異世界マスゴミ
今日もレーダーがビンビン張っている。
誰かの不幸を待っている人でなしの祈りが届いている。
そんな可哀想な奴らの願いを叶えるのがオレ達の仕事だ。
仕事の依頼はコチラから。電話番号は…。
「社長、ここは異世界なのでスマホも固定電話もありません」
「あ、そうだった……亜矢町ちゃん、消しゴム」
「そちらはインクで書いたものなので、消しゴムでは消えないかと」
「あぁそうだった、クソ……電子機器くらい真っ先に生み出しといてくれや……」
貴重な資源をぐちゃぐちゃに潰しゴミ箱に投げる。シュートは綺麗に外れてしまったがいちいち気にしてはいられない。
……オレはこの新聞社の社長「宝田シュン」。今は仕事募集用のチラシを作っている。そしてこっちの女の子がバイトの「亜矢町フミノ」ちゃん。チラシの添削をしてくれている。
オレ達はとある取材中突っ込んできた暴走車と追突してしまい死んでしまった……かと思われたがその際なんやかんやあり全員まとめて異世界に転移しちまったようだ。
なんでこんな断言できるのかって?
それはこの世界にはオレ達以外にも転移してきた輩がいっぱいいるからさ。
この世界にやって来た奴は皆優れた能力を持っており重宝されているらしいが、長生きするのはほんの一部。どいつもこいつも自分の力に胡座をかいて自滅していくバカばかりだ。
まぁ、今言ったこの説明は全部現地民の受け売りだがな。
とはいえその先人達のおかげでオレ達は車も使えるし記事だって書いて売れるようになっている。
ケータイやパソコンが使えないのは難儀だが、紙の本が主流の世界なのでなんら問題はない。ただ制作コストが高すぎて面倒すぎるというだけだ。
チラシ作りの熱が冷めてしまいぼーっと考えていると、扉が外れそうな勢いで開かれた。
出てきたのは件の現地民だ。
「おはようございますタカラダさん!!調子はいかがですか!!?」
「……おはようスプーキーくん。近所迷惑だから小さい声で話そうね」
「はい!!申し訳ありません!!」
一向に小さくならない声で謝りソファに腰を掛ける。
彼はスプーキーくん。右も左もわからねぇオレ達にやれ異世界だなんだと喚きながら教えてくれた。
正直オレ達みたいな仕事一本のおじさんは「異世界転移」なんて霞程度しか知らないし、趣味の違う亜矢町ちゃんはサッパリだったから彼がいて助かった。
声がでかいのが玉に瑕だが。
亜矢町ちゃんがため息を吐きながらお茶を出し、隣の椅子に座る。
「スプーキーさんが来たということはまた何かあったんですよね。お話、聞かせてもらえますか?」
「よくぞ聞いていただきました!!」
キーンとなる耳を押さえ、オレ達は彼の話を聞き始めた。
「実はですねぇ、最近話題の最強治癒師である『ユーマ』が実は奴隷商だという噂が出てきたんですよ!!これは由々しき事態です!!奴隷は昨今規制の方向で動いているというのに!!」
「……それを記事にしてほしいってことかな?」
「はい!!その通りです!!」
生き生きとした顔のスプーキーくんを前にオレ達は顔を見合わせる。
内容としては申し分ないと思う。人気者が身から出たサビで地の底に転げ落ちていく様は異世界人にも受ける話題だし、そういう系統の記事は伸びている実績もある。しかしなんというか……。
「突拍子のない話で決め手にかけますね。側から見た方の勘違い、もしくは根も葉もない噂などではないのでしょうか?」
「そう!亜矢町ちゃん、オレが言いたいこと全部言ってくれた!頭いい!天才!流石!」
「恐縮です」
ペコリと頭を下げる亜矢町ちゃん。やっぱり亜矢町ちゃんは言語化が上手だ。この子が記事書けば良いんじゃないかな……?
懐疑的に見ているオレ達を他所に、スプーキーくんはニヤニヤと笑っている。何か秘策でもあるのだろうか……?
