第18話:バルフィリカ襲撃戦<7>(★)
――――――久しぶりだな。元気してたか?
なんだ?この光景は・・・・・・あれはロイドなのか?
――――――なんだよ。せっかく心配して来てやったのに。ん?俺の方が?大丈夫だってピンピンしてるぜ。
これは、俺の記憶か・・・?戦争時代に俺は、生きていたのか・・・?
――――――ふむ、元気そうで何よりじゃな。しっかり食べとるかの?
この男は・・・ファルド=カリスマン―――どういう事だ?俺を知っているのか?
――――――お主も立派になったのぉ。そのお主のおかげでもうすぐこの100年続いた戦争も終わる。もうひと踏ん張りするかの。
俺は、戦っているのか・・・?戦争を終わらせたのか・・・?
――――――任せたぜ―――
あれは、俺ではないのか・・・?なら・・・・だれ――――――――――――
●
「ロイドッ!!」
アルが叫んだ瞬間、レイヴンは現実に引き戻された。
「ッ!!」
次の瞬間にその眼に写ったのは、【べリアル・クライ】に吹き飛ばされ、ビルに叩きつけられた【ディオン】の姿だった。
「レイヴンッ!起きて!ロイドが!」
「ああ、目が覚めた」
レイヴンはそう言うとコックピットハッチを開放した。
「降りて奴を救助しろ。お前が乗っていると満足に動かせん」
「わかった!」
【ブレイズ・ソウル】の手に飛び乗ったアルは地上に降ろしてもらうとと、崩れ落ちた【ディオン】に向かって走り出す。
ハッチを閉じながら、【ブレイズ・ソウル】が再び立ち上がる。
(そうだ、俺はここだ・・・今が現実だ)
操縦レバーとフットペダルを一気に踏み込む。搭乗者の意思に応え、青い機体は身をかがめ、バネのように高々と跳躍した。
その驚異のジャンプ力で15メートルの巨人が敵機の頭上まで一瞬で到達する。
『来たか・・・』
その接近に気づいていた【べリアル・クライ】が【ディオン】の前から離れ、降下と同時に襲ってきたとび蹴りをなんなく回避する。
「教えろ。俺は何者だ?なぜ、戦争時代の記憶をフラッシュバックする?」
その言葉に敵が顔だけを正面に向ける。少し驚いたように見えた。
『そうか・・・・・・お前も見たのか、あの光景を』
その言葉の終わりと同時に【ブレイズ・ソウル】が殴りかかって来る。その一撃を右腕で受け止める。
『いずれ分かる。その時、お前はこちらに戻る事になるが』
「俺は気の長い方だが、焦らされるのは―――好かん!」
レイヴンの言葉と同時に青い機体の両手から青白い炎のようなエネルギーが噴き出す。
「せぇいッ!!」
振りかぶった右拳で相手の右腕を殴りつける。その威力で【べリアル・クライ】との距離が開いた。
その隙を見逃さない。
「ゆけいッ―――【ハウンド】ッ!!」
突進と同時に両手の中に凝縮させたエネルギーを前方に投げつけるように叩きつける。だが、
『同じ手は喰わん!!』
同時に赤い機体の右腕が展開。その中に瞬時に紅い球体を発生させ、【ハウンド】のエネルギーに真正面から激突させる。
行き場を阻まれたエネルギー同士が上下左右にでたらめに拡散する。ビルを砂のように削り、余波がアスファルトに無数のヒビを入れる。一見、互角にも見えたが―――
(押し負ける・・・!?)
