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第9話:ようこそ

 隊長室の書斎にて、カリスマンは本部の旧友と連絡を取っていた。

 

現代の最新兵器を圧倒するテロリストの襲撃により、第7番隊基地は壊滅し、数日もたたないうちにこの基地もダメージを受けた。


 この0番隊基地は迅速な対応によって、戦闘員・民間人共に一人の死傷者も出すことなく事なきを得た。もちろん日々鍛練を怠らない部下たちの努力もあるが、それは奇跡的であり、幸運ともいえた。


『災難だったな。カリス』


 映像に映るのは、神妙な面持ちで語るカリスマンと同年代の老人。


 かつては共に戦場を駆けた男は終戦後、【本部代表機関】の1人となっていた。


「いやいや、秘蔵っ子(アル)達が頑張った賜物(たまもの)じゃよ」


 カリスマンの表情はいつもと同じものだった。


『しかし本部は、この結果を良しとしていない傾向がある。表向きは7番隊基地が最高の部隊。本来、表舞台にでないはずの0番隊がアンノーンを撃退したと世間に広まるのは、隠密の任務遂行に不都合が多くなるからな』


「ふむふむ」


『無論、今回の戦果が評価されていないわけではないが、表立った報道には大きな規制が入るだろう。7番隊の再編成も近日中に行われる予定だ。指示は届いているだろう?』


「うむ。しかし、まだソリスも病み上がりの身の上、多くの仲間を失って精神的にもまいっとる。それをまた隊長の位に戻すとなると・・・不安だのう」


『その点においては議会でも考慮している』


「対策があると?」


 

                   ●


―――コンコン


 隊長室のドアがノックされる。


「入ってよいぞ」


 返事を待ってドアが開けられる。


「失礼します―――」


 入室して来たアルは、まず最初に部屋にいた意外な人物に目を丸くした。


「レイヴン?」


 そんなアルの存在に気づいたレイヴンは、そちらを一瞥する。


 何故、彼が?さっきまで医務室にいたはず・・・


「やっとおいでなすったな」


 さらに隣には、壁によりかかったロイドの姿もあった。


「ロイド、これって・・・」


 一切の疑問が解けずにいる状態で、カリスマンが言葉を発する。


「始めてもよいかの?」


「オッケー、オッケー」


 ロイドが軽く言う。


「アルカイン=A=フィアレス」


「は、はい」


 急にフルネームで呼ばれ、慌てて姿勢を正す。


「ロイド=グレイアル」


「はい」


 ロイドが、自分の服装・姿勢・言葉づかいのすべてを正して直立する。


 アルは、その行動に少し驚いた。


 彼はアルが新任としてやってきた頃には、すでにこの基地にいたが、しっかりと制服を直し、模範的な警察機関の人間としての姿を見たことは、年に1・2回ほど。それも通りすがり程度にちらっと見えただけで、実際に近くで見るのはこれが初めてとなる。


 ルゥがいつも言う『どうしようもないサボり男』の陰など微塵も感じさせない完璧なたたずまいからは、『同僚』ではなく『先輩』という方がしっくりくる感じがした。


「本日集まってもらったのは、現在我が基地における問題の対策について議論するためである」


 カリスマンが、今回の招集の目的について告げる。


「先日の襲撃事件においては、諸君らの迅速な対応により事なきを得た。これについて、まずは最上の賛辞を贈ろう」


「・・・・・」


 アルは、ただ隊長の言葉に耳を傾ける。ロイド・レイヴンも同様だ。


「所属不明機の動向については、本部でも議論されている。本格的な対処はおって通達される」


 アルも本部からのこの回答については、ある程度だが予測がついていた。


この時代において最も高い技術を所有する組織は【警察機関】及び【自衛団】であり、今回の未知なる敵勢力(テロリスト)の存在は、『平和』に傾き軍事的に弱体化しつつある全世界にとって大きな脅威に他ならない。だからこそ公の事態となる前に処理することが理想なのだ。


 そう・・・早急な処理が―――


「【警察機関】は、対テロリスト部隊として戦後の社会不安を取り除く目的のもとに存在する組織であることは理解しているだろう。その一員である我々の中にテロ組織の人物がいることは不自然というべきだ」