「ふっふっふ……では、これを見ても嘘だと言えるでしょうか!!?」
勢いよくテーブルに突き出したのは数枚の紙束。
バラバラに飛び散ったそれを集めた亜矢町ちゃんは黙々と読み進める。そして全て読み終わった後、オレに簡潔に伝えてくれた。
「ユーマさんが購入した奴隷の契約書の様です。一人一枚、しっかりサインも書かれています」
「一人一枚……というと、十人くらい買ってるってこと?多くない?」
「ですよね!!やっぱりコレは真っ黒ですよね!!?」
その輝く瞳でオレを見つめないでくれ。心が痛む。
しかしこの証拠はなかなかに強力だ。嘘偽りが簡単に作りやすい世界とはいえこんなに数があれば筆跡を合わせることくらいは可能だ。
「……ところでスプーキーくんさ、この資料はどこで手に入れたの?」
「これでも僕は大盗賊の末裔なのです!!!」
「理由になってないよ?ていうか、盗んでないよね?」
「モクヒケンを使います!!あなた方の世界にはそう言うものがあるんですよね!!?」
あー、異世界人と話す内に覚えてしまった言葉を使う様になってしまった。そんなものこの世界では一切通用しないというのに。
とはいえこの証拠が確実に信用できるわけではないと言うことがわかった。亜矢町ちゃんも同じことを考えている様で顎に手を当てながら口を開いた。
「社長、これらの資料に確信は持てませんが調べてみる価値はあります」
「そうだねぇ……これ世に出したら絶対話題になって面白……じゃねぇわ、世のため人のため大切な情報を書き記すのがオレ達の仕事だからね、うん」
「さすがタカラダさんです!!それではよろしくお願いします、良い知らせをお待ちしております!!」
そう言ってスプーキーくんは扉を勢いよく閉めて去っていく。相変わらず台風みたいな奴だな……。
しかし受けた仕事は断れない。近くにあったカバンを持ってソファに横たわっている人影を揺らす。
「おいロドリー、仕事だぞ。起きてくれー」
「……ううん」
起き上がった大きな影。寝ぼけている様でオレを探すのに苦労している様だ。
「おはよう、調子はどうだ?」
「絶好調……」
「ならよし。朝に作ったもんだけどサンドイッチ食うか?アイスティーもあるぞ」
「食べる……」
手渡した食べ物を目を閉じながらゆっくり食べている。
こいつは「潮見ロドリゲス」。どっかと日本のハーフらしい。……クォーターだったっけ?どっちでもいいか。
ロドリーの仕事はオレ達の足役。車にバイク、果てにはヘリも運転できるらしい。正直こいつがオレ達の中で一番スペックが高いと思っている。背も高いし。
「ロドリーさん、本日はスカイ村という場所までお願いします。おそらく車でも問題なく走れる程度には道は安定しております」
「ん……わかった……」
「安全運転で頼むぜ」
「うん……」
サムズアップしソファから起き上がるロドリー。
さて、今日も頑張らないとな。特にロドリーの運転に耐えなければ。
ーーー
「はぁー……うえっぷ」
「お疲れ様です、社長。シャルデンティの葉です。噛むと落ち着きますよ、ミント風味で」
「ゲホッ……悪いね亜矢町ちゃん、おれは今でもいちごの歯磨き粉使うくらいにはミント嫌いなんだ」
ふらつく足で地面に落ちる。未だ万全じゃない状態で顔を上げると、遠くに強張った表情の男……ユーマくんと、そんな彼を見上げる数人の子供達が見えた。
「だれー?あのおじさん達」
「あの馬車かっけー!乗せてほしい!」
「わかったわかった。オレがおじさんと話してくるからな、お前らは家の中で待ってろ」
ユーマくんは優しく子供達を誘導する。そして全員が家に入ると、途端険しい表情でおれの元に寄ってくる。
