01 なんかすごくかっこいい
航平はある事情で、山間の町で暮らし始めた。その町はいまだに携帯が繋がらない。同級生は運動も勉強も出来る。すごく出来る。航平は努力したが追いつけない。ある日、夢の中であった侍が手伝うよと言った。
手伝うってどういうこと?夢の中のことだし、手伝って貰うことにしたら、航平のサッカーはどんどん上手くなっていった。嬉しいけど。嬉しいけど、何かあるよね。航平はこの町を知ろうとし始める。
アルファポリスにも投稿しております。
ドリンクバーの氷が、コップの中でカランと鳴った。
僕はストローを咥えたまま、母さんの顔を横目で見た。
母さんはさっきからスマホの画面ばかり見ている。
何度も何度も、髪を耳にかけ直して、落ち着かない様子だった。
「高志郎さん、まだかな」
そう呟いた母さんの声に、僕は曖昧に「うん」と返した。
それからすぐに
「約束の時間までまだ十分あるよ」と言った。
別に早く会いたいわけじゃない。
ただ、母さんのこの落ち着かなさに不安が見えるのが不安だった。母親の再婚相手。手放しで歓迎できる?
ドリンクバーの近くのこの席は、僕たちにとって特等席だ。
サッカー部の友達と来るときは、いつも取り合いになる。
母さんはファミレスなんて久しぶりだと言っていたけど、僕はここのポテトが好きだ。
テーブルの端に置かれた伝票に目を落とす。
母さんも僕に付き合ってドリンクバーを頼んでいる。
久しぶりでどうすればいいかわからない母さんに教えてやってコーヒーを持ってきた。
僕はまずメロンソーダ。
それからポテトとナゲットのセットを頼んだ。頼んでから、気がついた。
初めて会う人の前でポテトとナゲットってかっこ悪いんじゃ?
「かっこいい人だよね」と母さんに言った。
スマホで写真を見せて貰ったんだ。
「そうね」
母さんは僕の質問に、少しだけ頬を赤くして笑った。
「三千院高志郎って、名前が凄いよね。僕も三千院航平になるのかな?」
僕は思わず笑った。僕は一躍、ヒーローになる。
今の『山本』なんて、どこにでもある名字だから余計に思う。
でも、僕はこの名字が嫌いじゃない。
父さんのことはあまり、覚えてないけど、父さんが『山本』だから、僕も『山本』それで十分だ。
でも、三千院はかっこいい。
「航平は今のままで可愛いわよ」
母さんはそう言って、僕の髪をくしゃっと撫でた。
僕はちょっと嫌で、頭を振って手を払う。
おかわりはカルピスとメロンソーダのミックスだ。さて、ドリンクバーに行こうかなと思ったときだった。
母さんが僕の後ろを見た。僕は振り返った。
背の高い男の人がいた。母さんに目を当てて微笑んだ。
黒いサングラスをかけていて、白いシャツに薄い色のジャケット。
どこか外国の映画に出てきそうな雰囲気だ。
あの人か。
母さんもその人に微笑みかけた。男の人は母さんから目を離さずにゆっくりとサングラスを外しながら歩いてきた。
僕の胸が、少しだけざわついた。
なんだろう。思っていたよりもずっとかっこいい。
母さんが言っていた通りだ。でも、歩く姿が少し不自然だ。だから、かっこいいのかな?
男の人は僕と母さんのテーブルの前で立ち止まると、僕を見て微笑んだ。
「航平くんだね。初めまして。三千院高志郎です」
僕は反射的に立ち上がって、小さく頭を下げた。
「あ、どうも・・・」僕は自分の名前も言えなかった。
高志郎さんは、母さんの隣にすんなりと座ると、左手を上に挙げた。
僕は一瞬、握手を求められているのかと思ったけど、違った。
僕がそれに気づくと同時に高志郎さんは言った。
「事故で」
高志郎さんの左腕は、肘の少し下から先がなかった。
言葉が出てこなかった。頭の中が一瞬真っ白になった。
「別に不自由はないかな。意外に平気なんだよ」
僕は慌てて視線を逸らして、母さんの顔を見た。
母さんは笑顔で頷いた。
「驚いた?」
高志郎さんが僕の目を覗き込んできた。優しい声だった。
僕は何も言えなくて、曖昧に首を振った。
「事故でね。もう二十年以上前の話だ」
僕は返事をしようとして、でも何を言えばいいのかわからなかった。
そんな僕に、高志郎さんは右手を伸ばしてきた。
「握手は出来るよ」
僕も右手を出して握手をした。大きな手の平はゴツゴツしている。
「会えてうれしいよ、航平くん」
ドリンクバーの氷が、カランと鳴った。
僕は笑顔で頷いた。
「ドリンクバーか。懐かしいなぁ。変な混ぜ方のドリンクが意外に美味しかったりして」と高志郎さんが言った。
「何かとってこよう。航平くんもおかわりに行く?」
高志郎さんに言われて、僕は素直に頷いた。
でも、立ち上がった途端に、僕の足はテーブルの脚にぶつかって鈍い音がした。
「痛て・・・」
思わず変な声が出てしまって、僕は恥ずかしくなった。
母さんと高志郎さんが同時に笑った。なんだろう、この笑い声。
気が合った同士だ。嫌じゃない。でも胸の奥が、少しだけ苦しくなる。
高志郎さんは半分しかない左手で、レバーを操作してコーラをグラスに入れた。
「こんな感じなんだ。車の運転も出来るよ。車がちょっと違うけどね」
そんな話を聞きながらレバーを操作した僕は、カルピスの上から注いだメロンソーダを少しだけ溢れさせてしまった。
母さんがこちらを見て笑っている。
高志郎さんも母さんを見て笑っている。
僕はそのそばで笑う自分を、まだ少し想像できないでいた。
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