14 ネカフェと異世界
花筏市に着いた僕は、駅前のバスターミナルを出てすぐにこの前の書店に入った。
ここまでバスで一時間近く。窓の外に流れる景色はずっと田んぼと山ばかりで、バスのエンジン音を聞いてると、なんだか夢の中の侍の声が遠くに聞こえた気がする。
『お前を助けてやろう』って言ってたあの声。この声はほつれてる方だ。どうも、侍は二人?なのか?ほつれている方としてない方。それとも僕の想像がちゃんと服を着せられないってこと?あぁ面倒!
だってさ、寝てまでこんな所に気ぃ使ってると疲れるよね。
まぁ、今は、助けて欲しいっていうより、ちゃんと自分で調べたいって気持ちの方が強いから、気にしない。
書店に入ると涼しい空気が僕の汗ばんだ額を冷やしてくれた。
目的は決まってた。
雫野原市のことが載っている郷土史の本か、何か手がかりになる本をもう一度探すこと。
でも、まず目に入ったのは平積みになった本。楽しそうな表紙の本だった。
『異世界転生』『異世界召喚』『勇者〇〇シリーズ』とか、そんなタイトルばかり。
前の学校でもこういうのが流行ってて、休み時間に友達が楽しそうに話してたのを思い出す。
僕は歴史の本ばかり読んでたから、そのときはちょっとだけ置いてけぼりを食らった感じがしてた。
でも、別の世界に行くっていうのは、なんだか今の僕みたいだ。異世界、雫野原市。なんちゃって!
母さんと離れて、この町に預けられて。
東京での僕とは違う僕が、ここで何かを見つけていく・・・そんなことが起こりそうだ。
二冊、手に取ってパラパラとページをめくった。
剣と魔法とドラゴンと、勇者と城とお姫様。
読んだことないけど、面白そうだと思った。
こういう物語の中に入れたら、あの夢に出てくる侍とも肩を並べて戦えるのかなって、そんなことを思った。
その二冊の本を買った僕は書店を出て、ネカフェに向かった。
雫野原市にはネカフェがない。三千院の家も聖一郎さんが「いらん」って言ったからネット回線がない。
だから、何かを調べるならここしかない。
でも、花筏市のネカフェって思ったより人が多いんだな。
受付で会員証を作って、小さな個室に通された。
ドアを閉めると、狭い空間にパソコンのモーター音だけが響いている。
そして母さんに電話した。しばらくして母さんの声が聞こえた。
前回と同じ展開、同じ言葉で叱られた。
電話を切ってから、検索画面を開いて『雫野原市 歴史』って入れる。
ヒットしたのは花筏の観光情報ばかり。あとは近隣の史跡とか、他の町の城跡とか。
何度キーワードを変えても、雫野原市のことは一行も出てこなかった。
単なる観光情報も出てこない。これってなんなの?
椅子の背もたれに寄りかかって、ため息が漏れた。
本棚の前で、戦国武将の顔を思い浮かべながらページをめくるほうが、よっぽど色々見つかる気がする。
画面の中でぐるぐる回る検索結果を見つめながら、僕は机の端に置いた『雫野原郷土史調査ノート』の表紙を指で叩いた。
僕は、何を探してるんだろう。
この町に何かあったのは確かだ。その結果が今日の検索結果だ。
三千院の家の石垣や茶室や蔵は見ていたに違いない。大豪院、不知火の家も。苗字も家も時代劇そのものだ。
見つけたいのに、探せば探すほど迷路に入り込んでいく感じがする。
誰かがわざと隠したんじゃないかって、本当に思う。
「なんなんだ」
小さく声が漏れた。
夢の中の侍が笑ってる気がする。
『助けてやろう』って言うかもしれないけど、こんなことで助けられたくない。
だって、これは僕がやらなきゃいけないことだ。
ネカフェを出たら、夕陽が眩しかった。
人の声と車の音が交じり合って、なんだか頭の奥がじんじんする。
リュックの中の本とノートの重さが、少しだけ僕の背中を押してくれる。
まだ終わりじゃない。
花筏市でダメなら、もっと遠くでも探してやる。
三千院の屋根の下で、歴史の本に埋もれて眠った東京の僕がいるから、今の僕がここにいる。
母さんと離れて暮らして、聖一郎さんの蔵の前で、あの石垣を何度も触って、夢の中で侍と目が合った。
全部が僕の一部だ。
バスの中ではウトウトしてしまったけど、雫野原市に続く峠で目が覚めた。
ここから見る町はいつも少し暗い。山間の町って感じだ。
あの、町に何が隠されてるんだろう。
山本航平は見つけられるだろうか?
玄関を入ると夕食の匂いがした。光子さんのご飯はいつも美味しい。
僕は大きな声で
「ただいま、帰りました」と言った。玄関を上がった。部屋へ行きかけて慌てて戻って靴を揃えた。
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