襲撃、撃退、反撃へ
ピリ、と空気が震えた。
侵入者だ。
ロゼリアの目が細められた。
まだ明るいのに、堂々と侵入してくるとは侮られたものだ。
でも、この鬱屈した気持ちをぶつけるには丁度良かった。
今は貴族令嬢として、猫を被っているロゼリアは魔術が使える。
父が基礎魔術をたたき込んでくれたのだ。
ドサ周り転勤生活は伊達ではない。
ロゼリアは静かに手を翳し、簡易探査を行う。
外には・・・三人。
物音は聞こえない。
無駄のない動きだ。
ただ者ではない。
目的は何なのだろう?
多少は有服になったとが言え、めぼしい財産がある訳でもない。
ロゼリアは、ゆるゆると息を吐いた。
考えている時間は無い。
今、目の前の事に対応しなくては。
父は常々言っていた。
「生き残った者が勝者だ。」
どんな状況でも生きる道を探さないといけない。
家に施された結界を反転させた。
守りから、攻撃へ。
次の瞬間、外から短いうめき声が上がった。
「ぐぅっ。」
どしゃ。
何かが倒れ込む音。
残りの二人が退く気配。
ロゼリアは迷わなかった。
扉を開け外に出る。
倒れている黒装束の男がいた。
他の二つの気配は消えている。
黒装束の男の息はある。
ロゼリアはロープを手に取り拘束した。
「さすがだな。」
背後で、低い声がした。
そこに立っていたのは
「その声は・・・殿下。」
「一度、中に入ろう。」
促されて室内に入り、フードが外された。
やはりアルヴィン王弟殿下だった。
「間に合わなくてすまない・・・と言いたかったが、俺がいなくても問題なかったな。」
窓に視線を向けると黒装束の男が運ばれていくのが見えた。
ロゼリアの視線に気づいたのかアルヴィンが言う。
「既に残りの二人も捕縛した。安心しろ。」
「随分、手回しが良いのですね。」
厭味っぽい言い方になってしまう。
気まずそうな顔を隠すようにアルヴィンが肩を竦める。
「まぁ、予測が立ったからな。」
「私は囮ですか?」
「そのつもりはなかったが。」
アルヴィンは頭をぐしゃぐしゃかき混ぜた。
「結果的には、そうなりましたね。理由を教えて下さいませんか?」
更にツンとした言い方に、アルヴィンは顔を顰め頷いた。
「もう、隠しておけないな。遺跡に関係があるのだ。」
「そうだと思っていました。いい加減教えて下さいよ。もう巻き込まれたんで!無関係じゃないでしょ!?」
食ってかかると、アルヴィンはお手上げとばかりに両手を挙げた。
「仕方ないな・・・。あれは、王家の・・・封印だ。」
「封印?」
「何かとは、まだ言えない。エルドは命をかけて俺を庇った。」
「父は、生きているのですか?」
アルヴィンは押し殺した声で答えた。
「生きている。」
その言葉に、膝から力が抜けた。
「だが、狙われているのだ。」
安心から一転、緊張が走る。
「遺跡に入るのには、エルドがいなくてはならない。どういう仕組みか調査中だが、恐らく最初に発見し、潜入したエルドだけが認識されているのだろう。」
「認識?」
不思議な事を言う。
「そんな顔をするな。俺も困っているのだ。エルドがいなくては調査も進まない。」
「それはそうですね。それで、何故、此処が狙われてきたのでしょう?」
「恐らく・・君を狙ったのだろう。」
「私を?」
「そうだ。エルドが動けない。利用することもできない。ならば、血縁である君ならどうだろう?そう考える輩もいるということだ。」
「私に、父の代わりが?」
「できればそうさせたくはないのだが・・・。」
殿下は困り顔だ。
「私にできることは何でもします!」
「そう言うと思った。」
天井を仰ぐように上を見て、殿下は言う。
「エルドには、君を巻き込むなと言われていたのだが。・・・そういう訳にいかなくなったな。」
「えぇ、私!婚約破棄されて身軽になりましたし!」
明るく言う。
「・・・・未練は無いのか?」
窺うように言われてロゼリアは笑った。
「まぁ、無いとは言い切れないですけど!でも、前を向かないと。」
アルヴィンは安心したような笑顔を見せる。
「切り替えの早さは子供の頃から変わらないな。」
「何ですか?それ!?」
「いや、何でもない。」
「気になる!」
ロゼリアがアルヴィンの手を掴んだ。
「いいから!行くぞ、ロゼ!!」
「うん!アル兄。」
久しぶりに昔の愛称で呼びかけた。
ロゼリアの呼びかけにアルヴィンは顔をしかめた。
「アル兄はやめろ。」
「はぁい。失礼しました。王弟殿下。」
するとアルヴィンは、もっと顔をしかめた。
「それは、もっとやめろ。」
「えぇ?どうしたら良いの?」
ロゼリアは困り顔だ。
アルヴィンは舌打ちをして、
「アル兄で良い!」
と、言ってきた。
「訳分からない。」
頬を膨らませたロゼリアの頬をアルヴィンは突いて潰した。
気安い、兄妹のような関係が再び始まる。
「いいから、行くぞ!」
アルヴィンが手を出す。
「はぁ~い。」
ロゼリアはその手を掴んだ。
何の躊躇もなく。
思いのほか強く握り返されてちょっとビックリする。
「アル兄、ちょっと緩めて。」
「ん・・ん~、ちょっとだけだぞ。」
全然緩めてもらえない。
「いや、離して。」
「いや、離さない・・二度と。」
「え?」
最後の方が聞き取れず、ロゼリアは首を傾げた。
「時間ないぞ!」
強く引っ張られて、ロゼリアは文句を言った。
けど、振り払わない。
時間が無いのはわかっていたからだ。
そして、二人でドアを開けて一歩踏み出した。




