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僕と君と僕らの幸福  作者: lie
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 次の日、僕は山川先生に呼ばれた。十中八九、志望校の話だろう。職員室に入ると、山川先生が高校のパンフレットを持ってこちらを向いていた。


「星咲。いい加減志望高は決まったか?」


「あー、はい。一応。この高校にしようと思います。」


 そういって僕がさしたのは、どこにでもありそうな中堅校だった。ここならば勉強についていけなくなることもないだろう。しかし先生はため息をついていた。


「おい星咲。俺は何度も言っているだろう。高校生活は一生を左右するのだから、熟考する必要があると。」


「でも先生。僕は今が幸せなのです。別に高校に行ってまで、幸福になろうとは思いません。なので、校風がうちと似ている、この高校にしました。これなら、この中学の生徒と同じような生徒が集まると思いました。」


 これが僕の結論だろう。今はこれだけでいいと思った。


「まあ、これがお前の意見ならば尊重してやろう。期限もぎりぎりだしな。」


「そうですね。では、お願いします。」


 そういって、僕は職員室を出た。

教室に戻ると、雨鳥が話しかけてきた。


「星咲! どうだった?」


「普通に高校を選んだだけさ。後はもう、勉強して合格を狙うだけさ。」


「そっかー。無事に決められて良かったね! 受験、一緒にがんばろうよ!」


「そうだね。」


 僕たちは笑い合いながら、授業の準備を始めた。


 ふと気づくと、二月の上旬になっていた。もう願書もだし終わり、今は志願変更期間だ。

僕たちの教室は受験に向けて雰囲気が殺伐とし始めていた。僕は教室で自習をしていたが、そろそろ飽きて来て、帰ることにした。教室を出て廊下を歩いていると、右に図書室が見えてきた。こんな時期だから誰もいないだろうなと思いながらも、覗いてみた。しかし、そこには影が一つ。新聞を読んでいた。


「あれ? 桜空じゃないか。何を読んでいるの?」


桜空は驚いたように振り返り、言った。


「うわ、びっくりした。急に声を掛けないでくれたまえ。心臓に悪いよ。」


「おっと、ごめん、ごめん。」

僕は桜空に近づくと、新聞を読んだ。そこには、


「小学6年生自殺! 何故こうなってしまったのか?」


という見出しと共に、専門家たちのアホらしい意見が書かれていた。こんなの、死んでしまった小学生には何の影響も及ぼさないのに。


「かわいそうだね。死ぬことも、マスゴミのネタにされることも。」


「全くその通りだね。」


僕らはマスコミが大嫌いだ。けど、何故桜空は新聞を読んでいるのだろう。


「ねえ、星咲。この男の子は…幸せだったのかな?」


「さあ…。けど、自殺するぐらいだから、悲しい人生だったと思うけど。」


「そうか…。」


そこで桜空は一泊置いて、


「どうせ皆死んじゃうのに。」


と呟いた。桜空の言葉は的を射ていると思った僕は、


「そうだね。いつかは死ぬから、死に急ぐことはないのにね。」


「ああ、少し社会の目がおかしいのかもしれないね。」


最後に桜空が、


「人の幸福と…死、か。」


とだけ呟いた。


 窓の外にはとても綺麗な夕焼けが広がっていた。


――そして、受験当日。遂にこの日がやって来てしまった。尋常じゃない緊張感と共に朝の支度を終え、駅に向かう。途中までは桜空と方向が一緒だから、駅で待ち合わせをする。駅に着くと、もう既に桜空が来ていた。


「すまない。少し遅れたね。」


「気にしないで。僕も今来たところさ。それより、調子はいいのかい?」


「ああ、少し緊張しているだけだ。」


こんなの大嘘だ。凄く緊張している。


 僕たちは電車に乗り、英語の単語帳などを見返した。やがて、香美町駅に着いた。この駅は二つの路線を持ち、それなりに大きな駅だ。ここで僕は桜空と別れ、別の電車に乗り換える。そして少し電車に揺られると、高校の最寄り駅に着いた。駅には、僕と同じ受験生がやはり緊張した顔で高校へ歩いて行く。


「こいつらが…中学校生活最後の敵か…。そして、高校生活最初の仲間だな。」


とだけ呟き、後は黙って学校に向かい、試験を受けた。

 

 そして、無事に終わった。五教科の試験を終えると、途端に力が抜けていった。手早く筆記用具を片付けると、帰路についた。後は、合格発表まで待つのみだ。

 

 次の日、受験日が明けて、皆思い思いの顔をして中学校に登校して来た。いつものように笑っているもの、逆に泣いているものなど、表情は人それぞれだった。これから僕たちの学校は授業が無くなり、学年レクなどで遊び、合格発表を待つ。皆、受験後の楽しみとして期待しているはずだ。

 

 それから一週間、僕たちは素敵な日々を過ごした。スポーツ大会、卒業旅行、映画鑑賞など、いつもの日々が輝いて見えた。これならもう、四人が離れ離れになってしまっても生きていける、この思い出だけで十分だと思った。

 


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