「何の用だ?」
「……やだなぁ、顔ぐらいは知ってるでしょう?宝田シュン、記者ですよ」
ヘラヘラ笑って魅せると彼は余計に苛立った様子を見せる。しかしあくまで冷静に話すつもりらしい。グッと拳を握り口を開いた。
「変な噂を間に受けるバカがこんなとこまで来るとはな……言っておくが、オレは奴隷商じゃない。奴隷を買って育てているだけだ」
「でもさぁ、奴隷を買うこと自体この子達を人間として見ていないってことだよね?それってどうなのかな?」
「……噂は否定しただろ。論点をずらすなよ」
「そりゃごもっともだ。謝るよ」
口が達者なガキだ。
だけどこんな会話じゃ三面にもならない。もっと攻めた話を引き出さなきゃ。
おれはまた下劣に笑い、煽ってみせた。
「でも、おじさんは間違ったことは言ってないと思うな。なんでわざわざ奴隷を買ったんだい?酷い環境に身を置かれている子供を助けて、優越感に浸りたかったのかい?」
「……そうだ、と言ったら?」
「虚しいねぇ、現実世界じゃ絶対手にできなかったものを這いつくばってでも欲しがるんだ」
思ったより素直な回答にポンポンと煽りが出てくる。気持ちいいけど心が痛むなぁ、なんて思ってもないことが頭に浮かぶ。
しかし彼はまだ冷静に返答する。
「だが、あのまま奴隷商の元に居たらアイツらは飢えて死んでいた。それを買って救ってやった。暖かいメシや家を用意してやった。何が悪いんだ?オレは奴隷商を殺して奪ったわけじゃない」
いけないねぇ。そんな強い言葉使って顔に焦りの色を出したら、そこを突いてくれと言ってるようなもんじゃないか。
おれは亜矢町ちゃんに目配せをしてから口を開く。
「うんうん、そうだね。じゃあ逆に聞くけどさ」
「……なんだよ」
「助けられたのは全員じゃないだろう?」
ユーマくんの顔が一気に青くなった。ここを突かれるのが弱いみたいだな。
なら手を緩めるわけにはいかない。亜矢町ちゃんは前に出てきて、資料を見ながら口を開いた。
「貴方の名義で買った奴隷は全部で十三人。しかし所持ゴールドが足りなかったため一人未だに奴隷商の手元にあります」
「それってどうなのさ?いまだに一人寂しく檻の中で啜り泣いてる子供がまだいるんだよ?」
人の心の隙間にナイフを突きつける。あぁ、そんな顔されちゃこっちも罪悪感で潰されそうだ。なんてね。
彼はかなり動揺しているようで、手が小刻みに震え出している。
「ちがっ…だってアイツは、他の奴らと違って値段が高くて…」
「じゃあこんなところでのんびり育児してねぇで早く金貯めて買いに行けよ!!」
ビクッと体が跳ねる。ここを逃すわけにはいかない。おれは追撃のナイフを思い切り突き立てた。
「キミはねぇ、命の取捨選択したんだよ。そんな事しておいて救ってやった?偉そうな事言ってんじゃないよ、この偽善者」
吐いたその言葉に彼の目が揺れる。終わったな。
そう確信したのに、彼の手はまだ震えていた。そして怒りを含んだ声色で言葉を紡いだ。
「何もやってないお前よりは、何百倍もマシだろうが…!!!」
……やっと振り絞った言葉がうっすい他責とはね。まぁ、言ってることはもっともなんだけど。
彼は溢れ出そうとする怒りに蓋をしてそのまま去ろうとする。
「ユーマくん」
「もう話すことはない!!帰れ!!」
「こっちはあるのよ。はいこれ、取材の謝礼金」
この世界で一番物を言うマニーを包んで差し出す。しかし彼は強く拒絶した。
「帰れって言ってんだろうが!!!」
宙を舞うマニーに目もくれず、彼はこの場を後にした。
ーーー
「……亜矢町ちゃん。さっきからずーっとメモ取ってるけど何書いてるの?」