 カリスマンの話が進むにつれて、アルは背筋が寒くなっていくのを実感する。


「レイヴン=ステイス・・・君は、ここに来た事は不運だったな」


 意外に背の高い老人は立ち上がり、一同に背を向ける。鋭い視線だけがレイヴンに向けられる。


「待ってください!」


 アルはいてもたってもいられず、口をはさんだ。


「何かね、アルカイン=A=フィアレス」


 そんな言葉にもひるむことなく続ける。


「確かに彼は、敵勢力の一人かもしれません!でも今は記憶を失っているばかりか、先日の撃退も彼がいなければ不可能でした!ですからただ単に処分するなんて認められません!」


「・・・・・・・では、彼が記憶を取り戻した時、何者が対処できるというのだね?」


「それは・・・・・・!」


 アルは反論できなかった。見せつけられた圧倒的とも言える力。レイヴンが、記憶を取り戻したときの危険性は非常に高い。いや、下手をすれば世界規模の問題にもなりかねない。


「誰にも答えられんよ。無論、このわしにもな。大切なのは適切な判断・・・・わかるじゃろう」


「ですが・・・・・」


アルは二の句が繋げず黙るしかなかった。


カリスマンが言うことは正しい。まったくもって正しい。


「でも・・・・自分は納得がいきません・・・!彼は、私達を救ってくれました・・・それをただ切り捨てるなんて―――」


「待て」


 これまで聞き手にまわっていた紅髪の男が不意に口を開いた。


「レイヴン・・・・」


 一同の視線が向けられる。


「お前達が俺を危険視するのは当然。否定はせん。そういう処遇を受ける事もある程度予想していた。だが、俺が解せないのはそんなことではない」


 その言葉にアルもはっと気づく。一方カリスマンは、目を細め、ほぅ、と静かに呟く。


「それだけを言うならわざわざここに呼ぶ必要もあるまい。ましてや『危険なテロリスト』を呼びつけるなど危険極まりない無駄な行為だ。投獄された殺人鬼に手錠もかけず合う度胸がある奴なら別だがな」


 レイヴン物怖じせず思うがままに考えを述べる。


 よく考えればその通りだ。カリスマンの話から考えればレイヴンは『テロリストの仲間』として呼ばれたことになる。ただ取り調べるというだけなら隊長が直々に会う必要など微塵もない。厳重な拘束下に置き、本部に連行してから尋問した方がずっと理想的だ。なのに今、レイヴンは手錠がかかっていないばかりか拘束されてすらいない。


「まだ数日だが、話を聞く限り、ここの隊長は老人で機転がきく男だと考えている。そんな男がテロリストをわざわざ、御丁寧に、ここに呼びつけた理由が理解できんな」


「あ・・・・・」


 処分されそうになっているというのに彼には恐れというものがまるで感じられなかった。それどころか、自身の置かれた状況を的確に把握した上でそこに存在する矛盾から逆にカリスマンの真意を探ろうとしていた。


 その冷静さと機転にはアルも舌を巻くしかなかった。さっきから沈黙しているロイドも同じことを思っているかもしれない


「あえて訊いた方がいいのか?・・・何が目的だ」


 カリスマンはしばらく黙っていたが―――


「ふふっはははは!」


 突然に笑いだした。それもあまり見ない爆笑だ。


「ははっ・・・・いやぁ〜すまんのぉ」


 笑い終えた老人は『隊長』ではなく、『おじいちゃん』としての顔をとり戻していた。誰もが頼る年長者の顔に。


「お前さんを呼んだのはな、礼を言うためじゃよ」


「礼?」


「うむ。無論、返答次第では本部への移送も考えていたがの。わしも老いたが、人を見る目だけは枯れてはおらんようじゃな」


「・・・やはり解せんな」


「はは。わしを含めこの基地の皆がお前さんに感謝しておるのじゃ。改めて礼を言わせてもらいたい。レイヴン=ステイスよ、部下であり、家族も同然の皆をよくぞ救ってくれた。心から感謝の意を贈ろう」


