01 始まり
高級住宅地、及び、高級マンション各所に、宅配便配達人の姿が見える。
ピンポーン。
「宅配便です」
「お疲れ様でした」
或いは、
「ありがとうございます。荷物はそこ(玄関横)に置いておいてください」
という、ごく普通の受け応えがあった。
宅配便受取人は各家庭の世帯主で、実際に宅配便を受け取ったのは、世帯主の配偶者、子息、メイド、またはヘルパーといった人々であった。
ある受取人は宅配便配達人が日本人ではない、または、そうではなさそうに見えたと、後に証言した。
さて、事件が起こったのは午後九時だったが、それ以前に帰宅し、宅配便に不信感を持った、実際に警察に届け出た世帯主も存在した。しかし時期は国会開催中であり、多くの世帯主は多忙だった。
幼児が事前に包装箱を空けてしまった事例もあった。けれども、箱の中に更に収められた箱は頑丈であり、幼児には開封ができなかった。
また、その重量から、箱の中身は恐らく本であろうと家人たちに推測された。実際、そのような事例は多かったのだ。
そして午後九時。ついに爆弾が爆発する。
被害世帯は二百。直接の死者は世帯主が六名。配偶者、子息も含めた被害者は二百名を超えた(その時間に世帯主がいない家庭は比較的多目であった)。
事件直後、被害世帯の異様性はすぐに判明した。財務省官僚、及び、民間会社に天下りした元財務官僚の家庭のみだったからである。
事件は世間を震撼させたが、国会は休まない。
A国会議員。
「日本経済が長期にわたるデフレ状態にありながら、あくまでも財政出動を実施しない理由について、財務副次官、明確に、お答えください。
B議長。
「C財務副次官!」
C財務副次官。
「国民生活を健全に守ることに関しまして、プライマリーバランスの黒字化は、骨太の方針にもございますように、政府として必要な政策でございまして……」
非常事態でもあり、その日の国会終了後、すべての財務官僚にはSPが付けられた。しかし元日本国総裁の暗殺事例にもあるように、日本のSP能力は低く、一流のスナイパーの敵ではなかった。
けれども、そのスナイパーの目的はC財務副次官の殺害ではなかった。あくまで、それは脅しであったのだ。
しかし、スナイパーの銃弾はC財務副次官の心臓を一撃で打ち抜いた。
その後、ウェブサイトに犯行声明が寄せられた。発信人は、「弱者の夜明け」と名乗った。
「われわれは日本の健全な経済発展を望む者の集まりである。今回のターゲットは財務官僚であったが、今後、同思想の国会議員、そしてマスコミ・コメンテイターもターゲットとなる可能性は否定できない」
次いで表示された新たなるターゲットの住所(所在地)。その数は二千を上まわった。優先順に、約五十塊に分けれられ、提示された。
「なお、われわれは今回のわれわれの行為を正義とは認識していない。しかし、関心領域に住まう者たちにも責任はある」
声明後、宅配便配達人の多くがクルド人であることが判明した。しかし、その中に某国人を装った日本人が存在しなかったとは言い切れない。なお、宅配便配達人は闇バイトとして集められた。これが通常の闇バイトと異なった点は、バイト料五千円が支払われた事実だった。一人当たり、五から十箱を担当したので、報酬は二万五千円から五万円であった。
怒れる者たちの行動は止めようがなかった。
その後の調査で、ウェブサイトに於ける犯行声明は英国ロンドンのイースト・エンドであることが判明した。
犯行声明以来、マスコミ各社によって名付けられた「財務官僚テロ(後に、財務テロ)」は鳴りを潜めた。
国家的なテロ対策チームも組まれたが、事件に解決の糸口は見えなかった。




