表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われし料理音痴イレイナの挑戦  作者: 雨足怜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/127

71イヴィルドラゴン戦

 魔王の支配下に落ちたドラゴン――悪に染まった「イヴィルドラゴン」とイレイナの戦いは苛烈を極めた。

 闇魔法を操るそのドラゴンは、最大火力を誇るブレスを放ち、闇を凝縮させたような真っ黒な武器を空中に生み出してイレイナへと飛ばす。空中を走る無数の槍を、グリフォンは虚空を蹴って回避していく。

 イレイナはグリフォンから振り落とされないようにしっかりとつかまりながら、時々ドラゴンへと攻撃を仕掛ける。

 降りぬいたナイフは、けれどドラゴンを守るように出現した闇の盾に阻まれる。

 のっぺりとした壁はすぐにスパイクのような針をはやしてイレイナを襲う。

 回避ばかりで攻撃がままならない。

 ドラゴンは目の前をうっとうしく飛び回るイレイナを殺そうと、憤怒を隻眼に燃やす。

『ガアアアアアアアアッ』

 欠片ほどの知性も感じられない咆哮とともにドラゴンの周囲に黒い霧が生まれ、それが凝集して無数の針となる。

 闇魔法の針が全方向へと同時に放たれる。

 逃げ場はない。その針は、当たり所が悪ければたやすくイレイナを殺せるだけの火力を持っていた。

 風を切り裂いて射出される針が迫る。

「ッ!」

 イレイナはグリフォンの背中を足場にして、前へと飛ぶ。迫る針を、両手に持つナイフで切り払う。

 落下を始めたイレイナへとドラゴンが噛みつこうとする。その頭に、イレイナのナイフが刺さった目のほうからグリフォンが体当たりする。

 ぎりぎりのところでドラゴンの牙による攻撃を逃れたイレイナは、横を通り過ぎるグリフォンの毛をつかんで、体を鞍の上へと引き上げる。

 逃がすものかと、ドラゴンがブレスを放つ。黒い炎がグリフォンの飛翔速度より早く迫る。

 空気を蹴って横に飛ぶ。ドラゴンが首をひねり、ブレスがイレイナたちを追う。

 上に、右に、下に、左に。縦横無尽に空を駆けるグリフォンの先、踏み込んだそこを覆うように漆黒の霧が現れる。

 閉じ込められる――そう理解するよりも早く、イレイナは形を作り始める闇に向かって全力でナイフを振りぬいた。漆黒の壁に、横一文字に線が走る。

 風が吹き、イレイナたちを閉じ込めようとしていた闇に、線を中心に亀裂が走る。

 そこへ、グリフォンがその鋭利なくちばしから飛び込み、闇を砕く。

 光のない包囲を抜け出したイレイナの視界がくらむ。背後を、ブレスが走り抜け、大地を深くえぐった。

 グリフォンの体勢が崩れる。先ほどぶち破った闇の壁、その破片が針に形を変えてグリフォンの体に数本突き刺さっていた。

「ッ、ごめん!」

 再び、イレイナはグリフォンを足場にして飛び上がる。全力で蹴り飛ばされたグリフォンが大きくバランスを崩す。

 真正面、ドラゴンが口の端から炎を漏らしていた。膨らんだ胸元――ため込んだブレスが放たれる――

「舐めないでッ」

 ブレスが、イレイナの視界を覆う。一瞬ですべてを消し炭に変えるような、恐るべき炎。渦巻く闇の炎を前に、けれどイレイナは裂帛の気合とともにナイフを振り下ろす。

 振り下ろし、切り上げ、十字を描く。

 振りぬかれるナイフが、ブレスに真っ向から対抗する。

 鍛え上げられたイレイナの攻撃は、形なき炎をも切り裂く。

 あるいはそれは、ベルコットが不死鳥の炎が鍛え上げた最高の一品だったからかもしれない。

 ブレスを超えて、イレイナがドラゴンに迫る。届く――そう、ナイフを握る手に力を込めて。

 ドラゴンが大きくはばたき、イレイナを吹き飛ばしにかかる。

 強風に体勢を崩す。ドラゴンに届かない――それでもなお、イレイナは全力で体をひねってナイフを投げる。

 イレイナのナイフを下からすくい上げるように打ち据えた広がる盾によってナイフの軌道が変わる。どれだけ鋭利かつ高速で投げられたナイフであっても、はじかれてしまってはその貫通力も意味がない。