レイヴンがそう感じた瞬間、青白いエネルギーを突き破って、紅い球状のエネルギーが右肩に叩きつけられる。
「ぐっ・・・!!」
吹き飛ばされたレイヴンは、機体をひねって何とか両足で着地する。右肩に目をやると、装甲が溶け出していた。
「ちっ・・・!」
今度はこちらの番とばかりに【べリアル・クライ】が突進しながら巨大な爪で刺突をかけてくる。
6本あるうちの2本をつかんでそれを寸前で受け止めるも、あまりの突貫力に少しずつ機体が押され始めた。
「機体性能を強化したのか・・・!」
その言葉に敵機が首をかしげる。
『違うな。やはり完全には思い出せていないか・・・・・・』
【べリアル・クライ】の蹴りが【ブレイズ・ソウル】の腹部に叩きこまれる。
「ぐあっ!!」
ビルに叩きつけられた機体に再び6本爪の刺突が襲いかかる。ほとんど反射神経でその一撃を止めるが、高熱の爪がジリジリと頭部に近づいてくる。
「く・・・!」
『どうした?こんなものじゃないだろう。お前に秘られた力を俺に再びみせつけてみろ』
【ブレイズ・ソウル】の両手から音をたてて煙が立ち上る。以前は全く平気だった熱量で確実に融解し始めている。
(く、どうなっている・・・!)
『いざと言う時に発揮できない力など持っていないのも同じだぞ』
どういう事だ?こいつは何を言っている?今、出せる限りの力を自分は出している。全力で立ち向かっている。なのに敵はまだ力を出していないと言う。前に戦った時と何が違う!?
「レイヴン!!」
味方の苦戦に気がついたアルが【ディオン】のコックピットから飛び出す。
【ブレイズ・ソウル】が追い詰められている。前の戦闘とは、立場がまるで逆だ。
ロイドは呼吸こそしていたが、体と口からの出血がひどい。心停止しかかってる。応急処置はしたものの時間稼ぎにしかならない。一刻も早く医療班に見せないと危険な状態だ。
今この状況で、敵に立ち向かえるのはレイヴンしかいない。
肌を焼くような熱波が吹きつけるなかで、アルは必死に戦う青い機体を強い眼差しで見据える。絶対に目を逸らさないよう強く、ただ強く。
【ブレイズ・ソウル】の目がアルに向いた。
サブモニターに映し出されたアルの姿を見て、レイヴンはハッとなる。
(そうだ・・・俺が負ければアル達は―――)
自然とレバーを握る手の力が増す。するとコックピット内を縦横無尽に走る無数のラインが金色の輝きを増し始めた。同時に機体のデュアルセンサーもギンッと強い光を放つ。
「おおおおおおおおおおおおおぉッ!!!」
パイロットの叫びに呼応して機体が唸りをあげ、凄まじい力で敵機を押し返す。
『これは・・・ぐッ!』
【ブレイズ・ソウル】の変化を感じ取るのと、回し蹴りを喰らったのは同時。左側腹部に受けた攻撃で【べリアル・クライ】が吹き飛ばされ、地面を削りながら転倒する。
堂々と直立した【ブレイズ・ソウル】は水晶のようなエネルギー機関が発光する両腕を顔の前で交差させる。
「セカンドコード―――開封ッ!!」
後頭部の放熱フィンが銀から紅に染まる。装甲の隙間からエネルギーが溢れ出し、交差した両腕に集束していく。それは青白い光を放つ2本の巨大なエネルギークローとして武装化した。
転倒から起き上がり、その力をまのあたりにした赤い機体が呟く。
『やはり、奴のカンは当たっていたのか・・・』
巨大なエネルギークロ―を手に入れた【ブレイズ・ソウル】はぐっと身を沈めると、蹴った地面を割るほどの脚力で突進する。
スッと腰を沈め、回避の姿勢をとる【べリアル・クライ】は初撃の突きを避けたものの相手の能力の上昇が異常すぎた。
『ッ!!速いッ!?』
「遅いッ!!」
【ブレイズ・ソウル】が踏み込んだ右足を軸に回転するように斬撃を繰り出す。とっさに右腕を盾にし―――爪が1本両断され、宙を舞った。そして、2撃目が左腕から肩にかけての装甲を削り取る。
