おせっかいがすぎる王弟殿下
アルヴィン王弟殿下。
父の直属上司で、元同僚。
なぜ、ここに?
怪我をしてたのでは無いの?
という疑問の前に、
「乗りなさい。」
命令口調で言われて戸惑った。
けれども、逆らう事もできない。
御者に戸を開けられ、馬車に乗り込んだ。
外から見た時は普通の馬車だったのに、やはり中は違う。
シンプルだが、乗り心地が良い。
「送ろう。」
「そんな、申し訳・・いえ、ありがとうございます。」
ロゼリアの今の住まいは王家が用意してくれたものだ。
一人ぼっちになるロゼリアを心配してアルヴィンが色々気を配ってくれたと聞いている。
「何故、あんな時間に、ダメじゃないか。暗くなったら危ないだろ。」
馬車が走り出したと同時に、グチグチと言い出すアルヴィンにロゼリアは恨めしそうな視線を送ってしまう。
「・・・お小言ばっかり。」
「なんだと!」
つい気安く言い返してしまい、ロゼリアは咳払いした。
「失礼しました。王弟殿下。」
ツンとそっぽをむいて慇懃無礼に振る舞う。
気安い口調が出てしまうのは仕方が無い。
ほんの一年程前までアルヴィンとロゼリアは10歳違うが、兄妹のような関係だったのだ。
と、いうのもアルヴィンは身分を隠して下っ端魔術師として働いていた。
しかも父とペアを組んでいた。
一緒に転勤して、野宿もした仲だ。
小さい頃から
『ロゼが嫁に行き遅れたらもらってやる』
ってからかわれて、
『アル兄なんてお断り』なんて言い合ってきたのだ。
ずっとずっとそうやって暮らしていくと思っていたのに、遺跡発見のせいで全て変わってしまった。
アルヴィンに突然正体を明かされて、アルヴィンとロゼリアの関係はギクシャクしだした。
さらに、婚約に大反対されてロゼリアはアルヴィンの事が嫌いになってしまったのだ。
『隠し事してた癖に、保護者面するなんて大嫌い!』
そう言ったのはどれほど前だったろう。
そっぽを向くロゼリアにアルヴィンは溜息をついた。
「見たぞ。」
「何をですか?」
「待ちぼうけ食わされただろ?」
「イヤだ!サイテー!私が笑いものになってるの見てたの?!」
ツンとした態度から食ってかかられてアルヴィンはしどろもどろに言い訳する。
「いや!だって、ロゼ!お前・・噂になってたから、心配で。いや、偶然、近くに用事があったから。」
「言い訳ばっか!……は、結構です。」
自分でも気安い態度が戻っていると気づいたロゼリアは途中で我に返って敬語に戻った。
「……だから、止めておけと言ったのに。あんな男!俺の大事なロゼを傷つけて!俺が厳重注意してやる!」
「止めて下さい!!」
「いや!お前の良さをアイツはわかってない!そんな澄まして!そんなの全然お前らしくない!」
「いいんです!私が望んでこうしてるんです!ディアン様はちゃんとエスコートしてくれるし!優しくして下さってる!もう!殿下には関係ないことです。」
冷たく言われてアルヴィンは自分の髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。
「関係ないことはない!」
「関係ありません!」
「いいか!お前の父、エルドは俺を庇ってくれたのだから。お前が一人で心細い思いをしている責任は俺にもある。今回、俺が王都に来たのは治療者を迎えに来たのだ。」
「あ・・。」
急に父のことが心配になったロゼリアは黙った。
アルヴィンは真摯な目でロゼリアに頷く。
「ちゃんと、手を尽くすから安心しろ。ただし、俺が王都にいる事は内密だぞ。」
「父はどんな容態なんですか?」
「すまないが、それは言えないんだ。」
「何でも内緒なんですね。」
王弟という身分を隠していた事への嫌味が籠もってしまう。
「そう言うな。」
弱ったようにアルヴィンは言う。
「せめて私も連れて行ってくれませんか?看病したいのです。」
「それも無理だ。」
申し訳なさそうに言われて
「・・・・そうですか。」
ロゼリアは、またそっぽを向いた。
小さい頃から、何でも”無理”ばっかりだった。
そこから会話はなかった。
家に着き、アルヴィンは降りることはなかったが、窓から