「社長の取材の様子を書いています。彼の感情の起伏に合わせ、伝えたいことをキチンと話す。素晴らしい手腕です。記者として、参考にさせていただきます」
「えっと……オレのやり方は真似しちゃダメよ?あんなの取材とは言えないし、何より精神がすり減るし。あと冷静さならロドリーの方が上だし」
「……俺は、集中してるだけ」
そんなこと言いながら、おれに気を遣ってのんびり走ってるのバレバレなんだよな。かっ飛ばすのが好きなのに。
そんなことを考えていると、ふと亜矢町ちゃんが手を止めポツリと溢した。
「ちゃんと見てくれますかね」
「……見るよ。だって彼、ヒーローみたいじゃん?きっと大丈夫さ」
根拠のない自信を述べるのは得意だ。
おれ達は夕日に背を向け帰路についた。
ーーー
「おー、カッコいいじゃんロドリー。それなんの仮面?」
「ココナッツインコの、メス…」
「トサカがチャーミングですね。私のキバガメよりも、何倍も…」
「そ、それも可愛いよ、亜矢町ちゃん…」
慰めてみるが亜矢町ちゃんの耳には届いていない様で、よりどんより暗く見える。
スプーキーくんが持ってきてくれた仮面だから仕方ないんだけどなぁ…。
軽く周りを見渡せば、同じように画面を付けた紳士淑女がいた。
「この間買った奴はすぐ壊れてしまってねぇ」
「小人族は出るのかしら?アレをプチプチ潰すのが快感なの!」
「パパー、ボクも竜人ほしいー!ワンちゃんと同じ檻に入れて観察するんだー!」
内容はとても同じ種族である人間が話している物には聞こえない。
悪趣味な空気が流れるここは、その筋ではお馴染みの奴隷オークションの会場だ。
国の郊外の奥の奥。笑い声に釣られて樹々の間を縫えばすぐに辿り着ける。
まぁ、そんなことをする物好きな一般人はすぐ奴隷として捕まって売り飛ばされてしまうんだがな。
「で?目当ての子は何番目?」
「目玉商品とのことなので恐らく最後の方でしょう」
「ふーん?なら間に合いそうだね」
「……ダメそうなら、俺が迎えに行く」
「そうだな、その時は全速力でよろしく」
すると会場中に低いハンマーの音が轟いた。オークションが始まる合図だ。
仰々しい挨拶もほどほどに、美人な姉ちゃんや歴戦の猛者、珍しい種族の末裔がポンポンと売り飛ばされていく。
「さぁ、本日の目玉商品の登場です!」
悦びに満ちた司会の声を遮られるほどの拍手が轟く。その奥で、ジャラジャラと冷たい鎖の音が聞こえた。
連れてこられたのは青白い光りを発するツノの生えた子供。黒く長い髪は酷く汚れており表情は読み取れない。
「彼女は竜人族の中でも珍しい、白いツノを持った竜人です!ツノは高値で取引される上に薬として使える優れ物!折ってもまた生えるので、ストレス発散にも持ってこい!その上姿も愛らしく、愛玩動物として飼うのも良いでしょう!さぁ、一千万マニーから!!」
ハンマーが鳴り響いた途端、周りは「二千万!!」「三千万!!」と大声で数字を叫び出した。
現実味のないそれはドンドン跳ね上がっていく。最後にはいくらになるんだ?と少しだけ胸が躍り出したが、そんな気持ちは突然……文字通り切り裂かれた。
「きゃぁーっ!!?」
「な、なんだあいつは!!」
入り口に剣を二本携えた青年……ユーマが立っていた。背後には警備に付いていたゴロつきだろうか。山のように重なって気絶している。
相変わらずの仏頂面を携えたままステージのように向かってきた。
「来ましたね」
「おーっ、流石ヒーロー」
わざとらしく拍手をしてみても彼は無視して止めに入った警備兵を蹴散らす。
千切っては投げ、人体を斬らないよう気絶させ、剣を使って回転し風を巻き起こし……あれ、あいつ確か治癒士だったよな?
