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呪われし料理音痴イレイナの挑戦  作者: 雨足怜


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68アダマンゴーレム・フルコース料理

 ベルコットは完成した料理を次々によそっていく。器にスープを注ぎ、皿と一緒にイレイナたちに配る。

 湯気を立てるスープには刻んだ干し野菜や香草、干し肉、そして灰色の塊が浮いている。皿のほうには黒々とした宝石のような塊と、灰色の練り物。

「……もしかして」

 きらりと目を輝かせたイレイナが期待に顔をあげる。わずかな諦観とともにうなずいたベルコットが巨大な山に視線を向ける。

「イレイナの要望通り、ゴーレム料理ですよ。アダマンゴーレムの照り焼き、すいとんモドキのスープ、それからゴーレム生地を用いた香草の包み焼きです」

「照り焼き?これ、ただのゴーレムにしか見えないけれど」

 黒々とした金属質な塊をイレイナがフォークで軽くたたく。行儀が悪いというネストの言葉は、けれど聞こえてきた硬質な音によって喉に引っかかって止まった。

 戦々恐々とした顔で、自分の皿の上にある照り焼きに触れる。醤油ベースの味付けをされたそれは、香りこそいいもののただ鉱石にたれをかけたようにしか思えない固さをしていた。

「……ええ?」

「大丈夫、だと思いますよ。一応きちんと調理はしてあります。ただ、小麦粉が少なかったので、ほとんどゴーレムの体をそのまま加工してあります」

 ゴーレムはきちんと加工すれば食用になる。方法は単純で、魔女の間に伝わる特殊な薬によって液化させる。それから小麦粉と練ったり、そのままスープに溶かしたりすればいい。もっとも、その特殊な薬が、製法はもちろん素材でさえ簡単には手に入らないものが必要で、そのために普通の人がゴーレムを食べることなど一生ないのだか。――そもそもゴーレムを食べようとはしないということはさておき。

 じっとゴーレム料理を観察しているイレイナとネストをよそに、真っ先にアレインが手を付ける。アダマンゴーレムの照り焼きに無理やりフォークを突き刺し、ガリ、とかみ砕く。その思い切りの良さは、彼女が記憶を失っていることに起因するものだろう。

「……どう?」

「…………甘くない金平糖?」

 アレインの言葉に、ネストは皿の中央に陣取る黒い塊にそっとフォークを伸ばす。

「……本当だ。味のしない固パン?」

「苦かったり、酸っぱかったりはしないの?」

「全くしない。ただ、味はないかも?」

 眉間にしわを寄せながらガリガリと照り焼きをかみ砕く。その音は、とてもではないが食べ物を咀嚼している音ではなかった。

 ベルコットもまたなんとも言えない表情で照り焼きをかみ砕く。たれの味は申し分ない。この場で作れる最高傑作だと、ベルコットは自信をもって言えた。一方、アダマンゴーレムの肉のほうは、正直なところあえて好んで食べるような味ではなかった。

「……スープのほうはなかなか面白いな」

 ほう、と感心のこもった吐息を漏らすアレイン。いそいそとスープに口をつけたイレイナは数度目を瞬かせ、それから納得したように何度もうなずく。

 スプーンですくって口に運ぶのは灰色の粉もの。すいとんのような一口大のそれは、もちろんゴーレムを混ぜ込んで作られた練り物。小麦粉を多めに使っているからかゴーレムらしさは控えめで、ガリゴリとおかしな触感がすることもない。ただ逆に、それはただのすいとんと化していて、もはやゴーレムをわざわざ用いる理由は見当たらなかった。

「……美味しいね」

 “普通に”美味しい――そんな言葉が聞こえてきそうなネストの発言に、ベルコットは苦笑を浮かべながらうなずいた。疲れた体に、塩味を強めにつけられたスープがしみこんでいく。体がぽかぽかと温かくなるのは、スープに加えている生姜のおかげ。

 アレインは残りの一つ、包み焼に手を伸ばす。ぱっと見、それは灰色の丸いパン。その色からしてゴーレムの体を使っているのは明らか。少しの覚悟もなくパクりとかぶりついたアレインは大きく目を見張り、中身へと視線を向ける。

