06 山本くんって 黒川美鈴目線
教室の窓から、陽射しが机にまっすぐ落ちてた。まだ春なのに、ちょっと暑いくらい。休み時間になるとみんな一斉に立ち上がって、廊下に出て行ったり、水筒を取りに行ったりするけど、わたしは机の上にノートを広げたまま、山本くんを見た。
「今日はちょっときつかったね、難しかったよね」
なんとなく、そう言ったら、斜め前の席でプリントを見ながらペンを回していた山本くんが顔を上げた。
「うん、多読ってやつ? 初めてやったかも。こんな分量」
「やっぱり都会の子でも、そう思うんだ」
「都会の子が全部同じじゃないだろ」と
ちょっと拗ねた言い方が、わたしは笑った。
「そうね、正確に言えば、都会の雰囲気ってことかな?言葉の選び方とか、鞄の持ち方とか、あと、名字も」
「名字?「山本」って普通じゃん」
「それが都会的って所」
「そうかぁ」
わたしは肘をついて、山本くんのほうを見た。正直に言うと、最初に自己紹介を聞いたとき、三千院じゃないんだってちょっとがっかりした。
「この学校、名字がちょっと特殊な人、多いでしょ? 神宮寺とか不知火とか紫苑とか」
「うん、マンガに出てきそうな名前ばっかり」
「でしょ?かなり昔までさかのぼれるのよ」
わたしはくすっと笑った。
「黒川も、その一つなんだよ」
「黒川もか!そうか、古いのか」
「古いよ。うちの家系、江戸より前からこの町に住んでる。戦国時代とか・・・もっと前かもしれない。文献は残ってないけど、古文書の写しがあるって、お祖父ちゃんが言ってた」
「そう言うものか」
山本くんは、ちょっと考えるような顔をしてた。
「僕の家は全然。父さんの実家のこともほとんど知らないし。三千院さんの家に来て、やっとなんか歴史ってやつを目の当たりにしたって感じ」
「三千院の人って、義理のお父さんでしょ?」
「うん。そうだね・・・母さんが再婚して、高志郎さんって人と」
その言い方に、ちゃんと距離感があって、あ、この子、自分の中でまだ整理しきれてないんだなって思った。うちも複雑だから、ちょっとだけ気持ちわかる。
「だから、今は三千院の家に住んでるんだ?」
「そう。めちゃくちゃ立派な家。和室ばっかりで、床が軋むし、廊下が長くて、ちょっと怖いくらい」
「いいなぁ。あそこのお庭、苔がきれいで有名なんだよ」
「有名? そんなの知らなかった。っていうか、誰が知ってるの?」
「この町の子は、だいたい知ってるよ」
わたしは笑ったけど、航平くんは少しだけ眉をひそめた。
「うーんなんか、疎外感あるな」
「そりゃ、仕方ないよ。だって、こっちは代々この土地に住んでるから。おじいちゃん同士が同級生とか・・・空気も水も、なじみ方が違うんだと思う」
「空気までか・・・確かに・・・違って見えるな」
その言い方が、ちょっと面白くて、でも少し寂しそうにも見えたし、違って見えるって?てなにと思ったけど、私の口は止まらず次の話題に移ってしまった。詳しく聞きたかったのに・・・
「サッカー部はどう?」
「ついていくのがやっと。みんなと同じ距離走れないんだ。途中でへばってしまう。免除されていて途中でやめていいんだ。悔しいよ。だけど、そうじゃないとボールの練習が出来ない」
「そうか、体力は走っていれば付くから、頑張って」
「あぁ、そう言うものか?」
チャイムが鳴ったとき、山本くんは一度だけわたしの顔を見た。何か言いかけたけど、何も言わずに席に戻っていった。
窓の外の山を見た。黒川って名前に縛られてる部分もある。もうそんなの関係ないって思う部分もあるし、三千院の名前を呼ぶ時は様をつけて三千院様と言いそうになる。
あの三千院の家で大事にされているのは、見てもわかるし町の人の言い方でもわかる。肝心の山本くんは感じていないようだけど・・・
世が世なら・・・彼はこの言葉が相応しい人だ。
そして世が世なら、わたしは三千院の家の人と教室でおしゃべりなんて出来なかった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