『く・・・!』
【べリアル・クライ】は破損など意に介さず5本になった爪で再び熱球を発生させ【ブレイズ・ソウル】のブレードにぶつける。だが今度は赤い力が一瞬で押し負け、青白い切っ先が赤い機体の頭部の装甲を貫いた。
『なっ―――!?』
左側頭部から装甲を削ぎ取った、ブレード状の巨爪をレイヴンは再び体の前でクロスし、叫ぶ。
「切り裂き、散らせッ!【クロスライセント】ッ!!」
巨爪がその渾身の一撃を十字の軌道で振りおろした。
●
『なにっ!?』
バハルが叫んだ時には、【オール・ガンズ・S】は華麗に宙を舞っていた。目にもとまらぬ速度で音波刀が閃いた次の瞬間には、すでに勝負が決していた。
『ルゥ様・・・・・・・見事です』
バハルの声には感嘆の意がしっかりと込められていた。
そこには、音波刀を下ろし、立っている【オール・ガンズ・S】の姿と、―――拳から肩にかけて両断された右腕から黒煙を立ち昇らせている【サイフォス・ウルド】の膝をついている姿があった。
『機動戦で【サイフォス・ウルド】は不利だ。なら僕を『市街地』という隠れ蓑から引きずり出す必要がある。だから土埃の煙幕を張って飛び出して来るのを狙っていた・・・昔の僕なら引っかかってたかもしれない』
煙幕を飛び出した時に【サイフォス・ウルド】の一撃が来るのをルゥは予測していた。
放たれた重量のある一撃に対し、【オール・ガンズ・S】が左肩の防御盾を掲げたのをバハルは、苦しまぎれの防御だとみてとり、構わずその上から殴りつけた。だが、その盾は事前に切り離されていたのだ。盾だけを殴り、空振りした右腕の隙をつき、ルゥの音波刀が突き入れられ、肩までを一気に両断した。
その後、右腕に内蔵されていた機関砲の弾薬が誘爆を起こし、右腕が完全に吹き飛んで、使い物にならなくなってしまった。もはや片腕では【オール・ガンズ・S】には太刀打ちできない。
バハルは負けたのだ・・・。
【サイフォス・ウルド】のコックピットが開き、バハルが降参の姿勢を示す。
「本当にお強くなられた・・・ここまでの成長、この機体も最後にルゥ様と戦えてさぞ満足しているに違いありません」
ルゥはバハルの言っている事が分からなかったが、すぐにハッとする。
『まさか、【サイフォス・ウルド】は・・・』
「そう、あなたの父上、イシフェル=パーフェルスの機体です」
『父さんの・・・機体』
「あの方は[神終事件]で私の部隊の隊長でした。この【サイフォス・ウルド】と共に戦場を駆ける姿は、我々の道標でした。そして、激闘の中で散って行きました・・・・・・」
『・・・・・・』
「イシフェル様は最後にルゥ様に伝えるようこう言われました・・・『私よりも強い決意を持って、私と違う道を行ってほしい』と・・・・・・」
『強い決意と、違う道・・・』
バハルの固く閉じられた目から涙があふれ、日に焼けた頬を伝う。
「私は生き延びてしまった・・・仲間は皆、兵士として死ぬことが出来たのに、私はそうなる事が出来なかった・・・・・・」
ルゥは【オール・ガンズ・S】を【サイフォス・ウルド】の前にひざまずかせ、コックピットハッチを開けた。そしてハッチづたいに、深緑色の機体に乗り移り、後悔にむせび泣く男の前にきて、目線を合わせる。
「私は・・・なぜ生きて・・・・・・」
「・・・・・・・僕は嬉しいよ」
ルゥの不意に言ったその言葉に、バハルが目をわずかに開いて、顔を上げる。
「『強い決意を持って、違う道を進め』・・・父さんの言葉をお前は伝えてくれた。死んでしまっていたら、その言葉も永久に僕が聞くことは無かった」
「ルゥ様・・・・・・」
少女が男の背中に手を回し、スッと抱きしめる。
