チート使いはVRMMORPGで、村人の配役から逸する
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彼女が《チーロ》拾いを止めて、満足そうな顔をしながらこちらに歩み寄ってきた。近づくごとに揺れる乳は、はみ出さんほどに服が締め付けるなら今ごろ、ハッピーな鼻血噴水が完成していただろう。
彼女は森に住んでいる、と感じさせる清楚な白に緑をあしらった露出が腕と脚に絞られた服だ。だが、そこにエロスチックさが隠れている!
俺はそんな彼女を舐めるように見るなんて出来ない。
何故なら、彼女はスライムの彼女ただ一匹!だから、彼女だけをみようと首を横に向けると、肩乗りスライムになっている彼女がこちらの瞳に映って、覗いている。手を後ろで組んで、微笑んでいるように見える。
「ほれほれ」
人の部分で顎を指すだろう、そこに人指す指の腹を当てると、二回撫で上げた。彼女は満足そうに震え、俺の指の腹に纏わりついて指を体に呑み込んでいく。俺は彼女が舐めてくれている、と考えて指を離そうとせず、好きにさせた。すると、《ヤクモ姉》はそれを見て、
「やっぱり変態だ。妹は正しかったのね……!」
「誰が変態だ。愛のお姉さんは俺と何度もあっているのに、今頃言うなら墓まで持って行って欲しかった!」
「どんなプレイなの?袴で持っていくって。それに、どこに向かって?」
「語弊だー!釈明させてもらうなら、俺は変態だと言わずに心に留めて欲しいんです!アンダースタンドッ?!」
「これが、噂に聞くウザいキャラなんだね!お姉さん、ちょっと引いた」
ウザいと言われたのは生まれてはじめてだ。
俺はそんな楽しい話とはまた違い、それを含んだ利益のある話を口元を結んで話し出したハイエルフ。
「村長、居るでしょ?《フォレスト•マーケットタウン》の。今、彼からクエストを受ければ職業が得られるし、武器が使える。だから足手まといにもならないし、守りたい人が守れるけど……行く?」
俺はその言葉に目を輝かせ頷くと、彼女は立ち上がって尻の砂や埃を払って表に向かって歩いていった。
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彼女が居るだろう家の表に出たのはいいが、見渡してもどこにも居ない。
肩に乗せていたスライムを、先程手に入れたスープの入っていた瓶を空にしてそこに入れて表に出たのに、意味がないじゃないか。これだと。
彼女が居ないかどうか、商店街の奥の方に向かうことにした。
足を一歩前にだした刹那、俺は上から声を聞いた。それはあのハイエルフの声だ。
「待って!今、行く……きゃあっ!」
柵から乗り出して俺に待つように言った彼女は慌てていたため、足下に注意していなかった。結果、足を滑らせて階段を転落。彼女はイタタタ、と言っているが一切ゲージに変動は見られず、出現していない。そこから言えるのは、確信犯であることだ。
彼女には虚ろな目なようで実は冷ややかな半目という設定の視線を向けて、こう言った。
「どうして痛がる。ここではそんなことで痛みは発生しないはずなのに」
「ちっ……気づいていたのか」
彼女は何故か舌打ちをして、爪を噛む。
彼女には苦笑しか出来ない様なマイペースに、また振り回されたところで俺はあることに気づいた。
「そういえば、ハイエルフなんてこの地域じゃ見ないけどどうやって来たの?」
彼女は地図を見たと言った。
画面にそんなものはあっただろうか、と思い返していると彼女は言いにくそうに、あのぉ、と小さな声でそういい、俺のところに駆け寄ってきて耳打ちをし出す。
俺はこしょばゆい吐息が耳にかかって何を言った解らなかった。
彼女は微笑みながら後ろで手を組みながら下がり、
「だから、地図はまだ無理だよ」
何を言っていたかは分からなかったが、地図が使えない事を言いたかったのだろう。俺は彼女に、
「早く行こう」
と促す。
早く行きたくて仕方がない。何故なら、職業がやっと使えるんだ。RPGと言えば職業無しでは意味がなく、例えるなら肩透かしみたいな感じかもしれない。そんなどうでもいいと言えばそうだと、おもわず肯定してしまうかもしれない要らない考えを顔を振って捨て去り、俺は彼女が歩き出すのを見計らって歩きだした。
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俺は大樹が植わったところを中心に広げられた商店街の中枢区に居る。そこは活気に満ち溢れた、誰もが安全でよく利用すると太鼓判を押す名店がぞろり、と建ち並ぶ中に、何故か怪しげな一軒家がある。そこの手前で何故か立たされる俺たち。
木製のドアに付いている金具を引こうか、なんて考えていると向こうから開かれた。そこには火がついていない暖炉があったり、本棚に所狭しと並んだ本があったり、書斎としか機能していなさそうだったりして、いかにもたこにも、ついでにかいにも村長の家だ。
俺はそんな家の中に促されるままに入って、呆然としていた。
「何を見ておる。人の生活なんぞ見ても面白くなかろう。用件は解っておる。っじゃから、手っ取り早く話すぞ」
ご老体に響くであろう早い作業はさせたくないと思い村長を押さえるつもりだが、やはり抵抗があって手が出しづらい。だから仕方なく聴くことにしたが、それまでの間が長い。とにかく長い!