「……肉包か」

 一口含めば、じゅわりと熱い肉汁が口の中にあふれる。香辛料をふんだんに入れられたそれは、昨日仕留めたウサギ肉の残りにネギやごま油、各種香辛料を混ぜたもの。てっきり中までゴーレムかと思っていたため、アレインの驚きは大きかった。

「ん、本当だ。すごく美味しいよ」

「……やっぱりゴーレムらしさが足りない」

 満面の笑みを浮かべて告げるネストとは対照的に、イレイナは少しばかり不満そうに皮を指でつまんで口に入れる。焼いた皮は肉汁を閉じ込めるために分厚く、けれどゴーレムらしい触感はどこにもない。

 イレイナはすでに、ゴーレム料理は触感を楽しむものだと考え始めていたため、岩を食べているような触感がないことに少し不満を感じていた。

「……美味しくないなら自分で作ったらどうですか?」

「いいの?」

 ちらちらと視線を向けてくるイレイナに突き放すように告げてから、ベルコットは「しまった」と頬をひきつらせた。その時にはもう、イレイナは嬉々としてカースゴーレムの骸のところへと走っていた。

「ベルコット……」

「し、仕方ないじゃないですか!疲れている体にむちうって作った料理に文句を言われたら、私だってああも言いたくなりますよ」

 ジト目を向けるネストに両手を振って弁明するベルコットだが、その言葉を遮るように大きな爆発音が響く。

 視界の端、天まで届きそうなほどの火柱が立ち上っているのが見える。

 空気を焦がす異臭が周囲に広がり、ベルコットは顔をゆがめる。

「……本当に、あれ、大丈夫だと思う?」

「まずはゴーレムの遺体を薬で溶かすところからですよね?どうしてそこで火柱が立つんですかね……」

 大丈夫――気休めでもそんなことは言えなかった。何度も耳朶に響く破壊音。立ち込める煙。そして触手のように動き出した、ゲル化したゴーレムの体の一部。

 顔を見合わせたベルコットとネストが天を仰いだその時、爆発音に唸っていたスラシャがゆっくりと目を開く。

「……っ」

「気が付いたか。体調はどうだ?」

「……すごく、全身が痛いです」

 痛みに顔をしかめながら、スラシャはアレインの手を借りて起き上がる。

 ドォン、ドォンと響く音に小さく体を震わせる。確認するように、すがるように、スラシャはアレインへと視線を向ける。

「戦いは、まだ終わっていないのですか?」

「ゴーレムとの戦いには勝利したな。ベルコット殿とイレイナ殿が大活躍していた」

 自分はあまり活躍できなかった――言外にそう告げるアレインを見て、スラシャはそれ以上に表情を曇らせる。

「アレイン様はご活躍なさっていましたよ。だめなのは私一人ですわ。足を引っ張り、守ってもらうばかりで何もできませんでした……」

 下唇をかみしめるスラシャに何かを言おうとするアレインだが、どんな言葉をかけたところで、今はスラシャの心に響くようには思えなかった。傷口に塩を塗り込むくらいであれば時間を置くべきだった。

「とりあえず食事にしよう。お腹減ってるでしょ?」

 重い空気をかき消すようにネストが告げれば、スラシャは漂う芳醇な香りに小さくお腹を鳴らす。

 耳まで真っ赤にして腹部を抑えたスラシャだが、再び聞こえてきた爆発音に肩をはねさせる。

「……あの、ゆっくりしていてもいいのですか?この爆発音は――」

 スラシャの懸念を、顔を見合わせたベルコットとネストは苦笑しながら首を横に振って否定する。

「問題ないよ。これはイレイナが料理をしている音だから」

「……料、理?」

「そう、料理ですよ。こと料理に関して、イレイナはこんなものですから」

 やれやれというように首を振ったベルコットの視界の端で、三度火柱が立ち上る。煌煌と輝く、天を焦がす炎。その光に照らされるスラシャは、思考のすべてを放棄してぼんやりと炎を眺め続けた。


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