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呪われし料理音痴イレイナの挑戦  作者: 雨足怜


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20竜神

 蛇のような細長い体躯を持つ竜の神・竜神。

 かつて大陸中央部に厄災をまき散らした巨悪が咆哮をあげる。

 大気を震わせる咆哮とともに水が螺旋となって巻き上がり、その竜巻は周囲のすべてを飲み込まんと迫る。

 吹き飛ばされまいと必死に地面を踏みしめるネストだが、神と呼ばれる怪物の力に対しては無力だった。

 巻き上がる水のせいで視界が塞がれており、渦の中を舞う岩石がネストの胴体を横から襲う。

「ぐ、うぁっ!?」

 ふわりと浮遊感を感じて、足が大地から離れる。

 苦悶の声を上げるネストは、このまま渦の中にいては死んでしまうと理解するも、脱出の方法が見えない。浮き上がった体が勢いよく渦に飲まれて行こうとした、その時。

 ネストは足を何かに――イレイナにつかまれ、全力で投げ飛ばされた。

 素っ頓狂な悲鳴を上げるネストは、そのまま勢いよく竜神の水流の檻からはじき出され、水切り石のように大地を転がった。

 もはや満身創痍。ぴくぴくと痙攣するネストは、血が入って赤く染まった視界の中、天へと立ち上る竜巻をにらんだ。土砂を吸い、鈍色になった水の螺旋。立ち上るそれは、死の牢獄。

「イレイナ……」

 視界に、その姿はない。自分を投げたのがイレイナであると理解して、ネストは苦渋に満ちた顔をする。自分を助けた代わりに、イレイナが竜巻の中に残されてしまった――

 絶望の中、けれどイレイナを救うためにネストはこぶしを握りこむ。震える腕に力をこめ、四肢を使って立ち上がる。

 よろめきながら体を起こしたネストを、強風が襲う。飛沫は霧のように周囲へと広がり、その奔流に飲まれたネストは再び地面を転がった。

 むせかえったネストの視線の先、そこには雲まで届きそうな巨大な竜巻の存在はなかった。

 そこにあったのは、巨大な竜神の姿と、そして落下する大小の岩石の中、空中に浮かぶ竜神に向かって飛び上がった小さな人影だった。


 水の牢獄の中、水流に体を吹き飛ばされそうになったイレイナは、全力で大地を踏みしめ、足を地面に埋めた。膝下まで地面に飲まれて吹き飛ばされることを阻止したイレイナは、余裕をもって立ち上る螺旋の先に見える巨大な影をにらんだ。

 竜神が引き起こした竜巻を何とかしなければ戦闘もままならない。たった一撃で一軍を壊滅させうる力を発揮した竜神を前に、イレイナは勝利への道筋を考えて――

「ハァッ」

 ――襲い掛かった巨岩を前に、これ幸いとその大質量を空高くめがけて殴り飛ばした。

 魔物を殺し続け驚異的な身体能力を獲得したイレイナの一撃は、巨岩のベクトルを捻じ曲げ、それを天高くに打ち上げる。

 摩擦が熱を起こし、触れた蒸気が沸騰して白煙となる。一直線に空を走った岩石は、狙いすましたように竜神の頭部に直撃、その頭蓋に強烈な衝撃を与えた。

『ギィィェェェエエエエエエエッ!?』

 絶叫を上げる竜神は痛みに魔法の制御を失う。巻き上げられていた水流は物理法則の支配を受けて瓦解、大量の雨となって周囲を襲った。その濁流はネストを飲み込み、周囲にあった土砂を流し、あるいはかつての戦闘によって生み出されたクレーターや地下空間に流れ込んだ。

 大地を蹴ったイレイナは弾丸のように竜神へと迫る。小さな羽虫のごときイレイナの接近に、痛みに悶える竜神はまだ気づかない。目覚めたばかりの竜神めがけて、イレイナがこぶしをふるう。