俺は村長の顔を睨み付けて早くするよう催促しているつもりだが、俯いていて視線なんか寄せ付けないせいで伝わらない。言葉にしようかなんて考えても、相手が相手で言い出せない。
俺はエンドレスしてしまう何かに嵌まり、底の見えないぬかるみに足を浸けたみたいだ。
どつぼにはまってしまう体たらくになった。
俺は何を感じてもがいているかは解らないが頭を掻きむしり、怒りに満ちている。これは、焦燥感なのだろうか。
あまりにも苛立たしいため、ついに、
「早くしろよ!村長だろうと、待たせ過ぎだ!」
「……はっ!?寝ておったか」
薄目で、昔は尖っていただろう先っぽが折れた帽子を被った、緑のローブに身を包んだ村長は畳まれて刻まれた深いシワを上に寄せて驚いた顔を見せると、シワのほとんどを戻して目を、また薄くした。
眠気の原因である、薄目キャラクター特有を眠りの入りやすさ。それは薄目だからか、どこだって寝れる。故に、条件を選ばずに寝れる。針の山でも、ゲイにつきまとわれても、それは寝てしまう。俺はそれを知っていて、経験則から言えば、治るもんじゃない。
だから、これしかない。
立ったままの村長の頬をつねった。
「アダダダダッ……何をするんじゃ!ワシは寝とらん」
そういって威張っているが、バッチリと寝ていた。
俺は疑いの眼差しで村長を見る。村長はそれに対して、
「………。それじゃあ、職業を授ける前に、一つお使いを頼まれてはくれぬか?」
「お使いくらいいいけどな」
「おお。内容じゃが、森に行ってスライムの討伐じゃ。先程のスライム事件によって、スライムが町中をうろついておってかなわん」
それは、またしても嫌なクエストだった。
クエストの条件だが、町のスライム討伐だ。だから気兼ねなく倒せそうだが、相手はスライムと言えども高ランクモンスターの突然変異種が居る可能性がある。だとすると、これは辛いだろう。
俺は不服そうな顔を向けて村長に一礼すると木のドアを押し開け、外の空気を部屋に流し込み、このクソったれの部屋から出ていった。
ハイエルフの彼女は俺の背中を慌てて追いかけて、並んで歩く。それを眺める村長は、
「しかし彼に合う職業を、となるとじゃな……召喚士?それよりも………。まあ、結果次第じゃな。もしも、上位スライムの体液を持って帰れたら全部くれてやろうか、とでも考えておこうかのう」
村長は外開きの木製のドアにつけられた金具に手を掛けて、引っ張った。
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町中を転々として、スライムがどこを徘徊しているかを探るなんてあり得ないだろう。論外な考えだとしてそれは愚行。ならば、スライムが何体居ようとも見つける方法を考えたから聴いて欲しい。
方法は簡単。
誰もが思いつくだろうが、敵が居る世界は監視する場所が必要になってくる。すると、物見櫓などの監視塔を設置せざるを得ない。つまり、町のどこかに見渡せる場所があるってことだ。そうなるとそこに登って見渡すだけだ。それで見つけられるだろうが、肝心な望遠鏡だったりが必要になってくる。だが、心配ないだろう。監視塔に監視装置がないと?あり得ない。
俺は仰ぎなが腕を組んで歩いていた。
サファイアのような空に目を細めると、気づいた。
「夜はあるのか?」
そう、夕方すら迎えていないのだ。
俺はそんな事実に驚愕しながら溢した言葉。それを彼女は掬い上げるように、優しい声で、
「夜がなかったら妹に手を出さないから、お姉ちゃんとしては来て欲しいかな」
どうやら、来ても来なくても最悪な事態が予測される。
俺は立ち止まり、大樹の根元で気がついた。それはどこにもない監視塔がどこにあるかだ。それは、
「大樹に登るやつ、居るんじゃないか?」
「大樹か。階段とかハシゴがあるかもね」
彼女は俺が考えている事が解っているのだろうか。まあ、それはともかくこの大樹は何を意味しているのかを調べないとな。
その時、俺は足下に転がってきた虹色の透明感のある物が転がってきた。それは何のへんてつもない……。
「スライムじゃん」
そう、探していたスライムだった。しかし、これをどうしようか。
俺はスライムが倒せない、この先が心配な村人だ。もしもスライムが倒せないのならレベルは上がらずじまいでレベル1の最弱をしなきゃいけない。これをどうするか……。
