表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首狩りの赤銅  作者: 星屑アート
プロローグ
6/11

5話

補償(チート)スキル...異なる世界から迷い込んだものに送られる、非常に有用あるいは強力なスキル。異世界での人生に対する補填であり、こちらの世界で生きるための補助である。ごくまれに遺伝する。

 与えられたばかりで扱い慣れてもいないし、信ぴょう性も定かではないチートスキル。それでも、村の崩壊具合を見るに、このスキルに起因する優れた空間把握能力は正確に周囲の状況を把握していると思われた。

「(信じていいんだな?)」

 何の努力もなく誰から、どんな意図をもって与えられたかも分からない、強力なスキル。男はチートスキルを始めとする、異世界そのものへの信用度を上げる。

「(壊滅か、全滅か...。)」

 元の世界とは比較にならない全能感すら感じさせる空間把握能力が、生存者なしという結論を信じるのであれば、逃げた村人を除けば全滅であるのは間違いないのだろう。一方で、村人の総数と死体の数が分からないので、村から逃げた人がいるのか、逃げることができたのか、逃げられたとしてどこに逃げたかについては皆目見当がつかない。

「(どちらにせよ父親は最前線で戦っただろうから望み薄だな。)」

 村が襲撃された際は男衆が村の防衛に回るのがこの村の規則であり、元傭兵で村の中でも一際レベルが高かった少年の父親が最前線に立ったのは想像に難くない。老若男女問わず村人がこれほどまでに殺されているのであれば、防衛部隊は壊滅しているだろうし、父親の生存確率は限りなく0に近い。それでも、父親が生きていれば成人するまでの2年間の衣食住の質が高くなるだろうと考え、男は父親の安否確認を廃村調査の目的の一つに挙げていた。

「(今の丸腰に等しい装備では追剥ぎやらが来た時にどうしようもないし、まずは実家に向かうか。)」

 廃村には死屍累々の地獄のような光景だった。視界に映るほぼすべての家屋は倒壊していて、煙が立ち上っているものさえある。既に倒壊した家屋がさらに崩れる以外に物が動く気配はなく、生命の気配も皆無であった。

「(火の手が上がるってことは朝食の準備をしている時に襲撃されたのか?いや、放火や魔法の可能性もあるのか...。そう考えると、この能力もまだまだ成長の余地があるのか。)」

 あちこちに転がる死体を横目に瓦礫が崩れる音が響く廃村を歩き、襲撃に関する情報を集める。死体の身元は一様に肉体の記憶にあるものばかりだった。

「(襲撃者サイドの被害はほぼ0か。襲撃者は相当強かったな。)」

「(ここまで来ると逃げた人を含めて全員死んでると嬉しいのだが。頼る縁は消えたのに生存者からの怨恨だけ残っているなんて、たまったもんじゃない。)」

 死体はすべて村で見慣れた衣服を着ており、小さな擦過傷を除けば、一様に巨大な凶器で切り裂かれたような傷が一つしかなく、男は村人が鋭利な何かで一撃で殺されたと推測する。

「(...この斬り口は魔法だな。これも、これも魔法で斬り殺されている。)」

 少年の知識とチートスキルを組み合わせて、道中に転がっている死体を検めるとそう結論付ける。男は悪臭に多少顔をしかめるものの、死体への忌避感は薄い。

「(...いや、その推測は安直すぎる。もちろんその可能性は0ではないが。)」

 男は、死体から得た情報から襲撃者の正体としてとある存在を想起し、首筋がぞわりとする感覚に襲われる。こじつけにも等しい推測をすぐさま頭の片隅へと追いやる。それでも、言いようのない不安と恐怖が消えないまま男は偽りの実家へと辿り着く。


「(これはひどいな。全壊だ。)」

 実家の木造のアイテム屋は焼けてはいないものの、徹底的に破壊されていた。まるで、この家が破壊の震源であるかのように。男は瓦礫の山となった実家の跡地に2人分の死体が埋まっているのを視て取る。

「(愛する妻を守るために村の役目を放棄したのか。あるいは...。)」

 目視による確認をしていないため確証はないが、この家に2人の遺体があるとなればその身元が少年の両親であることは想像に難くない。前の世界では久しく恋人がおらず結婚を諦めた男には、少年の記憶を得てなお、この破壊の中心地となった実家で最期を迎えた父親の気持ちを推察することはできず、父親がここで死んでいる理由を絞りきることはできない。それでも、男の中で妄想に等しかったはずの推測は確信めいたものへと変わっていた。

「(まったく、とんでもなく厄介な置き土産だな。何もしていないのに強力な魔物にも、生存者にも恨まれたマイナスの状態からスタートじゃないか。)」

 自身が置かれた状態の不遇ぶりに、頭を抱える。男の中でこの世界への転生に対する恨み節が募る。

「(とにかく、身を寄せる先は孤児院で確定か。それもなるべく大ききな。)」

 魔物の襲撃への備えや生存者を避けることを考慮した結果、男のなかで今後に関する最初の選択肢が消去法によって定まる。

「(そうとなれば、一刻も早く街に向かいたいが、最低限の荷物は持ち出したい...!?)」

 村を出る準備をするために瓦礫を掻き分け実家の捜索を始めた矢先、男は突如として廃村に現れた五つの強い気配を感知する。その気配を感じた途端、男の小さな身体が小さく震え始め、震えに呼応して偽りの記憶が呼び起される。

