22 その夜
その夜、僕は聖一郎さんと一緒に菩提寺へ向かった。外はもう冷え込んでいて、吐く息が白い。聖一郎さんはきちんと袴姿。僕はというと、サッカー部のジャージにランニングシューズ。背中には弓を、腰には刀を差している。光子さんが袴を用意してくれたけど、僕はこの格好を選んだ。
でも、格好なんてどうでもよかった。胸の奥が、ずっとざわついてる。この夜に向けてずっと準備してきた。夢の中のあの侍と、毎晩稽古をしてきた。
「航平、気負いすぎるな」
「はい」
暗がりの道を抜けて、境内に入ると、そこには同じように刀や弓を持った人たちが集まっていた。男ばかりじゃない。女の人も、僕より年下の子もいる。だけど、全員の顔にやる気が浮かんでいる。きっと僕の顔も同じだろう。
ふと、見知った顔が目に入った。
「あ、山本じゃん」
声をかけてきたのは、剣道部の先輩だった。僕は微笑んで頭を下げた。するとその周りにも何人か知っている顔がいた。
同級生の兄だという人もいた。名前を聞いて、笑顔が浮かんだが、何も言わずに目を合わせて頭を下げた。
挨拶を交わすうちに、僕は高揚してきた。武者震いってこういうのかもしれない。ジャージの袖を捲り上げて、背筋を伸ばした。侍が背中にいる気がした。
やがて時刻になると、聖一郎さんが静かに言った。
「出るぞ。途中で仲間とはぐれても、焦るな。一人でも戦え」
「はい」
僕らは列になって寺を出た。夜の冷気が肌を刺すようだ。でも、心は熱い。手の中の刀がじんわりと温もりを持っている気がする。
列が町の通りに差しかかったとき、ひとり、仲間がふっと消えた。脇道に誰かを見つけたのだろう。
それから、もう一人。さらにもう一人。僕はだんだん、一人になっていった。
そして
「助けてくれ!」
路地から飛び出してきたのは、若い男だった。息を切らして僕の腕を掴む。
「どうした?」
「仲間がやられた。助けたい!頼む。一緒に来てくれ」
僕は頷いた。刀の存在を意識する、そして男と一緒に裏道へ走る。男と一緒に裏道へ走る。すると、背後から数人の影が現れた。
男が叫んだ。
「連れてきた」
僕は一瞬、意味がわからなかった。だが、次の瞬間、男の刀が僕の脇腹を狙って振り下ろされた。
間一髪、僕は身をひねってかわして、逆に向こう脛に蹴りをお見舞いした。サッカー部の戦い方だ。
「なっお前!」
「はは、まんまと騙されたな」知ってる声だ。
男は、仲間に混ざれずに脛を抱えて呻いている。
不知火圭一たちはそいつに見向きもしなかった。不知火の顔が、月明かりに浮かび上がる。
「よう、東京からのお坊ちゃん。洒落たことするじゃないか」奴らの一人がそう言った。
「卑怯だぞ。足を狙うなんて」別の一人が言った。
「卑怯?そう言う奴が一番、痛い目見るんだよ!」と僕は言い返した。
「貴様!!」
不知火が叫んだ瞬間、僕は一歩踏み出していた。黙って戦え!口で戦うな!ちらっとそう思った。
奴らの動きは焦ったいくらいゆっくりだ。
手近な奴らを倒し、蹴りを入れながらこちらに走って来る新手に矢をお見舞いした。
矢をつがえて、放つ。外すわけがない。的が近づいて来てくれるんだ。
念入りに蹴りを入れておいたのに、不知火が怒声を上げて突っ込んでくるのに、矢を射る。
その隙に近づいた相手には刀を向ける。本物の刀で斬り合ってる。体が動く。夢で、あの侍と何度も繰り返した。剣の重さ、間合い、踏み込み。
さらに、近くに来た三人を斬り伏せる。僕の動きに、相手はついてこられない。
囲まれても焦らない。こいつらは僕の獲物だ。
誰かが叫んで逃げようとする。その足をすくって、倒して、さらにもう一撃。
相手の怯えた顔をしっかりと視界にとらえる。
そして、僕は、不知火の胸を、スパイクで蹴り上げた。
「卑怯者は、集団行動が好きだね」と思い切りバカにした。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