 老人が笑っていると、黙り込んでいたロイドがようやく口を開く。


「あー、そろそろダルイんでくずれていいか?」


「ん?ああ、構わんよ」


 カリスマンが言う前に、ロイドはそれまでビシッと決めていた制服を着くずし、いつものスタイルに戻っていく。


「隊長・・・その、処分は・・・・・?」


 アルが恐る恐る尋ねる。すると、


「処分?誰を?」


 カリスマンは何でもないことのように答えた。


「え?」


「レイヴン=ステイスはお主が助けた難民であろう?保護する必要はあれど、処分の必要はないのではないか?」


 アルはあっけにとられるばかりでポカンと口をあけるしかなかった。


「でも、本部への報告は―――」


「そんなものどうにでもなる」


「え、でも・・・」


 どうも事態が分かりかねているようなので、ロイドが説明する。


「つまり、演技。レイヴンはこのまま様子をみる。本部へは適当に言いわけを考える―――だろ?」


 腰かけた老人がうなずく。


「な?」


「でも、本部がそれで・・・・」


「あそこには旧友も多い。なんとかなる」


 何でもない事のように言うカリスマンの采配にアルはどう反応していいのかよくわからなかったが、これだけは理解できた。


 レイヴンは認められたのだ―――――


「レイヴン。お前さんの当面の住居についてだが・・・」


「任せる。俺の意見はない」


「そう言ってくれると助かるのう。実はもう決まっておる」


「根回しが早いな」


「ほほ、せっかちなだけじゃよ」


 カリスマンはそう言うと、一枚のメモを差し出した。


 レイヴンが受け取ったそれには、住居の所在地とそこの責任者の名前―――


「アミーナ=ヴァーチェ・・・」


「へ?」


「そやつなら働き手もよく知っておる。連絡は入れてあるでの」


「ちょ、ちょっと待ってください!アミーナって!?」


 アルが慌てて質問する。


「ん?お主もよく知るあやつじゃが?別人ではないぞ」


「レイヴンなら基地の宿舎でも―――」


「まぁ、レイヴンだけならともかく、機体の問題があるからの」


 警察機関所属のギア・フレームには戦後、特別に規制が強い。各基地の機体保有数はもちろん、追加部品の購入から搬送経路、その他ネジの一本まできっちりと記録しなければならない。一か月に一度抜き打ちの検査官まで訪れる。世界の批判を買いながらも、警察機関が戦闘型の機動兵器を所有できるのは徹底した管理の元に運用されているという理解が根源にあるからだ。


 謎の機動兵器【ブレイズ・ソウル】―――レイヴンをこの基地にとどめるためには、まずこの機体の格納場所を確保する必要がある。


 アミーナは【基地街】で<五天>の1人として地下格納庫の管理をしている。そこならば、民間の施設なので検査の目も届かないというわけだ。無論、アミーナの許可は得る必要があるが・・・


「今はほとんど倉庫じゃが、ギア・フレームが入るスペースも充分に確保できるそうじゃ」


「でも・・・アミーナは性格に問題が・・・・・」


「そんなことはない。わしは何度も会っているが、まともじゃよ。多少色欲が強いがの」


「いや、それって問題なんじゃ・・・・・」


 機体を管理するということは、当然アミーナと同居するというわけで・・・・・


「若いころはいろんなことがあっていいんじゃよ。むしろあった方がいい。面白い」


「何が面白いんです!何が!」


 はははと笑うカリスマンに対し、アルは机をバンバン叩いて抗議する。


「ならお主の宿舎にでも一緒に住まわせるかの?」


「へ・・・?」


 突然の提案にアルが呆然となる。


「アミーナを選んだのは、一応監視の意味も込めてのこと。それを代わってくれるのならそれはそれでよいが?」


「へ・・・あ、それならロイドでも―――」


「オレは野郎となんてパース」


「ええっと・・・ルゥ、とか―――」


「ルゥが見知らぬ奴を部屋に入れるとは思えんがの?」


「え・・・でも、そんな・・・・それは・・・・・」


 次から次へと却下され、声が続かない。かといって1部屋の寝室である宿舎に住まわせるということは、つまり隣り合って眠るしかないわけで・・・・・だいたい、自分たちは男と女であって・・・でもアミーナに任せるというのは危なすぎるし・・・・・


「あう・・・えぁ・・うぅ」


 顔が真っ赤になり目がグルグルまわりだす。ロイドは遠巻きに、おもしれ〜、と呟きながらニヤニヤしているが、それすらも気付かないぐらいに狼狽していた。


 実のところ、アルは生まれてこのかた異性と過ごした経験がない。任務などで男性と行動することはよくあるが、その時は同僚として接するのでたいして気にはならない。だがプライベートとなるとまるで違う。