「(とことん俺の足を引っ張りやがるな、クソガキが。)」

 ひときわ強大な気配に従う4つの気配。男はその気配の正体を恐怖に塗れた記憶とともに知らされている。男にとっては他人事ではあるが、身体にとっては一夜明けた程度の時間しか流れていないのだ。身体は刻まれたばかりの強烈な恐怖を男に鮮明に伝える。

 男は意を決して襲撃者の気配がする方へ向き直る。返り血を身に纏う獰猛な獣の姿があった。偽りの記憶のなかで見た、月下の幻のような美しい姿は見る影もない。


 強烈な殺意をともなって男のもとへゆっくりと近づいてくる記憶に新しい魔物たち。

「(突然現れたように感じたのは気配を消していたから?)」

「(気配を隠すのをやめたのは俺を逃さず確実に殺す自信があるからか?それとも、恐怖と絶望で身も心も苦しめてから殺すためか?...どちらにせよ、本当に腹が立つ。)」

 男は、まるでこの土地の王であるかのように堂々たる足取りで向かって来る魔物を睨みつける。

 男は身体が訴えかける偽りの感情とは別に、心の奥底から目の前の魔物に恐怖が湧き上がっていることを自覚していた。それでも、死を齎す魔物に対する恐怖心を、この世界に来てからの不条理に対する怒りに変換し、魔物に向かって歩き始める。魔物に近づくに連れ、恐怖に囚われた身体の拘束は強くなる。眼前の魔物との存在の格の歴然たる差を突き付けられ、湧きあがる恐怖心も激しくなる。

「(死人の分際で、でしゃばるんじゃねぇよクソガキが。この魔物に屈したチキンのくせに俺には楯突きやがって。)」

 2人分の感情に縛られてなお、男の精神が屈することはない。

 幼いころに漠然と突き付けられ、成長し老いるにつれて鮮明に大きくなっていた死への恐怖。物心ついた時から抗い続けていた男にとって、今やその感情は糧でしかない。

 男の怒りが身体を支配している恐怖を塗り替え始める。志半ばであるにもかかわらず、気を抜いて足を滑らせ、海に転落した自分。この世界を、この肉体を転生先に選んだ謎の存在。頼れる縁もなく強大な魔物からの恨みだけを託してきた、足手纏いの少年。男は今の状況に至るまでのすべてに対して募らせてきた思いを怒りで染め上げる。

「(あちらは逃がすつもりがないんだろうが、こっちだって尻尾を巻いて逃げた挙句、惨めな逃亡生活を送るつもりはない。)」

 かつてないほどに湧き上がる怒りは先刻定めた行動方針さえ歪める。

「(ああ、そうだ。ただでさえこんな生活水準の低い世界で生きるという妥協をしてやったのに、逃亡生活なんて妥協を重ねてやるわけがないだろう。)」

 男にとって、死への恐怖は原動力だった。無論、恐怖から生まれた怒りも含めて。魔物から受ける剝き出しの殺意が呼び起こした死への恐怖はすべて、在りし日の生の渇望へと変わっていく。一歩、また一歩と前に進むにつれて少年の残滓は薄れ、身体は心に服従する。男は歩みに呼応して身体が軽くなり、力が溢れてくるのを感じていた。

「(前に進み続ける。積み上げて、さらに幸福な人生を。昨日の自分より成長した今日の自分。今日の自分より強い明日の自分。あの日、そうやって()()()生き続けると誓ったじゃないか。)」

 ついに、魔物と男が互いに歩みを止め、対峙する。男は魔物の親玉へと視線を上げる。復讐心と殺気に満ちた狼の眼は、男に人体実験に向かう被験者たちを想起させる。愚かさ故に失敗と敗北だけを積み重ね続けたという結果を受け入れず、逆恨みでこちらを睨みつけてきたモルモットたち。男にとって、飽きるほど見てきた憐憫の情を抱く気すら起こらないそれらと、眼前の魔物は同じ眼をしているように感じられる。

「(ようやく()()()寿()()()()()()()()()()。あらゆる縁を断ち切ってこの村を出る。)」

 魔物は昨晩とは別人のように気配が異なる少年を見下ろす。依然、存在の格は魔物たちに及ばないものの、昨晩とは比較にならないほど成長を遂げていることを感じ取り、魔物たちは警戒の度合いを高める。魔物が対峙する復讐相手は、おぞましい気配を放つ異質な獣のようであった。

名前:フリードリヒ=スーザツ 種族:辿人族 性別:男 年齢:13


レベル:10 状態:正常




ステータス


【生命力】890/900


【持久力】800/900


【魔力量】320/920


【物理攻撃】910


【物理防御】900


【魔法攻撃】900


【魔法防御】900


【敏捷】910




スキル:

通常:

【直剣術】Lv1【短剣術】Lv1【弓術】Lv1【解体術】Lv1【採取】Lv1【隠密】Lv1【気配探知】Lv1【暗視】Lv1 etc...

補償:

【???】

加護


称号

【???】【???】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