15 影響されすぎだろう
その夜、僕はいつもの歴史の分厚い本じゃなくて、今日、花筏市の書店で買って来たラノベを読んだ。
タイトルは長くてちょっと恥ずかしい感じがしたけど、勇気を出してレジに持っていった二冊のうちの一冊だ。
異世界に召喚される話で、学校の帰り道に仲間たちと一緒に違う世界に飛ばされて、みんなすごく強くなって、魔物を倒したり、王様に頼られたりする。
主人公が「俺たちは仲間だからな!」って言ったシーンで、胸が熱くなった。
みんなで助け合って困難を乗り越えて、その世界で一番の美少女と結ばれるなんて、そりゃあ面白いに決まってる。
ページをめくる手が止まらなくて、あっという間に三分の二くらい読んだところで、急に眠気がやってきた。
文字がにじんで、主人公の『絶対に諦めない!』ってセリフが頭の奥でふわふわする。
本を閉じて、枕元の小さなスタンドの明かりを消して、布団を引き寄せると、すぐに夢の世界に落ちていった。
どこかで聞いた刀の鞘の音が、遠くでカチリと鳴った。
ゆらゆらと夢の中に立っていたのは、あの侍だった。
いつもと同じちょんまげ、いつもの和服。でも今日はなんだか、ちょっと着物が光ってる気がする。これって異世界風?
いや、僕の夢だから、僕が何かしてるんだけど。
「お前も、ああいう活躍をしてみたいか?」
侍は低い声でそう言った。
後ろに何もない真っ暗な世界で、侍の着物の裾だけが風に揺れてる。今日はほつれてないな。
声の響きが頭の奥にずんと残って、僕は夢の中で「え?」と聞き返した。
侍は少し口の端を上げて笑った。
「手伝ってやろう。仲間と一緒に異世界で剣を振るうか?」
どこかから、さっき読んだラノベの仲間たちの笑い声が聞こえてくる気がした。
誰かの肩に手を置いて、背中を預けて、誰かのために立ち向かう。
かっこいいに決まってる。
だけど
「アホか」
夢の中で、僕は思わず口に出してた。侍は眉を上げて面白そうに笑った。
「助けてやろうと言っている」
「だからアホかって言ってんだ」
声が震えてたのは自分でもわかった。
夢の中の僕は、立っているのか浮いているのかもわからなかったけど、侍の前に立って言葉を吐き出した。
「そもそも僕は異世界の勇者じゃないし、仲間と肩組んで魔王倒して美少女に囲まれて・・・そんなの僕じゃないだろ。僕は山本航平だ。普通で、ちょっとだけ頑張って、泣きそうになるくらいが似合ってるんだよ!」
言いながら、胸の奥で何かがポキッと音を立てた気がした。
侍は相変わらず刀の柄を撫でて、じっと僕を見てる。
何も言わないくせに、何かを言いたそうに口元が動くのが腹立った。
「そりゃぁ」
気がつくと、僕は声を落として呟いていた。
「僕だって、助けてほしくないわけじゃない。ちょっとだけは、手伝ってくれたらって思うけど、けど、それは僕が僕としてやるためだ。誰かと肩組んで英雄になるためじゃないんだよ」
侍の後ろに、ぼんやりと光が差してきた。目を細めると、あの本棚が見えた。
僕の部屋の一番大きな棚に並んだ、戦国武将の本や、分厚い学術書や、母さんに買ってもらった絵本まで全部。
どの背表紙も僕の味方だ。
「僕は普通の山本航平だ。でも、普通で終わらせないって決めたんだ。剣道も弓道もサッカーも、この町で僕が全部やる。雫野原市のことも調べる。母さんに胸張って言えるくらいの何かを見つける。だから」
一度だけ侍の目をまっすぐ見た。
「そんなヒーローみたいな活躍、いらないよ。アホか。自分でも笑える。こんな夢見て、自分に向かってこんなこと言ってる自分が一番アホだ」
そう言った瞬間、侍がククッと笑った。
刀の鞘がカチリと鳴る音がして、僕はその音が嫌いじゃないことに気づいた。
「そうか」
低い声が、だんだん遠くなる。
夢の中で侍の姿がぼやけて、いつの間にか本棚の前に僕だけが立っていた。
背表紙を撫でながら、僕は深く息をついた。
目を開けたとき、外の鳥の声が聞こえた。
枕元には読んでたラノベが開きっぱなしになっていた。
あれ?机で読んでいたのは確かだけど・・・本を机に置いてベッドに行ったよな?眠くて勘違いしたのかな?
僕は本を手に取ると、寝転んだまま読んだ。
異世界召喚は確かに面白いし、憧れるなっと、小さく呟いて、ページをめくった。
まだ暗い空の下で、僕はちょっとだけ笑った。異世界で活躍する自分を想像した。
読み終わって現実に戻って来た。ちょうど起きる時間だ。
よし、今日もやってやる。
僕は山本航平だ。
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