 その一撃は肉を穿ち、鋼の数倍丈夫な竜神の背骨を粉砕する。飛び散る血肉で体を赤く染めながら、イレイナは竜神を足場に空を跳ぶ。

 落下する巨石を足場に、竜神の体に何度もこぶしをふるい、その体にいくつもの穴を作っていく。

 瞬く間に満身創痍になった竜神は、さらなる激痛に絶叫を上げ、自らの傷の原因を血眼になって探す。

『ギ、ガアアアアアアアアッ』

 怒りのままに竜神が体をねじらせ、空中に存在するイレイナをかみ砕かんと迫る。あらゆるものを切り裂き砕く強靭な竜神の牙が迫る。

 赤黒い口内がイレイナの視界を埋め尽くす。竜神は、自らに傷をつけた矮小な存在がそのまま噛み砕かれ、肉片と化すと予想して。

 けれどイレイナは空中で姿勢を整え、己の得物たるナイフの柄を握りしめ、振りぬく。

「ふっ」

 残影も見えぬ高速で振りぬかれたナイフは甲高い音と火花を散らして竜神の牙とぶつかる。鋭い牙はイレイナのナイフを砕き、けれど衝突の衝撃をもって、イレイナの体は竜神の口内からはじき出される。

 舞い落ちる岩石の一つに着地、両手にナイフを握ったイレイナが竜神に向かってとびかかる。

 一瞬にして水流のごとき色のうろこの上に飛び乗ったイレイナは、うろこにナイフを突き刺して体をつなぎ止め、すぐ目の前にあった竜神の片目に向かって左腕のナイフを高速で突き刺した。

 一瞬。衝撃波をもって繰り出された刺突は竜神の眼窩を蹂躙する。飛び散った体液を浴びながら、イレイナは全力で刺突を繰り返す。

 ここにきてようやく、竜神はイレイナを羽虫から脅威へと認識を改めた。かつて自分を殺した勇者と同じ人間の強者。種族の枠から外れたような怪物を前に、竜神はなりふり構わぬ攻撃を開始する。

『ガアアアアアアアアアアッ』

 天までとどろく咆哮は衝撃波となって周囲を襲う。両耳と口から血を流しながらも、イレイナは止まらない。連続で突き出されるナイフが竜の頭部を砕いていく。

「――ッ!?」

 刺突の瞬間、イレイナの腕に水の鞭が絡みつく。それは瞬時に強烈な力をもってイレイナの腕をあらぬ方向へと捻じ曲げる。

 その一撃を前に、イレイナは竜神の体に突き立てていたナイフから手を放し、力に流されるように体を回転。腰のナイフを抜き放ち、水の鞭を切り裂く。

 空中を舞うイレイナの視線の先、煌めく氷の槍が無数に存在した。竜神が生み出した万に届くかという氷の槍は、その一つ一つがイレイナの体より大きく、鋭い切っ先は竜神のうろこさえ貫くほどだった。

 一斉に射出された氷の槍は、その進路上に存在した竜神の肉体を貫き、あるいは大気を切り裂きながらイレイナへと殺到する。

「おおおおおおおおおおッ」

 体をねじり、力をためる。迫る無数の槍の側面へとナイフを添え、力を流す。

 迫る槍の中心から逃げるも、槍は竜神の支配によって絶えずイレイナへと全方位から迫る。

 コマのように回転しながら、四方八方から迫る槍をはじく。はじかれた槍が槍をはじくように軌道を調節、回転速度を調節してすべての槍を叩き落しにかかる。

 ピシ、とナイフに亀裂が走る。刃が割れる。

 槍は止まらない。半身の刃で、柄で、素手で、イレイナは迫る氷の槍をはじく。だが、無数の槍は止まることなく、はじかれた槍がすぐそばにあった槍に跳ね飛ばされ、回転した切っ先がイレイナの腕を薙ぐ。

 バランスが崩れたイレイナへと氷の槍が殺到する。はじく余裕が消える。体を切り裂かれながらも、致命傷を避けながら槍をそらす。

 無数の槍は連続で衝突を繰り返し、とうとうイレイナの周囲を取り囲む。

 槍の雨はとどまることを知らない。後から後から生成された氷の槍はイレイナを覆う氷の塊へと迫り、その質量を増やしていく。

 イレイナを包む氷の槍の残骸は、竜神の力をもって水と化し、イレイナを飲み込みにかかる。

 血が混じった水の冷気がイレイナの体を冷たくする。イレイナを包む氷球の中から空気が消える。

 呼吸もできず、急速に冷える体は動きを悪くしていき、さらに氷の球の内側の面で氷の槍が生成され、イレイナめがけて射出される。

 切っ先をへし折られた槍が、止まることなくイレイナに迫り、その胸部を襲う。

 肺から空気が漏れる。動きの止まったイレイナめがけて無数の氷の槍が殺到して、イレイナの体は槍に飲まれた。


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