表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/28

第12話:バルフィリカ襲撃戦

―――ボォゴオォォォン


 繁華街が爆音に包まれる。


 それも一か所ではない。大小様々なビルや走行中のバスまで。次々と火の手があがる。


「うわああ!?」


「テ、テロだあ!」


「きゃーーー!!」


 突如起こった惨事に叫びを上げ逃げ惑う市民。


 ―――バゴォォーン


 今度は道路が爆発し、次々と車が横転。玉突き事故もあちこちで発生する。


 混乱の坩堝と化した夜の街では、あちらこちらで巨大な人影が闊歩していた。その数7体。


 ほとんどが翡翠色だが、その中で1体だけがひときわ目立つ深緑色。6体は細身でスタンダードな形であるのに対し、その1体だけは美しい装飾が各所に施され、ズングリとボディデザイン。まるで卵に太い手足が生えたようだった。


 逃げ続けた市民が最終的にたどりついた公園。深緑色の機体はそこへ堂々とした風格を放ちながらズシン、ズシンと歩み寄る。


 公園の前で立ち止まり、頭部の十字型スリットに光るシングルセンサーを怯える市民の集まりへと向ける。


 恐怖で縮みあがる人々に対して、頭領と思われるパイロットは外部スピーカーで高らかに宣言する。


「生き残った諸君らはこれより捕虜となり、我々の交渉のカギとなってもらう。この街はたった今より、【神将団】の支配下となる!!」


 現在では稀な大きなテロ事件となった―――




                    ●




この事件の情報が0番隊基地に届いたのは、翌日の早朝だった。


会議室(ブリーフィングルーム)に集まった基地の警官達は、この緊急事態に動揺を隠せないようだった。


「現在、テロ事件が起こっとるのは南部では5番目に大きい【バルフィリカ】じゃな。詳細な情報に関しては手元の資料を見るように」


 【バスフィリカ】は観光業で成り立つ海沿いの都市。南部政府の財源の30%を担う重要な街だ。


 この世界は、主に4つの国と1つのエリアに分けられる。


 単純に言うと、東西南北の4つが国で中央に位置するのが【自由干渉帯】と呼ばれる。

 

 戦前と戦後で対して変化はない。100年続いた戦争も根本から世界の構造を変えるには至らなかった。


「犯人側からの要求は?」


 男性の警官が尋ねる。


「要求は2つ。1つは身代金だの。人質1人につき一億ラドルを要求しておる」


「い、一億!?」


 驚くのも無理はなかった。今の時代、それだけあれば小規模なら装備の充実した軍隊を作ることができる。当然、それほいと用意できる額ではない。


「ワシとしては、これは表向きの威圧か何かじゃろ。問題は2つめの要求。内容は―――S級の投獄囚、メイス=フルーレンの釈放じゃよ」


『!!?』


 その場の一同に緊張が走った。


 メイス=フルーレン―――戦後において最大級のテロ組織【神将団】の実質的トップであった男。気品があって落ち着いているように見えるが、非常に好戦的で頭がキレる。戦争時代こそ前線での活躍が目立つ1人だったが、戦争が終結しても戦いの味が忘れられず大規模なテロ勢力を指揮・統率。当時、ソリス=J=フィアレスの指揮した警察機関・自衛団の合同勢力【ライブズ】と【神将団】の北部で起こった総力戦[神終事件]は大小5つの主要都市を巻き込むほどの大事件へと発展する。結果的には【神将団】は敗退し、メイスの逮捕によってその後、自然に分解していくことになる。これは戦後、最大の武力衝突として未だ記憶に新しい。


「無論、釈放など持っての他。南部政府はなんとか交渉を引き延ばしておる状態じゃよ」


 がやがやとざわめき出す中で1人壁によりかかっていたロイドが言う。


「ま、こういう時のために俺らがいるわけだ」


「そうね。こういう事件が続くと世界が安定しないわ」


 一番前列に座っていたアルもそう呟く。


「うむ。頼もしいのぉ。詳しい作戦は追って話すが、最大の注意点は敵勢力の所有するギア・フレームの存在じゃな」


 カリスマンが手の中のリモコンを操作し、スクリーンの画面を切り替える。


「これは・・・【ラティオン】」


 画面に映った機体(ギア・フレーム)【ラティオン】―――細身でスタンダードな人型体型。5枚羽のような薄い装甲がついた甲冑型の頭部には横3列に亀裂のようなスリットがあり、3つの丸い光がのぞく。

 戦争時代の後期に製造された機体で、特徴は索敵能力の高さと万能性。3つのセンサーは後頭部まで移動でき、視野における死角がない。索敵では、ロイドの【ディオン】と比べると劣るが、数機集まれば拠点を築けるほどの範囲を確立できる。


「なるほどねぇ。こいつらが5機いれば、こちとらのギア・フレームは近づけないわな」


「おまけに機動力も高い・・・。パイロットにもよるけど真正面から複数を相手にすれば〈オール・ガンズ〉でも勝てる保証はないわ」


 【ラティオン】は見かけこそシンプルで油断を招きそうなのだが、戦争末期の北の国で、拠点の防衛が目的として造られたので、とにかく守りに関してはめっぽう強い。


「確認されているだけでも6機。これだけの戦力を温存して維持できてるなんて、驚くしかないわね」


「専門家でもいたんでしょうか?」


「しかし物資面での問題も―――」


 またざわざわし始めたところで、カリスマンが口を開く。


「まぁ、今考えるべきは、いかにして軟禁状態にある市民を解放し、実行グループを全員逮捕するか―――ということじゃ。今回出動する隊員諸君の健闘を祈る。解散。後、アル、ロイド、ルゥの3人はこの場に残るように」


