第4話 祈り
新聞の片隅に小さな記事があった。
[少女、夜のビルから転落 医師の処置疑惑]
たったそれだけの文字。
でも私は、すぐにわかった。
神は、この世にまだいたのだと。
汚れた街の、薄暗い夜の片隅に。
私は教会で祈るのが好きだ。
蝋燭の炎を見つめ、ひとりの少女のために心を震わせる。
その記事を読んだ夜も、私は膝を折り、手を合わせた。
「どうか、あの子をお守りください」
でも、祈るほどに、心はざわめいた。
少女は助かるのか、死ぬのか。
神は本当にいるのか、いないのか。
私の祈りは、誰のためのものなのか――。
教会の空気は、静かに重い。
周囲の人々は皆、知らない。
私は知っている。
少女の命の行方が、私の祈り次第で揺れることを。
その夜、夢を見た。
少女が私を見上げ、泣き笑いの表情で問いかけた。
――どうして、私を助けないの?
私は目を覚ますと、息が荒くなっていた。
祈りは、救いではなく責めになった。
逃げ道を塞ぐ、見えない檻になったのだ。
翌朝、新聞を読み返した。
記事の文字は冷たく、無機質で、少女の痛みなど知る由もない。
それでも私は、同じページを折り、また祈る。
今日も明日も、少女の運命が私の手の内にあるかのように。
「神よ、どうか、私をお許しください」
信仰は救いではない。
信じるほどに、私は少女を縛っていた。
そして、私はその呪いから逃れられないのだ。
「あの子は救われたのよ」
そう繰り返し囁く女の目は赤く血走っていた……




