24 クリスマスの夜
あの夜の騒動は、なんとか収まった。
秀忠公が出てきてくれたことが、やっぱり大きかった。みんな眠るように倒れた。気がつくと、敵味方関係なく同じ空の下にいた。それだけで、少しだけ、ほんの少しだけ、空気が変わったような気がしていた。
それでも、町の中が劇的に変わったわけじゃない。みんな何事もなかったような顔で学校に行き、畑に行き、商店を開けている。でも、あの夜のことを話す人はいない。あれは、そういう「出来事」だったんだと思う。
ただ、僕の中には、確かに何かが残っていた。
そして今日は、クリスマス。もう僕はツリーを喜ぶ年じゃないから普段通りでいいと思っていたけど
光子さんがチキンを焼いている。唐揚げじゃなくローストチキンだ。
三千院の家で、クリスマスケーキは想像しなかったけど、チキンをおかわりする僕に
「航平さん、ケーキもあるからね」って光子さんが言った。
「ケーキ?和菓子じゃなくて?」
そう返した僕に、光子さんはちょっとだけ悪戯っぽく笑って言った。
「町の洋菓子屋さんに聖一郎さんが予約しておいたの。いちごがちゃんとのってるわよ」
それを聞いた僕は、思わず顔がほころんだ。だが、別腹を装備している僕はチキンをもう一度お代わりした。
だって、凄く美味しいのだ。お店で買ったものよりずっとずっと・・・
こたつの上にケーキの箱が置かれて、それを開けた瞬間、甘い匂いが広がった。白い生クリームに、赤いいちご。小さなチョコレートのプレートに「Merry Christmas」と書いてある。
「うわあ・・・美味しそう」と思わず言ってしまった。
光子さんは大まかに大きく切ったのを僕にくれた。いちごもチョコレートも乗っている。
あむっと口に入れた。
そのときだった。
「あれ?」
ポケットの中でスマホが震えた。
この町で、電波が入るなんて。
画面を見たら、「母さん」の文字が表示されていた。
急いでスワイプして、耳に当てた。
「もしもし!?」
「航平!?聞こえる!?」
「母さん!?えっ、なんで? 繋がってる!? いつも繋がらないのに」
「今度こそってかけてみたのよ。航平が町に行った時しか話せないのは寂しいからね。一応毎日試していたの」
そうなんだ。母さん・・・ごめん・・・僕、少しだけ忘れていた。ほんとごめん。
「ほんとに!?すごい!今、ケーキ食べてたとこ!」
「あら、クリスマスケーキ?光子さんの手作り?」
「いや、買ったやつ! いちごがのってるやつ!でね、チキン焼いてくれた」
「うふふ、そっか。元気みたいね」
「ちゃんと元気!母さんは?」
「うん、大丈夫。ちゃんとやってるわよ。それでね、ちょっと航平に質問」
「何?質問って」
「ふふふ、今あなたが話しているのは誰でしょう」
「誰でしょうって、母さん・・・お母さん」
「正解です。では高志郎さんは?」
「高志郎さんは高志郎さん・・・お父さん」と勇気を出して言った。
「正解です。では航平は?」
「僕は僕・・・でしょ?」
「ブッブー違います」と母さんは言うと間を開けてこう言った。
「お兄ちゃんです」
「お兄ちゃん?そりゃ男だから・・・あ!」
「もしかして母さん・・・もしかして・・・赤ちゃん?」
僕がこう言った途端、光子さんがハッとなって電話をかわりたそうになった。
そうした方がいいだろう。だって僕だったら赤ちゃんって何度も繰り返すしか出来なかっただろうから・・・
「光子です。沙也加さん・・・素敵ね」
「跡取り?そんなのはどうでもいいわよ。気にすることないのよ。気にしてたんだったら、申し訳ないわ」
「高志郎なんかほっといて自分を労ったらいいのよ」
母さんの言葉は聞こえないけど、光子さんが優しい顔で優しい声で話している。
「高志郎。よかったわね。沙也加さんみたいな人と結婚できて、ほんと、あなたにしては上出来よ」
なんて言ってるから高志郎さんじゃなくお父さんと変わったみたいだ。
それから聖一郎さんも電話を変わったが、黙って頷いているだけだから、どっちと話しているのかわからなかった。
でも優しく笑ってた。
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