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第22話:新たなる剣<4>

 新7番隊基地の宿舎内―――


 すでに日は暮れ、あまり騒がしくない基地内は、静寂に包まれていた。


「・・・・・・」


 自動販売機の明かりだけで照らされた薄暗い休憩所。そこにあるベンチでレイヴンは顎に手を当て、1人座っていた。


(ゲートをくぐった時に感じた視線・・・気のせいだと思うにはどうも・・・・・・)


ここに来た時からずっと気になっていた、不穏な気配。


気配、というにはおおげさだろうか・・・。それとも本当に気のせいなのか・・・。


(警戒しておいた方がいいのか・・・)


 その時、休憩室のドアが開いて、別の人物が入ってくる。


「ん?考え事の途中に邪魔をしてしまったかな」


 休憩に立ち寄ったソリスだった。


「いや、そうでもない」


 レイヴンはスッと立ち上がって、入れ違いに出て行こうとする。


「ちょっと待った」


 ふとソリスに呼び止められる。足を止め、振り返る。


「少し話いたい。いいかい?」


「・・・ああ」


「飲み物はいるかい?」


「もらえるなら」


「じゃあブラックコーヒーで」


「できれば甘いので頼む」


 ガコン、と2人分のコーヒーを買い、片方がレイヴンに渡される。


 ソリスがベンチに腰かけ、タブをひねる。レイヴンは缶をあけずに立ったまま壁に寄りかかった。


「――――レイヴン=ステイス、だったかな?君とは前々から話したいとは思っていたんだけど中々暇ができなくてね。ここで会えたのも何かの縁なんじゃないかと感じているよ」


 ソリスは、普段、誰にでも見せているさわやかな笑顔で話す。しかし、レイヴンはそれが自分を試すような口調に感じられた。


「――――俺に話したい事がある、と言ったが・・・?」


「君の事が聞きたいのさ。最近のアルのメールに君の事が書かれてる事が多いんでね」


「・・・それは初耳だ」


「ああ。これでもアルの父親代わりをやってた時期もあったし、妙に気になるのさ。経歴不明(・・・・)の男との同居に関してはね」


「・・・・・・」


 ソリスの目つきが変わった気がした。アルと同じ黒い瞳が、どこか射るような視線を向けてくる。


 経歴不明だけではなく、製造元不明のギア・フレーム、そして記憶喪失―――疑われるのは当然。むしろ、いままで何も言われなかったのが不思議なくらいだ。


「カリスさんが置いているくらいだ。君の人格については疑わない。だが、腑に落ちない事はある。―――君はどうしてアルの側にいようとする?」


「直接聞くのか?」


「はっきり言っておこう・・・君は信用できない」


 静かな威圧がヒシヒシと伝わってくる。目の前にいる男は、自身の兄妹を心の底から案じているようだ。アルも、この兄が倒れた時は、今にも泣き出しそうに見えたのを覚えてる。


「―――俺は記憶を探している。それを取り戻した時は―――アルの目の前から消えるつもりだ。どうせロクな事じゃない」


「それまでアルを利用する、とでも?」


「―――アルに助けられ、ここに来た。まだ日は浅いが、助けられた借りは多い。それを返したい。そう見られても文句は言えない身だ」


 レイヴンはごまかしなど一切言わなかった。今、何故、彼女の味方で、そばにいるのか―――その理由を自分に言い聞かせるように。


「―――突然現れた君の危険性を僕は無視しない。そしてそれを自覚する事だ。レイヴン=ステイス」


「・・・・・・」


 ソリスはそう言って、コーヒーを一気に飲む。その空き缶をゴミ箱に投げ入れると、静かにその場を後にした。


 また1人になったレイヴンは手に持ったコーヒーを表情も変えず見つめる。


(―――君の危険性を俺は無視しない―――)


 その言葉はひどく印象に残った。前にも同じような言葉を聞いた。


 謎の赤い機体と初めて交戦した時、相手のパイロットは言っていた。


(―――俺達はここにいるべき存在ではない―――)


