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浮気期間  作者: 蒼井大輔
2/2

-決意-



「後悔するなら、あんな事言わない方がよかったと思います」


遠慮がちに差し出された缶コーヒーを受け取って、全くもってその通りです、と項垂れる。

午後の講義が始まり、学食にいる人はまばらだ。友人2人も散々言いたい事を言ってそれぞれの講義に向かって行った。

友達甲斐のない奴らだ。

残ったのは、丁度空きコマだった俺と後輩・里塚奏。

百合香も自分の受ける講義へ何食わぬ顔をして参加しているだろう。

憂鬱な気持ちを隠すことなくため息をつく。

目の前に座る里塚は控え目に、謝ったらどうですか? と提案をもちかけてくるが、俺は頷くつもりはない。

無反応でいれば、俺の気持ちを察したのか、そのまま何も言わず下を向いて黙ってしまった。

完全に面倒ごとに巻き込まれたんだから言いたい事もあるはずだ。

だけど何も言わない、正しく言えば言えないんだろうが、これは里塚の性格だろう。

サークルでもかなり大人しく、目立たない。

あいつが絡んでなかったら里塚と話す機会もなかったんじゃないだろうか?

今ですらあの友人Aがいる時くらいしか関わることがほとんどないくらいだ。

関わると言っても、栗色の三つ編みに時代錯誤の黒縁眼鏡姿を“ダサ子、ダサ子”とからかうのを止めるのがパターンだ。

服装だって少し大きめのパーカーに黒いスカートの組み合わせしか、着ている服を見たことがない。

主席合格したって誰かに聞いたことがあるが、勉強一筋で大学デビューとかそういうのに縁がなかったのかもしれないな。

何も言えずにおろおろしているところを見ると、つい手を差し伸べたくもなる。

確かに少しくらい可愛い服とか、眼鏡は仕方ないにしろ、髪形を何とかすれば少しくらい可愛いと思う。

サークル内では他の女の子たちと楽しそうにしてるけど、何も言わないんだろうか?

俺たちのサークル、まぁ、洋菓子研究会なんだけど、女の子は集まってどこのカフェのケーキが美味しかったとか、作ったお菓子を広げてお茶会だのやっているが、相手の見た目を褒めあったりファッション雑誌をひろげて話すところを見た事がない。

百合香はテニスサークルだが、サークルの女の子たちと話す話題は決まって、あの女子のファッションセンスはどうだとか、新作の服がどうのって話ばかりな気がする。

さすが洋菓子研究会だけあって色気より食い気なんだろうか?

まぁ、そっちの方が俺たちも気が楽でいい。

百合香ともおいしいケーキの店とか、手作りのお菓子を食べてみたいが、辛党の百合香とは叶わないだろう。

また何度目かわからないため息をつく。


「ホント、悪かったな。巻き込んで」

「いえ、それは大丈夫なんですけど…先輩、どうするんですか?」

「それはなぁ…」


でもあの女王陛下百合香様の浮気性を治すにはどうすればいいか全く思いつかない。

俺が百合香好みの男になる?

いやいや、百合香は来るもの拒まずすぎて好みのタイプなんて皆無だ。

友人Bの180°も好みが違うなら別れればいい、ってのがもっともな話だが、もし別れて次の男が彼氏の座に居座って大きな顔をするのも、癪に障る。

女王陛下様の彼氏になったくせに、振り向かせられないまま終わった。なんてまわりの男どもに言われたくない。

ただでさえ、彼氏と言うなの下僕だな、と友人たちに笑われるんだ。

俺にもプライドがあるのだ。


「なんで彼女さんは浮気するんでしょう?好きな人なら、ずっとその人だけでいいって思わないんでしょうか?」


俺も同じ意見だが、百合香は違う。

そもそも俺たちの付き合い方にも問題があることは認める。

俺は入学当初の一目惚れだが、百合香は偶然通りかかった同級生に軽く言われて気まぐれに付き合っただけだ。

好きな人っていう根本が違うから、ボーイフレンドを山のように作っても心痛まないのかもしれない。

恋愛に夢見てんだろうな…。

真剣に悩む里塚を見て苦笑する。


「やっぱ、好きな人には一途に思われたいよな…」

「…私も、そう思います」


それならやっぱり今のままじゃぁ何も変わらない。

浮気されてるから俺も、ってのはどうなのか?ってのもあるが、荒療治ってのもいいのかもしれない。

現状維持より何倍もマシだ。


「里塚、やっぱ協力してくれないか?」

「協力、ですか?」

「あぁ、浮気相手になってくれ」


それはならもう、やるしかない。

目を見開き、固まってしまった里塚に間も置かず続ける。


「こうなったら、絶対百合香にもう浮気はしない、ボーイフレンドは作らないって言わせたい。な、里塚、協力してくれるよな?」

「え? そんな、私…」

「里塚だったら浮気の許可も出てるわけだし、事情も一部始終…って訳じゃないけど知ってるだろ?」


それに里塚以外で早々相手を見つけられる自信はない。

状況がまだ呑み込めない里塚は、何と言っていいかわからないまま、誰かの助けを求めるように視線を彷徨わせる。

いつもだったら手を差し伸べるところだが、今日は俺が困らせている張本人だ。

里塚には申し訳ないが、ここまできたんだから最後まで巻き込まれてもらうしかない。


「な、一か月。一か月でいいから俺の浮気相手になってくれ!」

「一か月!?」

「あぁ、一か月してダメだったら俺も百合香に謝るよ。でもさ、このまま何もしないで謝ったら、結局また同じことの繰り返しだ。だからさ、ちょっとは彼氏として威厳を見せたいんだ。協力してくれ、里塚」

「で、でも…」

「別に本当の浮気じゃないんだから、深く考えなくてもいい。あ、ほら! この間言ってたカフェ行ったり、こうやって二人で話す機会増やしてくれるだけでいいからさ、頼む」

「それくらいなら出来ますけど…でも…」


続くだろう断りのセリフを言われる前に、たたみかける様に、本当か? 助かる。ありがとう里塚! と言ってしまえば、もうこっちのものだ。

俺も大概、人が悪い。

押せば断れないのを知っている。

最終的に頷くしかなくなった里塚は、本日をもって俺の浮気相手になった。


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