17 西園寺美奈子の独り言
その日は少しだけ風が強かった。夏の終わりの風。道場の床を撫でて、的の向こうの草が揺れている。
私はいつものように構えて、矢を番えて、息を整えて、そして放った。
的に当たった。中心ではなかったけれど、まっすぐ飛んだ一本だった。周りが少し静かになった気がしたのは、気のせいかもしれない。別にそんなに特別な一本じゃない。ただの、いつもの一本。
でも、部活が終わった帰り道、山本くんが私のあとを追ってきて、話しかけてきた。
「先輩の行射、すごかったです。なんか、こう・・・時間が止まったみたいで」
そう言って、ちょっと照れたように笑う。彼は時々、こうして真っ直ぐな目をして褒めてくる。それが少し、苦手だ。嘘じゃないのはわかる。でも、真面目すぎて、こっちが試されているみたいな気になる。
「ありがとう。でも、当たらなかったら意味ないでしょ」
わたしは軽く笑って返した。そういう時にうまく受け流せるのは、たぶん家での会話で慣れているからだと思う。名字の重み、家の伝統、そういうのに慣れた人間の話し方。
でも、山本くんは思わぬことを言った。
「美奈子先輩って、自然体で・・・光子さんにちょっと似てるなって」
歩いていた足が、思わず止まった。
「光子さん?」
山本くんは失敗したって顔をした。
「失礼しました。誰かと比べられるって嫌ですよね。でもなんというか先輩。かっこいいです」
わたしはその場で一瞬だけ考えた。三千院の光子さん。あの方の名は、私の家でもよく出る。この町で三千院光子の名前に反応しない人はいないだろう。
あの人を自然体と言えるのか?と少し驚いた。
「へえ。あの方を自然体って言えるなんて、なかなかすごいわね」
わたしはそう返した。
「え? そうなんですか?」
「三千院光子さんは、特別な人だしそれに」と言いかけてやめた。
山本くんがなんだ?って顔をしたから・・・
多分、彼から見たら光子さんは、優しいおばあちゃんなのかも
わたしは話題を変えた。
「山本くんはどうして一人でここに?」
「親の海外赴任です。日本人学校が遠いとか・・・僕、それなら現地校で良かったんだけど、二人は心配して、もう中学生なのに」
「なるほど、これで問題が解決。どうしてかなって思ってたの?」
「わかると単純ですね」と山本くんが笑うと
「それでは失礼します」と言って友達の輪に戻って行った。
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