 今いる場所はかりそめでしかないのなら、自分はどこにいるべきなのか。


 答えは、出そうもなかった。







「お爺さんがあのカイ=アドフスト?」


「だーから、そう言っとるじゃろう。伝説的な男に出会えて心踊らんのか?アルちゃんや」


「うーん・・・」


 いきなり風呂上りの女の部屋に現われて彼氏なしを指摘されてどう心躍らせればいいのよ!、とは言えなかった。


 相手はギア・フレーム開発当初から関わってきた超がつく程の大物。無下に追い返すわけにもいかず、どうしたものかと悩むばかりだ。


「それにしても、あんな小さかったアルちゃんがこれほどの美女になっとるとはな。長生きはするもんじゃ〜」


「え、小さかったって・・・子供のころ会いましたっけ?」


「いやいや、ソリス坊がもっとる写真を見せてもらったんじゃ。見た瞬間、一瞬で脳が生き返ったわい」


「はあ、それはどうも・・・」


 先ほどからカイに押されっぱなしでなかなか帰ってほしい、と言い出せないアル。するとそこへ―――


「こんばんわー。アルーいるー?いないー?」


 扉の向こうからよく聞く声が響いた。


「アミーナ!待って、すぐドアを開けるわ!」


 普段は、出現=ひと苦労の親友が今はとても心強い援軍に感じた。


 ドアを開けると少々おどろいた顔のアミーナが立っていた。紺色のハイネックのセーターに下は同じ色のジャージの様なものを履いている。すでにシャワーを浴びてきたようで、髪からほのかな香りが漂ってくる。