 隊員達が全て出口に消えたあと、残された3人が互いの顔を見合わせる。


「お前さんたちを残した理由はわかるかの?」


「いえ?」「ぜーんぜん」「・・・・・」


「今、この基地が抱える重要人物のことじゃよ」


「レイヴンのことですか?」


「そういや、最近姿を見ないような・・・」


「そのレイヴンが今おるのが、【バルフィリカ】なのじゃ」


「そんな!」「タイミング悪いよな」「・・・・・」


「お前さん達には彼の救出を頼みたい」


「了解」


「あいよ」


「・・・・・」


「ん?どうしたんだルゥ。腐ったもんでも食ったか?」


「え?あ、いや何でもない・・・・」


「話聞いてた?」


「えっと・・・市民救出の段取り・・・でしたか?」


「いや、レイヴンの救出についてじゃよ」


「あ、はい・・・すいません」


 普段から生真面目の塊であるルゥがボーっとしていた事に、アルは首をかしげた。




                   ●




「まだメイス卿の釈放は決まらんのか!?」


「す、すいません!交渉が長引いていて・・・」


 肩幅の広い、肌が黒く焼けた巨漢の男が苛立ちながら、司令部代わりにしたビルの書斎を歩きまわる。


「それと向こう側も少しずつ戦力を終結させているようで・・・」


「むぅ・・・・・」


 市民を盾に一気に交渉を進ませる手もあるが、下手に強行攻撃されればなす術がない。


 いくら機体があってもこちらの操縦者は所詮にわか仕込みで、熟練者が相手になると全く勝てない。だからといって自分だけは・・・


「大変です!バハル卿っ!」


 突如駈け込んで来た部下が叫ぶ。


「何事だ!?」


「し、侵入者です!数は2人!」


「外見は!?」


「そ、それが奇妙な―――」


 そこまで言って司令部の入り口に人影が現れる。


「言うより見た方が早いと思うが?」


 ひっ、と部下が銃を向けるが、相手はひるむ様子もない。


 その姿を見ただけでバハル卿と呼ばれた男が怯える部下を落ち着かせる。


「銃をおろせ。敵ではない・・・」


 その言葉を聞いた部下は、恐怖で顔が引きつっているものの、恐る恐る銃をおろす。


「・・・部下が失礼をクロセル殿」


 そう言って頭をさげた相手は、肩と首周りに装甲がついた黒いロングコートと顔全体を覆う髑髏を模した仮面(・・)をつけていた。


「・・・気にしていない」


「全くだよな。ちぃっとも歯ごたえがねぇ」


 続いて入って来たのは、前者と同じデザインだがあちこちがボロボロのコートを着て、人相が分からない程、顔中に包帯(・・)を巻いた男。

「バニッシュ、あまり騒ぐな」


 その言葉にバニッシュは、手に持った刃渡り40センチのナイフを肩にかける。


「あ?銃を向けるってことは殺されても文句ねぇってことだろ?」


 とはいうが、ここに着く前に相手をした連中は1人として死んでいない。ナイフの峰や柄で打たれて痛みに呻いているだけ。ひどくて骨折ぐらいだ。


「大変、申し訳ない・・・しかし、連絡をいただければ良かったのに」


「もう必要あるまい」


「それはそうですが・・・・あ、どうぞお座りください」


 勧められたソファにクロセルと呼ばれた仮面の男が腰掛けるとバニッシュはその隣に来て座ると、テーブルの上に行儀悪く足を置く。そして机を挟んだ反対側にバハルが座る。


「お二方には非常に感謝しております。ソリス=J=フィアレスが動けないこのチャンスにまさかこれほどの戦力を用意していただけるとは」


「・・・だが、人材が良くない」


「はい・・・。[神終事件]以後、【神将団】の実力者達は、そのほとんどが死亡か逮捕により欠落しています。現状も極めて不利・・・・・よろしければ、お二方には、ぜひ我らに助力していただきたく存じます・・・」


 深く頭を下げる男をしばらく仮面越しに見ていたクロセルは、唐突に立ち上がり、出口へ向かう。バニッシュも続いて立ち上がる。


「ク、クロセル殿!」


 悲痛な叫びにも似た男の声に、仮面が振り返る。


「協力はしよう。だが、こっちの判断で動かせてもらう」


 背後から何かしら感謝の声が聞こえたが、興味がなかった。


 廊下を歩くクロセルに後ろのバニッシュが言う。


「けっ、何もこんな雑魚共、その気にさせる意味もねぇだろうが」


「だからと言って俺達が手を出すわけにもいかん。ヴェイヘルもレイヴンに関してはしばらく様子を見ろと言っている」


「我慢てのは苦手だ。性にあわねぇ」


「お前には別の場所を任せる」


「あ?」


「表向きでも助力すると言った。形だけでも叶えてやる」


「あは〜、なるほどねぇ・・・・・」


 バニッシュの口元が笑みで歪んだ。


「最終的には、この事件―――迷宮入りになる」


彼声更新です。敵側からの視点も交えて送ります。仮面の男の名前が判明。その名はクロセルさん。初回こそレイヴンにボコボコにされて尻尾巻きましたが、実のところ強い(かも)。次回はレイヴンとある人が混ざって救出編。影が薄くなりがちのルゥについても少しわかるようにしていきたいと思います。読者の皆様もよろしければ感想をお願いいたします。では、ごきげんよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