「これから、僕が進む道を見ていて欲しい。世界が兵士を受け入れる時はきっと来る。それを1秒でも早く実現できるよう、戦う僕の姿を・・・・・・」
死地を求めてさまよってきた男の冷たい心に、少女の言葉が温かく響く。
「生きてくれ。バハル・・・・・・」
『生きてくれ』―――その言葉を聞いた瞬間、男は天を仰いだ。
「よかった・・・今日まで、生きていて・・・・・・本当によかった・・・」
ルゥ=フェイネストという1人の少女は、今確かに1人の兵士を―――バハル=グレイド救ったのだった。
●
仰向けに倒れ、機能を停止した【べリアル・クライ】を【ブレイズ・ソウル】が見下ろしていた。
赤い機体の胸部装甲には深い十字の傷跡が刻まれており、左腕もズタズタで、頭部に関しては左半分が砕け、完全に損失している。
レイヴンは、両腕の光の刃をしばしみつめるとそれを霧散させ、消失させた。
さっきまで存在すら知らなかった兵装のはずなのに、今は使い方がはっきりと理解できている。ただ単に忘れていただけなのか。それとも何か別の理由があるのか。
『レイヴン!聞こえる?返事して』
唐突に通信が入る。アルだ。【ディオン】のコックピットから連絡を取っているのだろう。
「ああ・・・無事だ」
『よかった・・・。救助班がすでにこっちに向かってるからロイドは心配ないわ。でもアミーナの機体回収班が来るまで、どこかに機体を隠しておかないと・・・』
「わかった・・・・・・・・・。・・・アル」
『なに?』
「俺が・・・・・・いや、なんでもない。すまない。」
一方的に通信を切る。
(これほどの力を、どうして俺は持っている・・・一歩間違えば―――)
そう考えた瞬間―――
『なーに、しんみりなってんだかなぁー』
その声が空から聞こえ、【ブレイズ・ソウル】がバっと顔をあげた。
そこにいたのは、闇に同化しているかのような漆黒の装甲をまとい、コウモリの様な翼を広げて滞空しているG・Fだった。
「その声は、あの時の奴か・・・」
『ハハァ、覚えててくれたか?どうやらボケてるわけじゃねぇみたいだな』
ゆっくりと降下してきた黒い機体は、倒れた【べリアル・クライ】の傍らに静かに着地し、展開していた翼をたたむ。そして、仲間の機体を呆れたように見下ろすと―――
『やれやれ、機体が未完成とはいえ、ここまでボロボロにされちまいやがって』
肩部を軽く蹴った。
『ま、生きてるみてぇだし、とりあえずは連れて帰るか』
そう言うと黒い機体は、赤い機体を片手で持ちあげて肩を貸すように持ち上げる。【べリアル・クライ】よりも細身だというのに凄まじいパワーである
「待て」
『あ?』
「俺はそいつに聞かなければいけない事がある。置いて行ってもらう」
『断る、と言ったら?』
「この場でお前を倒す!」
【ブレイズ・ソウル】がダッシュをきり、高速で間合いをつめると、右拳を相手の頭部に叩きこむ。黒い機体は、避ける素振りも見せずまともにそれを受けた。だが、
『おお、痛い痛い』
「なに・・・?」
クリーンヒットしたはずの拳撃は相手の機体の頭部をほんのすこし傾けただけでピタリと止まっていた。
今度は黒い機体が【ブレイズ・ソウル】の胸部装甲にスッと指をつけると、
『ほれ』
凄まじい衝撃波を放った。
「がっ・・・!!」
吹き飛ばされた青い機体がビルに叩きつけられ、崩れ落ちる。
『悪いなぁ。今日は気分が良くてな。相手する気はねぇーんだ。また今度な。そん時は遠慮無用でバラバラにしてやるからよ』
漆黒の機体は、再び翼を広げ赤い機体をつれて上昇すると夜の闇に姿を消していった。
バルフィリカ編完結しました。妙に長くなってしまった(反省)。レイヴン覚醒と同時に、新たな敵出現。今度は黒い奴です。ルゥもいろいろ頑張ったところで、今度は面白おかしい話でも考えてみたいと思います。読んでくださってる方、ありがとうございます。