「あらー、あっさり開けてもらえるなんて・・・出直そうかな」


「悪かったわねあっさりしてて」


「私を待ってた・・・ってことは・・・だめよ!私達は女同士なの!結ばれてはいけないのよ!?」


「違うわッ!!」


「誰が来たのじゃアルちゃんや?」


 部屋の入口でワイワイ言っているのを気にしたカイが様子を見にきた。するとアミーナが驚きの声を上げる。


「あー!カイのお爺ちゃん!」


 対するカイも同様に驚く。


「なんと、アミーナちゃんか!?いやーベッピンさんになったのうー」


「やだー。言われなくても自覚してるわよ〜」


 いきなり盛り上がり出した2人を交互に見ていたアルは別の意味で驚いていた。


「あれ?2人って・・・知り合い?」


「飲み仲間じゃ」「飲み仲間よ」


 2人が知り合い・・・飲み仲間・・・騒がしい・・・と言う事は次の展開は―――


「では久々に飲み比べと行きますかー」


「ちょ―――」


「お、いいのー。受けて立つぞい!」


「あの―――」


「積もる話もあるし、とりあえず中に入りましょ入りましょ」


「ここ私の―――」


「おーそうじゃのー」


「―――お前ら出て行けーっ!!!」


 アルの大声が響いた。







7番隊基地からそう遠くない場所―――


 森林迷彩の服を着た男が包帯を巻いた男と言い争っていた。


「バニッシュ様!そ、それはどういう!?」


「ああ?だから言ってんだろうが、一旦ここを離れるって。急用が出来たんだよ」


「わ、我らを見捨てるのですか!?」


「元々は俺なしでも行動を起こすつもりだったんだろうが。ビビってんじゃねえよ」


「確かにその通りですが・・・」


「なら問題ねえじゃねえか」


「しかし、それでは約束が・・・!」


「―――約束?」


 スッとバニッシュの纏う空気が変質する。まるで隠している牙をちらつかせる獣のように。


 周囲の男達が背筋に悪寒を覚え、最も近くにいる正面のリーダーらしき男は、恐怖にも似た感覚に一切の発言を禁じられる。


「勘違いすんなよ。俺がお前らに協力してやってんのは気まぐれだ。別に俺1人でも事は足りる。それを忘れんな」


「は、はい。わかりまし、た」


ようやくそれだけの言葉を出すと、バニッシュは一言告げる。


「そんなに心配しなくても最後まで協力してやるよ。利害は一致してるからな」


そう言って踵を返すと、バニッシュはその場を後にした。


完全に姿が消えたのを確認すると、リーダーの男はフーと息をつく。近くにいた部下が歩み寄ると真っ先に尋ねる。


「リーダー、本当にあの男は信用できるんですか?」


 仲間の疑念はもっともだった。あの男は数日前に突如現れ、自分達に武器弾薬を提供してくれた。そして今回の切札とも言える【アラクネス】というギア・フレームまで。


しかし現れたというよりは襲撃してきたと言う方が近い。


ナイフ数本でことごとく仲間が戦闘不能されていく様は圧倒的と言うほかなかった。敵でないのは救いだ。


ましてや、自分達に協力するというのだ。疑念は晴れないが、なくてはならない人物なのも事実だった。


「―――今は計画の事を考えよう・・・みんなを集めてブリーフィングだ」


「・・・了解」







 機体のコックピットでバニッシュは悪態をついていた。


「たくっ・・・メンドくせえ。自滅志願の馬鹿どもの面倒見るなんざよ。ま、面白いもの見れたからほんの少し興味がわいたがな」


 コックピットには当然、彼以外存在しない。なのに誰かに語りかけるかのような口調だった。


 バニッシュはコンソールを操作し、どこかへの回線を開く。


「おい、ヴェイヘル。なんの用だ?しょうもねえことだったら殺すぞ」


 本気とも冗談とも似つかないその口調に音声だけで通信相手が答える。


『―――バルフィリカでの接触者を消して来い。情報が漏れる可能性がある』


「んなこと自分でやれよ・・・」


『―――まだあの機体は動かせん。俺も動けん。【ベリアル・クライ】は大破。クロセルは再生治療中だ』


「・・・・・・ちっ、俺に頼む事がどういう結果になるかわかってるよな?」


 その挑戦的な口調にも相手は変わらずに答えた。


『―――【ディス・フィアー】を見た者は逃がすな。以上だ』


 そう言って一方的に通信は切られたが、バニッシュは顔を押さえて殺気の様な歓喜を抑えきれないぐらいに震えていた。


「いいぜえ・・・存分に死と恐怖をばらまいてやるよ!!起きろ【ディス・フィアー】!!」


 その一声が響いた瞬間、コックピット内を走る無数のラインが金色の光を走らせる。操作も無しにシステムが自律起動し、あらゆる機器が文字の羅列を出現させる。


 夜の森の闇の中に2つの金色の目が光る。


 立ち上がった漆黒の機体は、コウモリの翼の様な飛行翼を音もなく広げ、静寂の羽ばたきと共に月が照らす夜空へと舞い上がった。


圧潰(あっかい)させてやるよ!すべてなあ!!ははははははっ!!」







 7番隊基地。アルの部屋―――


「はあ・・・あの2人が知り合いで飲み仲間だったなんて、計算外だった・・・」


 近くの隊員をつかまえて飲んだくれた2人を連れ出してもらったが、部屋には空になった酒瓶が所狭しと転がっていた。まるでゴミ屋敷である。


「お酒ってそんなにいいものかしら・・・?」


 昔、1回だけ忘年会で飲んだことがあるが、飲んだ後のことはよく覚えていない。それ以来、何故か仲間からは、頼むから飲むな、と言われる。


「ちょっとぐらいいいかな・・・」


 まだ開いていないサワー(アルコール度数低め)の缶を見つけ、タブをひねる。それを口につけようとした時だった。


 ドアの方から、ガタガタと音が聞こえた。アルがドアに近づいて、のぞき窓から外を見ると、レイヴンが首をかしげていた。


 カギを外してドアを開ける。


「レイヴン、どうかした?」


「―――いや、どうやら部屋を間違えたらしい。すまん」


「ううん。気にしなくていいよ」


 レイヴンは部屋の奥に転がった無数の酒瓶とアルの持っている缶を見る。


「―――寝酒にしては多くないか・・・?」


「へ?ち、ちがうわよ!?これは酒豪共の宴のせいだからね!?」


「―――かたずけてるのか?なら手伝おう」


「いや、いいよ。もう夜遅いし」


「夜遅いならなおさらだ。さっさとかたずけて就寝した方がお互いのためになる」


「でもレイヴンが手伝う必要ないでしょ」


「見た以上無視するのも後味が悪い。こっちが勝手にやる事だ。気にしなくていい」


「気になるんだけど?」


「ならさっさとかたずけるべきだ」


 まるで当然の事のようにかたずけ始めるレイヴンを見て、あるは思わずクスリと笑った。


「―――そうだね。そうする」


彼方からの声、久々に更新っす。もうちょっと早く更新していきたいですが、なかなか案が浮かばないものでして(汗)。この小説を読んでくださってる方には無上の感謝を。ではごきげんよう(^^)/〜

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