・」


「浜辺で拾う貝殻じゃねぇんだ!お金を払わないといけないんだよ!そんなことも分からねえのか!?」


「お金・・・?なに・・・それ?」


「君、お金を知らないの?」


 アルがその子と目線を合わせて尋ねる。今にも泣きそうな顔の双子の男の子と女の子は一言小さな声で答える。


「・・・・・うん」「・・・・・ごめんなさい」


 それを見て、アルは思った。おそらくこの子たちは戦争の被害者なのではないだろうか。おそらく親もなく、これまでなんとか生きて来たのかもしれない。それでもこれほど素直な心を持っている。世の中の不条理に諦めをもっていない。まだなんとかなるはずだ。


「アル〜。どうしたの?」


 アミーナとレイヴンがその場にやって来る。


「ねぇアミーナ。このブレスレット立て替えてもらえない・・・?」


「なぬ?」


 その言葉にアミーナだけではなく、店主も驚く。


「お客さん、そんな無理する事はないよ。こいつらは悪いことをしたんだ。それ相応の罰則を与えないと」


「じゃあ、こちらで罰則は考えるわ。私は警察機関の者よ」


 アルはそう言って懐から警察手帳を示す。それをみて店主も多少驚いたようだが、とりあえず了承した。


「で、アミーナ。立て替えの件だけど・・・」


 銀色のブレスレットを渡してもらい。


「ふふ、ただとはいかんね〜。『アルちゃんを今度1日自由にする権』というのを頂けるのなら話は別だが〜?」


「うぅ・・・わかったわよ!・・・この際しょうがないわ!」


「ふふふ、交渉成立♪んでおいくら〜?」


「あれは○○○○○○ラドルだが・・・」


「が・・・!!」


 恐るべき金額を聞いた瞬間アミーナの顎が落ちた。


 それを尻目に、アルは受け取った2つの銀色のブレスレットを2人の子供達にそれぞれ手渡す。


「はい。大切にしてね」


 2人の子供達は大はしゃぎだった。これ以上ないくらい無邪気な笑顔にアルもつられて微笑む。


「ねえ、あなた達の名前はなんて言うのかな?教えてもらえる?」


「僕はセイナ!」「私、ミーナ」


「そう、私はアルカイン。よかったら、少し一緒に行きましょ?」


「うん!ありがとうお姉ちゃん!」


「ありがとう!」


 アルと2人が話している中、レイヴンはこの子供達にどこか見覚えがあるような気がしていた。


(気のせいか・・・?)


「あぁ・・・何と言うこと・・・・・・」


 アミーナは、手持ちのお金がなくなったようで、がっくりと肩を落としていた。少なくともレイヴンの持つ荷物が増えることはなくなったようである。



超久しぶりに彼方からの声更新です。久しぶりに感想が来てて、「読んでる人いたんだ」とか思ってました(笑)まぁ、マイペース更新なのでご了承ください。では読んでくださってる方々ぬ無上の感謝を!

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