婚礼の前に1
実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。
今回の話は、よくあるドタバタ劇です。
ある晴れた日、陰陽寮の中で、紅玉は緊張した面持ちで仕事をしていた。その様子を見ていた加茂光明が言葉を発した。
「・・・そういえば、今日でしたね」
紅玉は、今日仕事を早めに切り上げて芦原家の屋敷に行き、芦原時長に、時子と夫婦になる事を伝える予定だ。妻となる女の家に通ってから婚姻を結ぶのが普通だが、紅玉は通う前に時子の父親である時長に許しを得ようとしていた。
「・・・今から胃が痛いんだが」
紅玉が呟いた。紅玉が鬼である事を時長が知っているかどうかわからないが、知っていたら、確実に婚姻を結ぶ事を認めてくれない気がする。例え紅玉が真面目に暦生として働いていても、平基家の父親の養子になって平基晴という名前を授かったとしても。
紅玉が緊張しながらも仕事をこなし、そろそろ陰陽寮を出ようかという時、暦生の一人が部屋に駆け込んできた。
「暦博士様。暦生が一人急病になり、家に帰したいと存じます。・・・しかし、そうすると人手が足りず、今日中に終わらせなければならない仕事が片付くかどうか・・・」
光明と紅玉は顔を見合わせた。
光明は元々死ぬほど忙しいし、暦生達もそれぞれ山ほど仕事を抱えている。なまじ光明が優秀なばかりに、暦生全員で光明の仕事を手伝ってもこのような有様になってしまう。
「・・・俺、もう少し残って仕事します・・・」
紅玉が口を開いた。まだ面会の時間までかなりの余裕がある。
「・・・申し訳ないですが、お願いします」
光明が、顔を引きつらせて言った。
ある程度仕事の目途が付き、今度こそ帰ろうとした時、橘直通が顔を出した。
「おい、この近くで火事が起こっているらしいぞ。消火を手伝えるものは集まるようにとの事だ」
光明と紅玉は、また顔を見合わせた。
「・・・私は消火の手伝いに行きますが、お前は・・・」
「・・・俺も、行きます・・・」
紅玉が、溜息を吐いて答えた。消火を手伝っても、何とか面会の時間に間に合うだろう。
紅玉と光明は、直通と共に火事の現場へと急いだ。
何とか火が消え、紅玉が急いで帰ろうとした時、また暦生の一人が部屋に駆け込んできた。
「暦博士様、大変です」
「今度は何だ!」
紅玉が思わず叫んだ。
「ある上流貴族の屋敷に、怨霊が多数入り込んでいるようで、呪術が使える者達に浄化して欲しいと依頼が来ています。今、平基家様が対処していますが、数が多く大変なようです」
光明が、紅玉を見て言った。
「お前、帰っても良いですよ。私が手伝いに行くので・・・」
確かに基家と光明だけでも怨霊を浄化できると思うが、数が多いとなると二人の負担はかなり大きい。
「・・・いや、俺も行きます」
光明と共に走り出しながら、紅玉は呟いた。
「誰か俺に恨みでもあるのか」
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