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この町ってなんなんだ!  作者: 朝山 みどり


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12/24

12 何かあるのに見つからない

僕は、まだ朝の空気が涼しいうちに、バスに乗った。

 目的地は県庁のある花筏市。雫野原市の町にも図書館はあるけど、何度調べても知りたいことは何も出てこなかったからだ。


 バスのシートに深く腰かけて、窓の外を眺める。田んぼの緑が朝日に照らされて、波みたいに揺れていた。

 隣の席には誰もいない。僕はリュックからノートを取り出して膝に置いた。表紙には『雫野原郷土史研究ノート』って、自分で書いたやつだ。


 最初はただの好奇心だった。三千院の家みたいな屋根の大きい家が残ってる町だから、面白い歴史があるだろうと。だが何も残ってなかった。何で昔の記録がほとんどないんだろうって。

 だから少し時間が出来た夏休みに入ってすぐ、花筏市まで出て来た。


 バスのエンジンの音が小さく唸る。すれ違うバスを窓越しに眺めてたら、夢で見た侍のことを思い出した。

『お前を助けてやろう』って言われたけど、あれは僕自身だ。自分の夢なんだから、高志郎さん見たくかっこいい姿で出ればいいのに、何やってるんだ僕は。おまけに侍の着物がほつれていたり、いなかったり・・・着物くらい新品を着せろよ、自分。


 一時間近く揺られて、花筏市のバスターミナルに着いた。

 大きなロータリーから高いビルが見える。さすが県庁所在地だ。人も多いし、空気が少し埃っぽい。


 まず向かったのは市役所だった。郷土資料室があることは調べておいた。

 受付で「雫野原市の古い資料を探してます」って言ったら、職員さんがすごく丁寧に案内してくれた。

 でも棚をいくら探しても、雫野原市の名前は出てこない。他の地域の古い地誌や絵図はたくさんあるのに。


「他の町はこんなにあるのに」

 思わず小さく呟いたら、職員さんが

「雫野原市?そうですねぇ、見たことないですね。確か別の藩ではあったんですけどね」で首を傾げた。

 結局、一冊も見つからなかった。


 気を取り直して、次は県庁の資料室へ行った。もっと大きいし、何か手がかりくらいはあると思ったんだ。

 でも結果は同じだった。他の町のことはちゃんと残ってるのに、雫野原市だけがぽっかり穴が空いたみたいに何もない。



 何でだろう。僕の胸の奥で、だんだん苛立ちみたいなものが膨らんできた。

 神宮寺の家とか不知火の家とか、うち、三千院の家のようなあんな立派な家が残っているのに、誰も何も書き残さなかったわけがない。

 誰かが隠したんだろうか。


 図書室を出て、県庁の廊下で深呼吸した。昼過ぎの蝉の声が窓越しに聞こえてくる。

 とりあえず、最後の頼みで本屋に寄ってみることにした。


 花筏市の駅前にある大きな書店は、ガイドブックコーナーが充実してた。

 他の町の観光案内や歴史本がずらっと並んでて、色んなところが特集されてたけど、雫野原市の名前はどこにもない。

 その棚の前で僕はしばらく立ち尽くした。


 観光地にもなりそうなのに。

 三千院の家だって、石垣や苔庭や茶室、何もかも時代劇のロケが出来そうなくらい立派なのに。


「おかしいなぁ」

 本を一冊手に取って、ページをパラパラめくった。


 何かがある。きっとある。そう思うから、見つからないのが、余計に悔しい。


 でも手ぶらでは帰りたくなかった。せめて、この県全体のことを知ろう。

 そう思って、観光ガイドを何冊か選んだ。重たいけど、これも全部調べるためだ。


 書店のフリースペースで僕は携帯を取り出した。小声なら電話してもいい場所だ。


 僕は母さんの所をタップした。


 すぐに母さんの声が

「何してるの。電話にも出ないで」と返って来た。

 それはこっちのセリフだ。

「そっちこそ、何だよ。何回かけたと思ってるんだ」

 と言い返したが、母さんは僕の言葉なんか聞いてなくて

「電話くらい出なさいよ。どれだけ心配したと思うの。ご飯食べてる?学校はどう?」と続けた。

「こっちからも何度もかけたよ」

「友達できた?寂しくない?風邪ひいてない?」

「ご飯は美味しい」続きは言えなかった。だって母さんが止まらなかったんだ。

「本当に何を考えてるの!電話くらいしなさい。わかった」と母さんが電話を切るまで僕は合間に

「ごめん」「気をつけるよ」「うん」くらいしか言えなかった。

 でも、最初怒っていた母さんの声が涙声にかわり、やがて落ち着いてまた怒って行くのを聞きながら

 僕もちょっと涙が出て来た。


 電話を切ると安心と疲れがどっと出て来た。


 レジを済ませて外に出ると、夕陽がビルのガラスに反射して眩しかった。

 バス停までの道を歩きながら、袋の中のガイドブックをもう一度見た。


 僕はこの町のことを調べるって決めたんだ。

 普通のままじゃ終わらない。

 あの侍が夢で笑ってる。もっとかっこよくなれ!

 心の中で小さく呟く。『お前を助けてやろう』ってか?かっこつけて・・・自力でやるわい。


 バスの車内は帰りの人で少し混んでいて、僕は窓際の席に座った。

 エンジンが小さく唸って動き出す。外の空は少しだけ赤くて、雫野原市までの山道を思い浮かべる。


 次はネカフェに行こう。町にネットはないけど、花筏市ならあるはずだ。

 ネットの海に何か落ちてるかもしれない。ぜんぶ調べ尽くしてやる。


 膝の上のノートの表紙を撫でて、小さく笑った。

 どこか遠くで蝉が鳴いている。


『山本航平』だ。

 僕は僕の名前で、この町を暴いてやる。



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



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