 ドラゴンは今度こそ確実にイレイナを倒そうと再度ブレスの発動の準備に入って。

 解除を始めた闇の盾をぶち破って、イレイナのナイフがドラゴンへと迫る。

 イレイナは両手に握っていたナイフを、まったく同じ軌道で投擲していた。一つ目のナイフは影の盾に阻まれて、けれど二つ目は盾を砕いてその先へと飛翔する。

 自分の魔法が、解除中であったとはいえ簡単に破られたことにぎょっと目を見開いて。慌てて回避行動に入ったドラゴンの翼膜に、イレイナのナイフが突き刺さる。ナイフが刺さった部分が爆発する。ドラゴンを料理する――そんな思いとともにナイフに魔力を込めたイレイナの脅威の力が、ドラゴンの翼膜に大きな穴をあける。

 その理不尽な攻撃にさらされたドラゴンは片翼に深刻なダメージを追い、きりもみ回転しながら地面へと落下を始める。

 イレイナもまた、下へと落ちていく。

 このまま落下を続ければ、当たり所によってはどちらも死にかねない――そんな状況にあってなお、両者は落下しながらも互いに攻撃を続ける。

 闇魔法とナイフ。間合いに大きな差がある中、けれどブラックドラゴンの攻撃は思うようにいかなかった。それはきりもみ回転してしまっているためにイレイナに狙いをつけにくかったことに加えて、翼にダメージを与えた攻撃を危惧していたから。

