20 決心
十二月のある日、僕は茶室に来るよう言われた。別にお茶とお菓子を楽しむって感じじゃなかった。
畳に座ると、庭の木立が冷たい風に揺れていた。ストーブが入っているのに、空気はひやりとして、緊張で背中がこわばる。聖一郎さんと光子さんが、きちんと着物で座っていた。なんだか、ただごとじゃない雰囲気だった。
「航平、今日は話がある」
聖一郎さんの声はいつもと同じ静かなものだったけど、目がいつもより鋭く見えた。光子さんがそっとお茶を僕の前に置いてくれる。茶碗の縁から湯気が立ちのぼって、僕の手の中が少し温まった。
「この町で昔から続いていることだ。君もそろそろ知っておいたほうがいい」
そう前置きをしてから、聖一郎さんは話し始めた。
それは・・・まるで小説の中の話だった。この前楽しく読んだ小説の方がまだ、身近だと思う・・・
かつて、この町で起きたお家騒動。その名残が、今も続いているという。敵と味方に分かれた家同士が、代々引き継いできた対立。そして、その戦いは、今も続いている。
「戦いって、まさか・・・」
「刀と弓でだ」
「は?バーチャルをリアルで?・・・それは。それはただのリアルじゃん」と呟いてしまった。
「集合場所は次代様の菩提寺。戦いは夜、町の灯りが消えた時に始まる」
えっ・・・ジダイって誰?ジェダイじゃないよねと僕はしょうもないことを考えた。これが現実逃避ってこと?
後で光子さんにこっそり確認して次代様だとわかった。
「ただ、気をつけなさい。たまに、大勢で取り囲んで戦いを仕掛けてくる卑怯者がいるのよ」と光子さんが初めて聞く、厳しい声音でこう言った。
そのとき、僕は思い出した。高志郎さんの左手。握手した時のごつごつした手。竹刀を握っている手だ。
サングラスを外しながら歩いてきたあの姿。
車のギアを片手で操作していたあの動き。事故だって言ったよね。
「高志郎さんも、それで?」
僕の問いに、聖一郎さんは静かに頷いた。
「一対一で戦っている時に、大勢が・・・囲まれてね。それでも何人かは倒している。だが、左手を・・・」
僕の中で何かが燃え上がった。あの優しい笑顔を思い出すだけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「僕も、参加します」
気がついたら、口にしていた。自分の声なのに、誰かが言ったみたいに思えた。
「わかった。だが、覚悟しておけ。これは遊びではない」
それからは、まるで時間が足りないみたいに稽古に励んだ。特に夢の中で・・・
今では僕の大事な先生であり、相棒でもある、夢の中の侍。彼と一緒に。
「構えが甘い。もう一度!」
夢の中で僕は真剣を持って相棒と向かい合う。いつの間にか僕の手には蔵で見たあの刀が・・・
夢の中でも弓を引いた。的は遠い。でも僕は思う。的が敵なら必ず届く。必ず射てやると。
朝、布団の中で目を覚ますと、手のひらの豆が潰れていたりする。それを不思議と思わなかった。あの侍が、ちゃんと一緒にいてくれた証拠だ。
寒い夜、光子さんが用意してくれた善哉を食べる時、あの侍が喜んでいる気配がする。甘い物が好きなのは僕と一緒かな。
「ありがとう。もうちょっとだけ、手伝ってくれよな」
そして、決戦の夜は近づいていた。
僕は、ただの「山本航平」だ。でも、この町で、三千院の名を背負う者として戦う。
刀に込めた思いと、弓の引き絞りの重さ。
そして、あの侍の「まかせろ」という声が、僕の背中を押す。
これは僕だけの戦いではない。聖一郎さんのため。高志郎さんのため。味方のため。僕自身のため。
そんな戦いだ。
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