そんなツッコミをしている間に彼は軽くステージに辿り着く。司会は腰を抜かしユーマを止めることはできそうにない。
繋がれていた鎖を断ち、自由になった少女は顔を上げる。ユーマは彼女を強く抱きしめ涙を浮かべていた。
「ごめん……あの時、助けられなくて……」
困惑していた少女の頬に涙が伝う。そして二人は抱き合い、ステージから降りたのだった。
暗い階段を上がる途中、ふと目が合った。手を振って見れば、彼も手を上げ去っていった。
「今、中指立てられましたね」
「言わなくていいのよ。さて、じゃあオレらも帰りますか……」
「おい待て!!」
ダン!と大きな足音と共に現れオレ達の前に立ちはだかる恰幅のいい男。
走ってきたのか、息を切らしながら顔を真っ赤にしている。
思わず口角が吊り上がる。オレは二人の前に出て口を開いた。
「やぁやぁ、これは!どうしたんですかオーナー様?」
「これを指揮したのは貴様らか!?貴様らがここで大々的にオークションをすれば儲かると言っていたのに……!!」
わなわなと震えながら指を指される。
その様子を見たオレは思わず二人と顔を見合わせ、吹き出した。
「ぶははははっ!!まっ、まさか大真面目に信じちゃった!?素直〜!!はーっ、はーっ……亜矢町ちゃん、この人に優し〜く説明してもらえる?」
「了解しました」
亜矢町ちゃんはどこかから資料を取り出しペラペラと捲る。
「この会場が摘発されない理由は二つ。我々が自警団や王国軍の兵士に賄賂を渡していることと、王族のいる高台からはちょうど影になっているからです。
しかし、その賄賂の内容は黙認ではありません。逃げ出す王族貴族の捕縛と国王陛下にお伝えすること。渡した中身もお金ではなく、我々が手にした奴隷の契約書とオークションの内情が書かれた機密資料です」
「バ、バカなっ!!国王陛下に届くわけがない!!お前らのような末端の言葉など……!!」
「信用がないのは百も承知です。そのため、女王陛下にもお力添えをいただいております。天井をご覧ください」
オーナーは言葉のまま天井を見上げる。
そこには一面に広がった湖がトプンと揺らめいていた。
「なんだアレは……!」
「……女王陛下は王国随一の魔導士。遠隔で水魔法を展開し、他の場所を映し出すことなんて容易いのです。
つまりこの施設は現在王国の監視下にあり、今この瞬間も両陛下は私達の会話を聞いておられます」
「だってよ!二人とも手ぇ振れ!」
天井に向かって無邪気に手を振って見る。向こうに見えているかはわからないが、オーナーの顔はさっきまでとは打って変わって真っ青になっていった。
とはいえ、ここまでするにはかなりのコネクションが必要だ。それこそ女王陛下が亜矢町ちゃんの書く料理記事のファンじゃなかったらと思うと……。
彼女には心から感謝しないと。
そんなことを考えていると、突風が横を通り抜けた。
オーナーの方を見れば背後に数名ローブを被った人物が宙に浮いていた。
「おのれ……!!他の世界の人間如きが、ワシを馬鹿にしおって!!やれ!!」
号令と共に一斉に魔法陣が展開され、かまいたちが襲ってくる。思わず屈むと、椅子が最も簡単に切り裂かれてわたが飛び出した。
「ヤベェ!あいつ魔導士も雇ってんのかよ!!おいロドリー!車は!?」
「エンジンスターター起動済み」
「よし逃げるぞ!!」
椅子の隙間を縫ってなんとか外に飛び出せば、真っ赤な車がオレ達を迎え入れてくれた。
乗り込んだ瞬間アクセルベタ踏み。速度は最高に達し、ローブの人物達と距離を離していく。どうやら空を飛んで追いかけてきてるようだが……さすがに車にゃ勝てないだろ。
「へへっ、こりゃ勝ったな」
座席に寄りかかり一息つくと、助手席の亜矢町ちゃんがロドリーに指示を出していた。
「ロドリーさん、彼らのスピードからして一度のミスで追いつかれてしまう可能性があります。多少無茶なルート取りをしてでも逃れてください」
「……了解」
「えっ?ちょっ、待って」
静止は頬の肉が引っ張られたことで遮られた。車体は大きく傾きながら細い道を抜け、大通りに出た。
「おい!!危ないだろ!!」
「また異世界人かよ!!」
そんな怒号を背中に浴び、潰れた果物に視界を奪われながら車はさらに速度を上げていく。
その先に見えてきたのは大きな白い門……王族のいる高台へ向かう門だった。
「……突っ込む」
「了解です。社長、頭を下げてください」
「ぁえっ!!!?」
耳をつんざく轟音。
門を抜けるその瞬間、車体が一回転したような気がする。
あぁ……オレの人生ここで終わるんだな。
死を悟り目を閉じる。
しかし次に来た衝撃は、地面の硬さではなく包み込まれる冷たさだった。
「がぼっ!!?」
慌てて身を捩ると、その苦しさはパシャリと消える。
どうやら二人も無事なようだ。車は傷こそないものの、タイヤが上を向きひっくり返っている。ローブの人達は……姿は見えない。高台に向かった段階で捕まえられないと踏んで逃げたのか?