「気をつけるように。」
と、だけ声をかけてくれた。
ロゼリアは馬車を見送らず、家に入った。
当然のごとく無人だ。
ロゼリアは一人で身の回りのことはできるし、家の守りは魔術で施されている。
その日、ロゼリアは冷えたスープを口にし、ベッドに入った。
ロゼリアは、一人は平気だった。
小さい頃から、転勤先で一人遊びばかりしていたのだ。
テントで休んだり、用意された下宿先に泊まったり、村長さんの家を間借りしたり、そんな生活だったから友人はいない。
どちらかと言うと、そんな根無し草の生活に慣れていたから、ちゃんとした家を用意された生活に中々馴染めない。
だから、貴族の生活なんて、とてもとても馴染めなかった。
朝、起きて、玄関ドアに直接投函された手紙と新聞を拾う。
お茶会のお誘いが何通か入っている。
溜息が出てしまう。
何で、皆、集まって人のことを、あーだ、こーだと言い合うのだろう。
話し合うなら、手仕事をしながら、今年の作物の出来を話し合ったり、している方がロゼリアの性分に合っている。
お茶会はロゼリアの中で、かなりのストレスだ。
それでも、王弟殿下の怪我のニュースが流れてからはお茶会のお誘いもめっきり減った。
ゴシップの種が欲しい家からのお手紙は続いていたが。
ロゼリアは、お断りの手紙をしたためた。
貴族相手だから非常に気を使う。
体調不良としたから、家から出ることも出来なくなった。
一人で軟禁生活を送るロゼリア。
一週間程経っただろうか。
いつものように朝起きて投函されていた手紙を見る。
見ると、魔法局から父の危篤を知らせるものだった。
ロゼリアは家から出て、走ってアルノー家に向かった。
貴族の知り合い。
頼れる先はなかったからだ。
だが、文字通り門前払いを食らってしまった。
あろうことか、門番に追い出されてしまった。
これで完全にアルノー家の意向はわかった。
それでも、ロゼリアはディアンへの未練があった。
とぼとぼ帰った翌日。
泣き疲れたロゼリアは遅くに目が覚めた。
日は高く上がっている。
いつもの習慣でドア前に新聞を取りに行った。
投函された手紙は一通。
アルノー家からの物だった。
中を開けてみると、婚約破棄の通達だった。
「貴家の事情を鑑み、これ以上の関係継続は困難と判断。双方の将来の為に、建設的な選択を・・・。」
そんな言葉でぼやかしてはあるが、要は、今後は関わりを絶つようにと書いてあった。
ロゼリアはその場に座り込んだ。
一方的な知らせ。
呆然として、何とか気を取り直す。
視線を彷徨わせると、同じく投函されていた新聞の見出しに目が奪われた。
クローネ家とアルノー家の婚約破棄!
そう書かれている。
何コレ・・・。
ロゼリアはその言葉を繰り返した。
震える指で、新聞を掴み記事をなぞった。
何度読み直しても書かれている内容は変わらない。
もう既に、婚約破棄の事と、クローネ家は貴族籍を無くしたかのような書かれ方をされていた。
クローネ男爵は王弟殿下に重症を負わせた。
同時に自身も瀕死の状態になっており、責任を問われ爵位剥奪は確実。
それに伴い、アルノー伯爵家は苦渋の選択として婚約を解消するしかなかった。
特に最後の一文、
アルノー伯爵家次男ディアン殿は、出来る限り支えてきたが自分の力不足だと深い悲しみを表明された。
そんな記載が胸を抉る。
全然、事実と違う。
それに、悲しみを覚えているのはロゼリアの方だ。
「違う・・違う!違うわ!」
ロゼリアは叫んだ。
父は、庇ったのだ。
アルヴィンを。
他ならない彼がそう仰った。
それなのに、全く違うことが書かれている。
アルヴィンは、王都に来れるくらい軽症で、父の為に治療者を連れて帰ってくれた。
アルヴィンは自ら父の為に動いてくれている。
まだ父は見捨てられていないのだ。
ロゼリアの頭の中はぐるぐると考え続ける。
こんなタイミングでこんな記事が出るなんて、アルノー家が情報を流した以外考えられない。
こんな風にすることで、何か良いことがあるのかしら。
悶々と考え込む。
どれほど、そうしていただろうか。
突然、門に施された守りの魔術が、反応した。