「・・・・・やはりアミーナにまかせるかの」


「だ、だめですよ!」


「どうすればいいんじゃ?」


「うぅ・・・・わかり、ました・・・・・」


「お、マジか?」


 アルの顔が最大まで紅潮してうつむく。それをロイドは興味半分、驚き半分で眺めていた。


「フム。わかった。では、レイヴンの宿は同じ宿舎でよいな。というよりそれしかだめだがの」


「このことは絶対に外に漏れないようにしてください!絶対ですよ!」

 

 顔をバッとあげ、懇願混じりに叫ぶ。


「むぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仕方ないのぉ」


「何でそんなに間が長いんですか!?」


「ぷぷぷ・・・」


「笑うなぁ!」




                     ●




「えっと、【ブレイズ・ソウル】だっけ。これ?」

 

 アミーナが目の前を仰向けの状態で搬送されていく青い機体を指差して言う。装甲が夕陽を浴びて淡くオレンジ色を反射させる。


「迷惑をかけるがよろしく頼む」


 無表情ですまなそうに言ってくるレイヴンに対し、アミーナは愛想たっぷりに笑顔で手を振る。


「いいっていいって。何かあったら言ってくれていからね」


「頼りにしている」


「でも、機体を格納するなら私の家に住んでもいいんだよ?いろいろと夜のお楽しみが―――」


「心遣いには感謝するが、宿はもう決まっているんでな」


「今からでも遅くはないんだよ〜?私、君にすっごく興味あるし〜」


 アミーナが上目づかいでレイヴンにすり寄っていく。すると、


「ええいっ!離れんか!この色魔めぇ!」


 搬送を指揮していたアルが走ってきてその頭をひっぱたく。


「あたっ!?いたた・・・アル〜なんか力強くない?」


「気のせいよ!」


「フーン・・・・・はは〜ん」


 アミーナが目を細め、アルをジロジロと見る。


「な、何?」


「なーんでも」


「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」


「べっつに〜。あ、そう言えばレイヴン君の宿ってどこどこ?」


「ん?それはア―――」


「わーわーわぁー!!」


 アルが大声で発言を遮るが、アミーナは二ヤリと満面の笑みを浮かべる。すでに手遅れだった。


「なるほどなるほど。ウフフ」


「アミーナ・・・今、何考えてる?」


「なんでもなーいよー」


 そう言うとアミーナは脱兎のごとく走りだした。当然ながらアルもそれを追いかける。


「待ちなさーい!」


「おほほ!捕まえてごらんなさーい」


 そんな言い合いをしながらどっか行ってしまった2人を尻目にレイヴンは地下へとはいって行く【ブレイズ・ソウル】を眺めている。


 自分しか動かす事の出来ない謎のギア・フレーム―――それは自分の記憶への入り口。


 いつか記憶を取り戻した時、この力をどう使っていくのだろうか?


「たっくもう・・・なんて逃げ足が速いやつなの・・・」


 ブツブツ言いながらアルが戻ってくる。どうやら捕獲に失敗したらしい。


「アル」


「ん?」


「誰もが自分を知っているのに俺は自分を知らない・・・それは人間としてあっていい姿だと思うか?」


「え、それは・・・・」


「もし間違っているなら俺は人間とは言えないだろうな」


「・・・・・大丈夫。レイヴンが自分を認められなくても、私は認める。だってレイヴンは優しいからね」


 その言葉を受けたレイヴンは夕日に染まった空を仰ぐ。そして、改めてアルへ顔を向けた。


「いつ思い出せるかわからないが・・・よろしく頼む」


「こちらこそよろしく」


 無表情の青年が素直に差し出した右手を黒い瞳の女性は両手で握った。


「そして、0番隊基地へようこそ。レイヴン=ステイス」


 紅く短い髪と蒼く長い髪が風にのってなびいていた。


だいぶかかりましたが、更新しました。レイヴンの居場所も決まり、ようやく地盤が固まった気がします。そろそろコメディーやら混ぜていきたいと思います。毎回読んでくださる方、長くてごめんなさい。そしてありがとうございます

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