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この町ってなんなんだ!  作者: 朝山 みどり


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15/24

15 影響されすぎだろう

 その夜、僕はいつもの歴史の分厚い本じゃなくて、今日、花筏市の書店で買って来たラノベを読んだ。

 タイトルは長くてちょっと恥ずかしい感じがしたけど、勇気を出してレジに持っていった二冊のうちの一冊だ。

 異世界に召喚される話で、学校の帰り道に仲間たちと一緒に違う世界に飛ばされて、みんなすごく強くなって、魔物を倒したり、王様に頼られたりする。

 主人公が「俺たちは仲間だからな!」って言ったシーンで、胸が熱くなった。

 みんなで助け合って困難を乗り越えて、その世界で一番の美少女と結ばれるなんて、そりゃあ面白いに決まってる。


 ページをめくる手が止まらなくて、あっという間に三分の二くらい読んだところで、急に眠気がやってきた。

 文字がにじんで、主人公の『絶対に諦めない!』ってセリフが頭の奥でふわふわする。

 本を閉じて、枕元の小さなスタンドの明かりを消して、布団を引き寄せると、すぐに夢の世界に落ちていった。


 どこかで聞いた刀の鞘の音が、遠くでカチリと鳴った。

 ゆらゆらと夢の中に立っていたのは、あの侍だった。

 いつもと同じちょんまげ、いつもの和服。でも今日はなんだか、ちょっと着物が光ってる気がする。これって異世界風?

 いや、僕の夢だから、僕が何かしてるんだけど。


「お前も、ああいう活躍をしてみたいか?」

 侍は低い声でそう言った。

 後ろに何もない真っ暗な世界で、侍の着物の裾だけが風に揺れてる。今日はほつれてないな。

 声の響きが頭の奥にずんと残って、僕は夢の中で「え?」と聞き返した。

 侍は少し口の端を上げて笑った。


「手伝ってやろう。仲間と一緒に異世界で剣を振るうか?」

 どこかから、さっき読んだラノベの仲間たちの笑い声が聞こえてくる気がした。

 誰かの肩に手を置いて、背中を預けて、誰かのために立ち向かう。

 かっこいいに決まってる。


 だけど

「アホか」

 夢の中で、僕は思わず口に出してた。侍は眉を上げて面白そうに笑った。


「助けてやろうと言っている」

「だからアホかって言ってんだ」

 声が震えてたのは自分でもわかった。

 夢の中の僕は、立っているのか浮いているのかもわからなかったけど、侍の前に立って言葉を吐き出した。


「そもそも僕は異世界の勇者じゃないし、仲間と肩組んで魔王倒して美少女に囲まれて・・・そんなの僕じゃないだろ。僕は山本航平だ。普通で、ちょっとだけ頑張って、泣きそうになるくらいが似合ってるんだよ!」

 言いながら、胸の奥で何かがポキッと音を立てた気がした。


 侍は相変わらず刀の柄を撫でて、じっと僕を見てる。

 何も言わないくせに、何かを言いたそうに口元が動くのが腹立った。


「そりゃぁ」

 気がつくと、僕は声を落として呟いていた。

「僕だって、助けてほしくないわけじゃない。ちょっとだけは、手伝ってくれたらって思うけど、けど、それは僕が僕としてやるためだ。誰かと肩組んで英雄になるためじゃないんだよ」


 侍の後ろに、ぼんやりと光が差してきた。目を細めると、あの本棚が見えた。

 僕の部屋の一番大きな棚に並んだ、戦国武将の本や、分厚い学術書や、母さんに買ってもらった絵本まで全部。

 どの背表紙も僕の味方だ。


「僕は普通の山本航平だ。でも、普通で終わらせないって決めたんだ。剣道も弓道もサッカーも、この町で僕が全部やる。雫野原市のことも調べる。母さんに胸張って言えるくらいの何かを見つける。だから」


 一度だけ侍の目をまっすぐ見た。

「そんなヒーローみたいな活躍、いらないよ。アホか。自分でも笑える。こんな夢見て、自分に向かってこんなこと言ってる自分が一番アホだ」

 そう言った瞬間、侍がククッと笑った。

 刀の鞘がカチリと鳴る音がして、僕はその音が嫌いじゃないことに気づいた。


「そうか」

 低い声が、だんだん遠くなる。

 夢の中で侍の姿がぼやけて、いつの間にか本棚の前に僕だけが立っていた。

 背表紙を撫でながら、僕は深く息をついた。


 目を開けたとき、外の鳥の声が聞こえた。

 枕元には読んでたラノベが開きっぱなしになっていた。

 あれ?机で読んでいたのは確かだけど・・・本を机に置いてベッドに行ったよな?眠くて勘違いしたのかな?


 僕は本を手に取ると、寝転んだまま読んだ。

 異世界召喚は確かに面白いし、憧れるなっと、小さく呟いて、ページをめくった。

 まだ暗い空の下で、僕はちょっとだけ笑った。異世界で活躍する自分を想像した。

 読み終わって現実に戻って来た。ちょうど起きる時間だ。


 よし、今日もやってやる。

 僕は山本航平だ。



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



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