 理解不能な攻撃(料理)を受けて、ドラゴンは強い危機感を抱いていた。

『ガアアアアアアアアアアッ』

 人間ごときに恐怖するはずがない――怒りで危機感を飲み込み、ドラゴンは己の体を闇で包み込む。

 ふわふわとした雲のようなその闇がドラゴンの体を包み込むのと同時に、その体が地面に落ちた。

 程よい強度を与えられていた闇の球体はクッションの役割を果たし、落下の衝撃を軽減する。ふわりと舞い上がった雪が再び降り積もる。

 先に地上に落ちたドラゴンの体を包む球体の上へと、イレイナが着地する。

 体に強い衝撃が走り、漆黒の球体に体が沈む。

 底なし沼のようなその球体から全力で抜け出した次の瞬間、球体から無数の針が生えてイレイナを襲った。

 片脚を軽く切り裂かれはしたが致命傷を免れたイレイナは即座に疾走して、球体の向こうに姿をのぞかせたドラゴンへと走る。

 人間(羽虫)に地面に落とされたという事実に怒り狂うドラゴンは魔法をばらまく。

 無数の闇の槍が、針が、剣が、虚空に浮かび、一斉に周囲へと雨あられと降り注ぐ。

 迫る刃をナイフで放つ。一つ一つが大地をえぐるほどの威力を持つ武器によって周囲の地面は耕され、雪混じりの土煙が巻き上がる。

 激しい振動の中、イレイナは土煙の先に見えた影に向かってナイフをふるって。

 その刃は、何の抵抗もなく闇を切り裂いた――それは、ブラックドラゴンが魔法で生み出したデコイ。

「しまっ――」

 側面からの攻撃。土煙を吹き飛ばしながら迫る尻尾――回避しようとしたイレイナの足がもつれる。踏み荒らされた雪混じりの大地がひどく滑りやすいのも問題だった。

 連戦による疲労が、致命的なタイミングでイレイナを襲った。

 漆黒のうろこに包まれた尻尾がイレイナを吹き飛ばす。

 まるで水切り石のように大地を数度跳ね、ゴロゴロと転がったイレイナは岩に背中から体をぶつけて静止する。

 尻尾による攻撃とその後の衝撃によってあちこちの骨が折れ、全身を激しい痛みが襲っていた。喉の奥から血がこみ上げる。うまく呼吸ができなかった。

 ちかちかと明滅する視界の先で、ブラックドラゴンが大きく息を吸い込んでいた。四肢で地面をつかみ、上体をそらすドラゴンがブレスをためる。

 必死に立ち上がろうとするも、イレイナはすぐには動けない。

 口の端から黒々とした炎が漏れる。ドラゴンがその口を開こうとして――

「こっちだッ」

 そんな言葉とともにネストが虚空へと手を伸ばす。

「顕現せよ、竜滅剣!」

 虚空を切り裂くように現れた竜滅剣が、目に見えぬ衝撃となってドラゴンを襲う。

 激しい恐怖、憤怒が、ドラゴンを襲う。

 その剣はドラゴンを殺すために、滅ぼすために鍛え上げられたスレイヤー武器。ドラゴンに対して特攻的に刺さる得物。しかも、竜神という怪物の血をも吸った武器。

 その存在を感じて、ドラゴンは大きく首を巡らせる。

 狙いをイレイナからネストに変える。

 それでいい――そう心の中でつぶやき、ネストは気圧される己を鼓舞するように獰猛に笑う。

「ドラゴンは僕の獲物だよッ」

 殺されるのはお前だ――そう吠え、ネストは竜滅剣の切っ先をまっすぐドラゴンに向けて走り出す。

 ドラゴンのブレスが放たれる。迫るそれを前に、ネストはあくまでも獰猛に笑い続ける。

「今更そんな攻撃はきかないよ!」

 血のように赤かった剣から、流水のような光の線があふれる。

 一瞬にして、竜滅剣の色が変わる。それはまるで、殻を破るように。

 赤から青へ。色の変わった竜滅剣を手に、鮮烈な青の残光を残しながらネストは走る。

 青い光――それは、竜神の力の残滓。

 竜滅剣は、ドラゴンを殺すための剣だ。だが、最強の生物として知られるドラゴンの命を刈り取るには、人間の力はちっぽけで、その剣は弱すぎた。

 そんな中、ある鍛冶師は考えた。ドラゴンを殺すためには、同じドラゴンの力を使うしかないと。

 幸運にも手に入ったドラゴンのうろこを練りこんだ合金製の刃。それは、切り裂いたドラゴンの力の一部を取り込む。

 竜神の力が剣からあふれ、ネストの体を包み込む。

「ドラゴニック・ソウル」

 狂竜戦士のその上、狂滅戦士という上位職に転職を果たしたネストは、かつてない強化が施された足で、大地を踏み砕きながら走る。

 竜神の力は、たかが一ドラゴンのブレスをものともしなかった。ネストの体を包む青の光は、ネストにブレスを通さない。

 一筋の流星となって走るネストは、ブレスを吹き飛ばし、ドラゴンへとまっすぐ剣を伸ばして。

 踏み込んだ足を、ネストは全力で引き戻す。その瞬間、足があった場所の下から闇の刃がネストを襲う。

 地中で作れた闇の刃が、吸い込まれるようにネストの首に迫る。

 慌てて竜滅剣を引き戻し、下方から迫るギロチンの刃のような攻撃を受け止める。

 竜滅剣は、確かにドラゴンを相手にするには強い。けれど、効果があるのはあくまでもドラゴンに対してのみで、例えばドラゴンが使う魔法には大した効果を発揮しない。

 ただでさえバランスを崩していたネストは、下方から迫る闇の刃によって、竜滅剣ごと空中に吹き飛ばされる。

 肺を剣に押され、息が詰まるネストは、視線の先で自分をあざ笑うように目を細めるドラゴンの姿を見た。

 周囲、ネストを取り囲むように闇の針が作られる。上下左右前後、逃げる場所はない。空中にいるネストには、動くことだってままならない。

 竜滅剣に力を籠める。迫る針を、薙ぎ払う竜滅剣の剣圧をもって吹き飛ばす。

 それでもすべては防ぎきれず、ネストは体のあちこちに闇の針を穿たれる。

「ぐ、うぁ」

 漏れる痛みを必死に押し殺して、竜滅剣を振り上げる。

 ドラゴンの目の前、巨大なドリルの形をした闇の武器が見えた。それが、ネストへと放たれる。

「あああああああああああああッ」

 全力で振りぬいた竜滅剣が、闇のドリルとぶつかる。空中で踏ん張りのきかないネストたやすく吹き飛ばされる。

 そこへ迫る闇の槍を前に、ネストはよけることもできなくて。

「シッ」

 腰をかがめ、大地をなめるように疾走するアレインがドラゴンの足に刀を振りぬく。

 鋭い抜刀術がドラゴンの足に裂傷を刻む。それによって少しだけ魔法の制御がぶれ、闇の槍はギリギリのところでネストの体をかすめるに終わった。

「イレイナ!」

 ベルコットがイレイナの口に料理を押し込む。回復用――そんなことを言いながらイレイナが焼いたカースゴーレムの粉末。それは口に含むだけで強烈な気持ち悪さが襲ってくる代物で、けれどその分、異常な回復効果があった。

 ズタボロになっていたイレイナの体が癒えていく。

 口から血を吐いたイレイナは、体が完全になっていない中でその場を飛び出す。

 前へ、前へ。

 瞬間移動のごとく全力で走ったイレイナがその手に握るナイフを振りぬく。

 ドラゴンの闇の爪が、イレイナごとアレインたちを切り裂くべく振りぬかれ――その腕を、ネストが投げた竜滅剣がはじく。

 ドラゴンの股下を潜り抜け、土煙を巻き上げながら滑るイレイナの動きが止まる。

 腕を振りぬいた状態で、ドラゴンもまた動きを止める。

 竜滅剣が大地に突き刺さる。

 その振動に、ドラゴンが動き出す――否、倒れ出す。

 片足を切り落とされたドラゴンの体が地面へと投げ出されて。

「覚悟ッ」

 その首に振り下ろされたアレインの刀が怪しく輝く。


 それが、魔王に支配されたイヴィルドラゴンが最後に見た光景だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