第2話 秩序
正義は、秩序だ。
それを乱す者がいる限り、俺の仕事は終わらない。
警察官になって十五年。
嘘を吐く人間を、何百人と見てきた。
泣きながら「自分は悪くない」と言う奴ほど、たいてい一番汚れている。
だから、俺は信じないことを覚えた。
人を信じない代わりに、法を信じる。
それだけが、この腐った街で生き残る術だ。
……そう、思っていた。
あの事件までは。
俺が最初に彼女を見たのは、夜明け前だった。
通報で駆けつけた時、少女はベランダの外側に立っていた。
風が吹けば落ちるような場所で、泣いていた。
俺は声をかけた。
「降りろ。大丈夫だ。もう怖くない」
けれど、彼女は首を横に振った。
「お父さんが、また来る」
俺はすぐ動いた。
だが家庭内のことは民事不介入だ。
俺にできるのは、形ばかりの注意と報告だけ。
翌朝、彼女は飛び降りた。
俺の中で何かが切れた。
その夜、父親の部屋に忍び込み、
あの腐った笑みを殴り潰した。
正義の鉄拳だ。
そう思えば、罪悪感は薄れた。
翌日、俺はテレビで[医師による安楽死疑惑]のニュースを見た。
同じ少女の名前が映っていた。
どうやら、あの子はまだ死にきれず、
病院で救われたらしい。
ふざけるな。
どいつもこいつも、自分の正しさを振りかざして、
子どもひとり守れなかった。
正義を語るな。
正義は言葉じゃない。
俺の拳だ。
それでも、夜は静かだ。
俺は今日も制服を着る。
血の跡を、見えないところに隠しながら。




