16 サッカーの試合
今日は隣の市の中学とサッカーの練習試合だった。
朝から少し曇ってて、夏なのに風が冷たかったけど、グラウンドに立つと、僕の背中に熱が集まってくるみたいに感じた。
相手チームの子たちが集まりながら
「なんか体が重いな」って言ってるのが聞こえた。
この町は山の中にあって、標高が高いから空気が薄いのかもしれないって一瞬思ったけど、すぐにそんなこと忘れてしまった。
試合が始まればそんな言い訳なんか通用しないんだから。
僕の足元には芝じゃなくて土の匂いがある。
東京でやってたグラウンドとは違う。
この土の上で、どれだけ走れるかが勝負だ。そして僕は誰よりも走っている。
相手は強かった。ドリブルも速いし、パスも正確だ。
でも、僕の足は止まらなかった。常に目の隅に相手を置いて警戒する。
この町に来てから、夢の中であの侍に手伝ってもらうようになって、ちょっとずつだけど本当にボールが足に吸い付いてくるようになった。
見てなくてもポールがどこにあるかわかる。足がボールを見ているようだ。
気持ちの問題かもしれないけど、それでいい。僕は僕の足を信じる。
試合の前半は押され気味で、僕も何度かボールを奪われた。
悔しくて、何度も舌打ちしそうになったけど、ベンチの向こうの聖一郎さんを思い出してお行儀よくした。
見てるんだ。みっともない真似はしない。僕が東京から来て、ここで何ができるか見てくれてるんだ。
背中が少しだけしゃんとした。
ハーフタイムのとき、相手のエースみたいな子が「ここの空気が重いんだよ」って言ってるのが聞こえた。
心の中でちょっとだけ笑った。
僕だって最初はきつかったけど、走って、倒れて、息が切れるまで練習してきたんだ。
ここじゃ僕が一番走れるんだって、そう言えるようになりたいんだ。
後半、相手チームが受け損なったボールが僕の足元に転がってきた瞬間、頭の中にボールと僕とゴールが浮かんだ。
相手のディフェンスが二人、僕の前に立ちはだかった。
でも、視界の端にゴールが見えた。いける。道はある。
足を後ろに引いて、思い切りボールを蹴る振りをして、相手の股を抜けるようにトンと押し出した。
同時に僕も前にすり抜けた。
もう一人が慌てて寄ってくる。
こっちは一歩先にボールをちょんと外に出して、体を思い切りひねった。
相手のゴール前は、音がなくゆっくりとキーパーがこちらへ動いた。
キーパーの息が荒いのがわかる。
ネットをボールが揺らすのか見えた。
蹴る。蹴った瞬間、砂が飛んだ。
ボールが弧を描いて、キーパーの手の先をかすめていった。
ネットがバサッと揺れて、遠くの味方が「ナイス!」って叫んでる声が聞こえた。
「よっしゃ!」
思わず声が出た。
足元の砂を軽く蹴った。
相手のディフェンスが悔しそうにこっちを睨んでたけど、もう怖くなかった。
僕は、この町でちゃんとやれてる。
空気が薄い?体が重い?条件は同じだ。
そんなの関係ない。
僕の足はここで動ける。
誰が相手でも、この土の上で走ってやる。
試合は、僕らの勝ちだった。
相手のキャプテンが悔しそうに首を振りながらも、僕に手を差し出してきた。
「君、上手だね、足も速いしボールに好かれている?」と言いながら、二パッと笑った。
僕も手を握り返した。
心臓の奥がまだドクドクしてたけど、その言葉が全部が嬉しかった。
ベンチの隅で水を飲んでると、少しだけ空が高く見えた。
山の上の空は広いんだなって思った。
この町に来たとき、いろんなことが怖かった。
勉強もついていけないし、サッカー部だって最初は笑われてばかりだった。
でも僕は走り続けてる。誰にも馬鹿にさせない。
僕は『山本航平』普通の苗字『山本』だ。この名前で、この町のグラウンドで、何度だってゴールを決めてやる。
よし、明日も負けない。
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