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あの日の面影1

実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。

 芦原実継が呪われた事件が解決して数日後、時子は紅玉と共に町に出掛けていた。まだ紅玉が鬼四法眼と名乗っていた頃である。

 紅玉は、芦原麗子の事でまだ時子が落ち込んでいるのではないかと思い、気晴らしにと町に誘ったのだ。

 町を歩いていると、時子は少年とぶつかった。少年の年齢は十歳にも満たないかもしれない。

「申し訳ございません」

少年はそう言って走り去っていった。時子がその後姿を見ていると、時子の後ろから声がした。

「姫さん、あんた、巾着盗られてるよ」

確かに、銅銭を入れた巾着袋が懐から無くなっている。紅玉が素早く少年を追いかけて捕まえた。

 少年から巾着袋を取り返し、時子と紅玉はほっとした。生活に困っての犯行だったようなので、検非違使には突き出さないでおく。

 「あの、盗まれている事を教えて頂き、ありがとうございました」

時子が礼を言う。教えてくれたのは、時子と同じ位の年齢の少女だった。簡素で古い着物を着ている。

「この辺りは比較的治安が良い方だけど、気を付けな」

少女は笑って言った。

「・・・あの、何かお礼をしたいのですが・・・」

「ええ?盗られてるのを教えただけで?いらないよ、礼なんて」

少女は、困ったような表情で右目の周りを掻いた。

「・・・では、買い物に荷物持ちとして付き合って頂き、そのお礼として何か差し上げるという形ではどうでしょう?・・・法眼様、この方も買い物に同行させて良いですか?」

「・・・お前が良いなら」

時子は、紅玉に向けていた目を少女に戻すと、改めて頼んだ。

「・・・時間があればですが、買い物に付き合って頂けませんか?」

少女は、溜息を吐いて答えた。

「わかったよ。付き合うよ」

「ありがとうございます。・・・あの、私の事は時子とお呼び下さい。こちらは、鬼四法眼様。・・・あなたのお名前は・・・?」

「・・・紅葉(もみじ)

「よろしくお願い致します、紅葉さん」

時子は、微笑んで言った。


 時子達三人は、布を売っている店を回った。

「私、こういう色の布で着物を仕立てたいのです」

「時子様が着るのかい?だったら、こちらの方がいいんじゃないか」

女二人で盛り上がっている。紅玉は、居心地が悪そうだ。

 紅玉がふと目を路地に向けると、先程盗みを働こうとした少年が、父親らしき男性と一緒になってこちらを見ていた。紅玉の視線に気づくと、申し訳なさそうに二人一緒にお辞儀をして去って行った。

 「・・・もう盗みを働かずに済むと良いのですが」

いつの間にか路地に目を向けていた時子が言った。

「・・・ああ。盗みは本当に、盗まれた方の心も、盗んだ方の心も壊してしまうからね・・・」

紅葉は、悲しげに笑って言った。


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