俺は常に提げられている巾着から瓶を取り出して、
「俺はお前とは戦いたくないから、君の体の一部分を分けてくれないかって言ってくれないか?」
スライムの彼女は傾いて地面に口が向いた瓶から這い出てくると、彼女は虹色スライムに人間でいう足で歩み寄り、口は無いが手が動いたり足が動いたりと、面白い表現で相手に伝えると、その相手である虹色のスライムは跳び跳ねて喜んでいるようだ。
虹色のスライムは俺に跳ねて近づいてき、体を回転させて足元に同じ色の体の一片を貰った。俺はそれをどこかに入れようとしたが入れ物がない。それで困った俺は《ヤクモ姉》に言う。
「どうか、瓶を下さい!」
「……これ?」
ポーチのチャックを開き、そこから瓶を取り出した彼女は首を傾げてそれを差し出した。俺はそれを両手で受け取ると蓋を取ってそこに虹色のスライムの破片を入れる。これでひとまず安心だろう。
俺はそれの蓋を閉める瞬間、あることに気づいた。
「これ、証拠になるだろ」
「そうだね。証拠があれば信憑性が高くてばれないよ」
バレないというのは、倒してもいないということだ。
俺は何となく背徳感を感じる。だから俺は慣れてきた画面を開く動作を行い、《QUEST》を選択した。そこにはクリア済みでないために、クリア済みのクエストのように色褪せいない。俺はそれをタッチして開いた。
古紙が背景に使われた画面に、《村長からの依頼》と書かれていた。毎回思うがベタだよな。
俺はため息を吐きながらクリア条件を見ると、そこには『スライムのブルーゼリーを一つ持ってくる』と書いてあった。つまりこれは条件を既に満たせていた事になる。俺は早くクエストを確認するべきだったと悔やんで、アアッ!とそれを晴らすために叫ぶ。
「急に声を上げるのは犬と狂乱者だけだよ?アホじゃないの?」
罵声ばかりだが、少しキャラクターがブレた。これはツンデレお姉ちゃんか高飛車お姉さまという、よりにもよって萌えじゃないか。俺はシチュエーションだけに憧れているのであって、キャラクターとか設定とかに興味がない。
持論を回し、自己満足で終わった。
俺は満足した表情で、
「ありがとう」
と言った。
「お姉ちゃん、Mは嫌いじゃないよ?」
寒気がした。
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村長の家に再び足を運んだ。
相変わらずの薄汚い家のドアをノックし、待っている。
居るはずだが、村長をいくら待っても出てきもしない。そんな事があってたまるか、なんて思いながら待つが、やっぱり居ない人は居ないわけだ。俺は諦めて帰ろうとしたその時、呑気に食いながら帰宅する姿を無防備に晒した村長がいた。
「ヤローッ!」
「グギギッ!」
跳躍力が調整できないせいかスライムの時と同様に高く飛びすぎ、バイクにのる仮面男の如くキックをかましてしまった。そのお蔭で村長は大怪我、回復の魔法系統の魔法使い三人を要した。俺は村人以前に、このゲームでの力をどうにかして欲しい。そうしないとバランスブレーカーでしかなくなる。
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色々とあったが、なんとか立ち上がれるようになった村長から叱責された後、瓶を見せた。
「おお!お主、あの攻撃は肩透かしではなかったのだな!」
「それよりも、俺の職業は?」
褒め言葉よりも職の、花より団子系バカは村長をバカにするような折りに手を差し出し、指全部を曲げてよこすように言う。村長はもちろん、そんな俺にはため息しか吐けない。
仕方ない、と重い腰を持ち上げて、椅子から離れると俺の横を通りすぎて本棚に向かって歩きだし、一冊の本を指に引っ掛けて取り出してこちらに振り返った。そして村長は俯き、何かを呟きながら本を開いてそれに視線を落とす。
先が見えているのか、本を見ながら歩き出した村長。
当然の結果と言えるだろう、村長の結末。それは本棚に頭をぶつけることだ。
「イデデ……」
村長は頭を押さえ、痛がっている。
「何じゃ、この本棚は!じゃまじゃな」
自業自得だとは思うが、それは置いておこう。
俺は村長を目で追う。村長はそんな視線の中、席に着くと咳払いを一つした。そして、
