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首狩りの赤銅  作者: 星屑アート
プロローグ
12/12

裏2話

 後に凄惨な戦場となる、とある辺境の開拓村。太陽が水平線の下から空を仄かに照らす早朝。いまだ目覚める気配のない、この村の側を流れる川に二つの影が流れ着いていた。

 漂着した影どうしは少し離れて川の中で静止している。影のうち、上流で静止している方の正体は、白い狼の姿をした魔物だった。幼狼は気を失いながらも瞼の下で白み始めた空の気配を敏感に感じ取り、意識を取り戻しかけていた。

 そして、太陽が水平線から顔を出したころ、上流に流れ着いた影の意識が浮上する。朝の弱い陽光は森の深い緑に遮られ、いまだ薄暗い。昨夕の通り雨で濁った川の中央で白い獣が立ち上がる。

 目覚めたばかりの幼狼はあたりを見回し周囲の状況を把握する。同時に、昨夜の記憶をたどり川の中で目覚めた理由を思い出す。

 白狼は膝下程度の浅い川のなか魔法で風を起こし、身体に纏わりつく水を吹き飛ばす。身体を乾かし終えた幼狼は改めて身体を振るわせた後、しっかりした足取りで川岸へと歩く。幼狼は未熟で知能もそこまで高くない魔物ではあるが、川の上流へ向かえば家族の縄張りに戻れることを理解していた。

 幼狼は合流するためにすぐさま行動を始める。ざばざばと浅い川を渡り、丸石だらけの川岸に上がりきった時のことだった。幼狼は後脚が水に包まれている奇妙な感覚を覚える。川から上がったばかりのため水に濡れていることはあっても、浸かっているはずがない。幼狼は後ろ脚の違和感に思わず首を回して広報を確認する。

 幼狼の脚には透き通る水の触手が絡みついていた。視線をさらに奥へ移すと水の触手は水中から伸びていた。そして、濁った川の中には濁りを寄せ付けない大きな水球が浮かんでいた。

 幼狼は初めて体験したこの現象が、水中に潜む未知の魔物によるものだと理解する。驚きつつもすぐさま触手の切断を試み、首をひねった体勢のまま口元で風魔法の発動を試みる。

 しかし、風の魔法が発動するより早く、触手が幼狼を持ち上げる。さらには、水中から追加で現れた触手が顔全体を覆い、魔法の発動を不発に終わらせる。幼狼は川岸で再び溺れていた。

 幼狼を軽々と持ち上げた触手はさらに幼狼の身体に絡みつきながら、川中の本体へと幼狼を運ぶ。幼狼は触手一本一本の力とスピードを前に、なすすべなく水中に潜む本体の体内へ引き摺り込まれる。

 幼狼を包む襲撃者本体の体液は異質な粘液だった。まとわりつく水は重く、熱い。幼狼はもがくことすら叶わず、ただただ身を焦がされる。苦し紛れに魔法の発動を試みるも、脚の爪に込めた魔力は込めたそばから霧散する。幼狼は全身の痛みに悶えながら状況を理解する。

 身体が重いのは圧倒的に数値が高い魔物に包まれ、抑え込まれているからだった。全身が焼けるように熱いのは魔物の体液によって身体を溶かされているからだった。魔法を発動できないのは魔力と生命力を吸われているからだった。

 状況を理解すれど、打つ手はない。皮は焼け爛れ、骨肉は溶け、魔力は吸い尽くされる。幼狼はまだあるかもわからない四肢に力を籠め、もがきながら家族が助けに来ることを祈る。

 願いも空しく幼狼は薄暗い朝の森に溶けて消える。こうして、少年の無謀な挑戦の最初の被害者が静かに誕生したのだった。

 獲物の消化を終えた魔物ー粘妖(スライム)ーは、満たされない食欲に身を任せ、次なる獲物を求めて周囲の気配を探る。川の下流に弱者の死体。下流の森を抜けた先に弱者が身を寄せ合う集落。上流に多少、骨のある獲物どうしが争う気配。

 川に潜むスライムは考えるまでもなく川を遡上し始める。人里近い森から魔物が去り、不気味な気配は掻き消える。

 やがて陽が昇り、村は穏やかないつもの朝を迎える。当然、村はスライムという脅威が接近していたことに気づいていない。そして、はぐれた家族を探して森の騒動を抜け出し、人里におりてきた魔物の群れの姿があることにも。

 


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