頭が少し冷静になったところで周りを見回すと、向こう側から煌びやかな服の人達が駆け寄ってきた。
「アヤマチ!!大丈夫か!?」
「女王陛下……助かりました」
「妾は何もしておらぬ、ただお主らの言葉を信じて行動したまでじゃ!あぁ、無事で良かった……!」
亜矢町ちゃんの前で膝をつき、頬に触れ傷ついていないことがわかると安心したように息を漏らした。
魔法使ってまで助けてくれるとか、本当に大事に思ってくれてるんだなぁ……うんうん、心温まる光景でいいですねぇ。
「ところで亜矢町ちゃん、オレが三半規管弱いのわかっててスピード上げたでしょ……?」
「あぁ、すみません。忘れてました」
「あ、そう……ゲホッ、ゴホッ」
「……シャルデンティの葉」
「それ苦手なんだっつうの……」
事態はなんとか収まったものの、まだ頭の中では世界がぐるぐる回っていた。
ーーー
あの騒動から数日が経った頃。
オレ達は再びスカイ村に来ていた。青空の下で子供達が亜矢町ちゃんとロドリーの腕を引いて遊んでいる。
その中にはあのオークションに出ていた竜人族の子もいた。
「……あの子、名前はなんて言うの?」
「リュノエール。竜人族の言葉で『愛しい我が子』って意味らしい」
「ふーん?素敵だね」
そう言うとユーマくんは優しい瞳で彼女のことを見つめた。
会場で見た時は怯え切った顔をしていたが、少なくとも今の彼女の顔からはそんな感情は消えているように見える。
あの後オークション会場に王国軍の捜査が入り、オーナーは摘発され捕まることになった。一部の貴族や王族、それに見張りをしていたチンピラも罪に問われるそうだ。
オレ達を追っていた魔導士だけは行方不明になっていたそうだが……。
「それもこれも、キミがオークションの招待状に気づいてくれたおかげだよ。いやー良かった良かった」
「あんたが渡したマニーの中に混ざってたのを見つけた奴がいるんだよ。絶対行けって、背中も押されたからな」
「そう。利口な子供がいてよかったよ」
そう言ってオレは目を閉じる。当たり前のように平和な時間が過ぎていた。
しばらく子供達の声に耳を傾けていると、ユーマくんが不意にこんなことを呟いた。
「あんた、そんなにゴミでもないんだな」
思わず目を見開き大きく吹き出してしまう。
「はははははっ!!」
「な、何笑ってんだよ。褒めてんのに」
「いやー……はははっ。ユーマくんさぁ、勘違いしちゃいけないよ。オレはマスコミ、人の不幸で飯を食ってる人間。だからキミは恩義なんか感じないで、自分の力でなんとかしたんだって顔して堂々と胸張ってればいいのよ。ね?」
ぶっきらぼうな褒め言葉さえ、オレには贅沢だからな。
ユーマくんは腑に落ちない様子ではあったが、また一言「それでも、ありがとう」とだけ言って話を終わらせた。
鳥が飛び、羽の音が響く。
……まぁ、たまにはこんな穏やかに過ごしてもいいか……。
「社長」
「うぉっ!?びっ、びっくりしたぁ!どしたの亜矢町ちゃん!いきなり後ろに立って……」
「先程伝書鳩が届きまして、その内容をお伝えに。最新記事のPV数が500を超えました」
「なにっ!?」
オレは思わず立ち上がり、彼女の持っていた紙を奪い取った。
「流石は闘技場の大スターナスダイ・スキオだ!この世界で500超えなんてランキング上位みたいなもんだろ!!やっぱめちゃくちゃ上手く描けたのがデカかったのかなぁ!?」
「センセーショナルなタイトルも良かったのでしょう」
「いやぁ、やっぱこれで出して正解だったな!!『【絵画付き】ナスダイ・スキオ、寝床での戦い!踊り子「C」との熱い治療の果て!』」
紙を眺めながら喜びの舞を踊り狂う。
そんなオレの様子を見たユーマくんは、口をあんぐり開けた後震える手を振り上げ叫んだ。
「やっぱゴミだなお前ら!!!」
Fin