「今からお主には全ての職業を扱えるようにする」
「それって、性能下がらない?」
よくある話だが、全てが使えるとなると全ての性能やらなんやらが落ちるというものだ。それは一点に集中して職業が使えないという点があるからだ。しかし利点もあって、力が弱くても弱点や道具で補える。もしもヒットポイントがなくなってきたらすぐに後方へ回ってアシストする事ができる。
しかし、一点で攻めるのは魅力がありすぎだ。そのせいで全部はちょっと嫌だな。
「性能は下がらんが、力じゃな」
「力かぁ……」
予想通り、力は落ちるようだ。
俺はそれでもいいだろうか思案した末にたどり着いたのは、
「弓だけにしてください」
「何故じゃ!?お主はスライムの突然変異で発生した、珍しいスライムの欠片を持ってきた褒美としての職業じゃぞ?そんな美味しい話を……」
「棒にふっていい。だって、エルフだから弓を使いたいじゃん?」
その言葉に驚き、口が塞がらない村長は目を丸くしながら本気か?と失礼そうな顔を向けている。ああ、本気だとも。
俺は腰に手をあてて、早くしろと高飛車に出ている。
「まあ、いいならいいが後悔はせぬようにな」
「誰が後悔するもんか」
俺はそう言う。
村長は本当に利益ばかりの腐ったやつだ、と思いながらもありがたく思っていた。俺は村長が口を開くのと同時に息を飲み込み、息を殺した。するとそれと同時に見計らっていたような風が吹き、窓が開き、俺の周りに風が吹き始める。足元から横から、上から。
暴風の中に立っているようだった。
「なっ、何じゃこれは!」
「アンタがやったんだろ!」
俺はつっこまずにはいられなかった。
こんなにも風が吹いてくるなんて、スカート穿いたおにゃのこ連れてきたかった。それだけが理由の、怒りに委せた結果である。村長はただただ、とぐろ巻く風に圧倒されて近づけない状態。俺はそんなとき、ただの弓を取り出した。
「はっ!」
取り出した弓を上に投げる。するとそれはある一定の方向に風が吹いていると気づかされた。まさか、俺を中心に広がるように風が吹いているとは思いもしなかった。俺はその飛んでいった方向へ、窓の方向へ時計回りで歩き出した。
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「よっ……」
俺は出た。
窓から出れるとは思ってもいなかったが、まさかこうなるとは思ってもいない。それはスライムの大群が待っていたことだ。
それを見かけた俺は、ポーチで暴れているスライムの彼女の入った瓶をポーチから取り出して、コルクの蓋を取り外すと外に出した。彼女は外に出ると、少しだけ体を大きくしてスライムたちに歩み寄って、俺の方向を向いて礼をする。これは別れだろうか。
俺は少し悲しくなったが、これでよかったのだと思う。
彼女たちが背を向けて、跳び跳ねて去っていく。その中でも目立つ人形スライムはふと止まり、こちらに体を捻って手を振った。それは高く腕を上げて。
俺は手を振り返して、微笑んだ。
「のどカラカラ……」
「ひえぇ……はげそうだわい」
ドアを勢いよく押し開けて、どうやって出てきたか分からない二人の背後からは本が沢山、後を追って出てきているがいいだろうか。
俺は憂いたが、問題なさそうだ。だって、村長が笑っているから。
「ハハハッ………魔法に気を取られていたわい」
飛んでいった本を眺めながらそういう村長は壊れかけている。精神的に。
俺は歩み寄って肩に手を回し、ポンポン、と慰めるように叩くと涙を流し出す。きっと、それほど嬉しかったのだろう。
俺は慰めがら空に彼女を思い浮かべて、こう思った。
「何か他の種族が飛んでるな」
それは羽が生えていて、小さい。
低空飛行のはずだがまだ小さいそれは俺の目の前にくるまで小さかった。
「うわーっ!どいてどいてよぉ!」
歯止めが効かず、勢いがついたままでつっこんできた。
俺は瞼をしたに下ろすとそこにぶつかり、つぶれたかと思った。
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俺は妖精らしいのにぶつかられた。
「いてて……」
その声は聞きなれた声だった。
そっと目を開けると、そこには愛がいた。
「愛……だよな?」
「そうだけど……デカっ!」
お前が小さいんだ、と言いたいがいいか。