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Valkyrie Panzer‐守りたい笑顔‐  作者: 雪代 真希奈
9/9

エピローグ

 あれから、時は過ぎて。

『義兄さん、今どこにいるの!?もうすぐ生まれるって…とにかく早く来て、急いで!』

 アンネからの連絡をもらった俺は、急いでモノレールに飛び乗り、医療ブロックを目指す。

 …あの事件の後、婚約した俺とクリスは、二人で生徒会に選出され、学園を卒業後、無事に結婚式を挙げることができた。…二人揃って「史上最高のヴァルキリーとオーディン」なんて呼ばれるようになってしまったことや、あの事件のこともあって、俺とクリスは国連による長期経過観察対象という扱いになり、島から出る許可をもらうための手続きもなかなか面倒なものになってしまったのだが、それは仕方のないことだと思っている。

 俺たちは今、ヴァルホルで学んだことや、ヴァルキリーとオーディンとしての知識や経験を活かすためということで、珀亜さんの後継の講師として、普段は学園で後輩たち…クリスはヴァルキリー、俺はオーディンの後輩たちを教え、導いている。また、珀亜さんと秀真さんから、二人で自衛隊の方も手伝ってみないか、という誘いを受けたこともあって、自衛隊からの要請があれば、演習から災害現場、平和維持活動に至るまで一目散に駆けつけるといった形にもなったことで、忙しくも仲良く楽しい日々を過ごしている感じだ。…手続きが通れば一定期間島の外に出られるとはいえ、その期間が過ぎればいずれ島に戻って来なければならない俺たちなので、形式はどうあれ、俺たちが島の外に出られる機会を増やしてくれた珀亜さんと秀真さんには本当に感謝してもしきれない。

 …俺にとってとても嬉しいことのひとつが、今のクリスは学園の後輩たちや現場の人たちにとても好かれているということだ。学園では最高のヴァルキリーとして尊敬を集め、どこかの現場に行けば、クリスの纏うスヴェルの白い装甲を見て、たくさんの人たちが駆け寄ってくる。誰に対しても優しく手を差しのべるクリスを見て、どのくらいの人たちが彼女の笑顔に癒され、救われているのか。いつもクリスと一緒にいる俺は、いつも微笑ましい気分になりながら、笑顔を振り撒く彼女を見守っている。

 …まあ、未だにクリスのことを妬んだりする人はいないわけじゃないけど。でも、そんな時、クリスはいつもこう言ってくれるんだ。


『大丈夫です。誠さんがいてくれることが、わたしの一番の幸せなんですから。わたしがみなさんに向ける笑顔をくださったのは、他の誰でもない、あなたなんですから』って。


 ------そして、そんな毎日を過ごすうちに、いつしか、クリスのお腹には新しい命が宿り…まさに今日、その命がこの世に生まれ出でようとしているのだ。

「アンネ、クリスは!?」 

 医療ブロックに飛び込み、扉の前でそわそわしているアンネに、俺は勢いよく詰め寄る。

「義兄さん、遅いじゃない!とにかく、早く姉さんのところに行ってあげて。姉さんが頑張るためには義兄さんがいること、わかってるでしょ?」

 そう言って、俺の背中を押して分娩室に押し込もうとするアンネ。

 クリスがよく笑うようになったことで、アンネも少しずつ笑顔を取り戻し、今では俺も「義兄さん」と呼ばれるようになっていた。…本人曰く、「信用に足る人だとわかっただけ。…あんなこと言われたら、許すしかないじゃない。」とのことだったが、最初からすれば大変な進歩だと信じたい。

「クリス!!」

 医療スタッフさんたちがたくさんいる中、ベッドに横たわり、苦しそうな息を漏らすクリスに駆け寄った俺は、スタッフさんの許可を得てクリスの手を握る。

「あ…誠…さん…。」

 俺が手を握ったことに気がついたクリスは、額に汗を浮かべ、弱々しく苦しそうにしながらも、俺が来たことが嬉しいと言わんばかりの顔を見せてくれる。

「クリス、頑張れ…。俺も一緒にいるから。大丈夫だから。」

 俺がそう言うと、クリスは一瞬、ふっと笑みを浮かべ、大きくなったお腹を愛しそうにさすりながら言う。

「…大丈夫です。すごく痛いけれど…本当に、死んじゃいそうになるくらいだけれど…でも…わたし、今からお母さんになるんですから…お腹にいるのは、誠さんとの赤ちゃんですから…。だから…わたし、頑張ります…誠さんとの赤ちゃんに会いたい、あなたに赤ちゃんを抱かせてあげたい…だから…。」

 …そんなクリスの手を、俺はもう一度、ぎゅっと握り返す。

 クリスは強い。出産の痛みは、人によっては泣き叫ぶほどだと聞いている。それにも関わらず、クリスはその痛みに必死に耐え、母親として生まれてくる子をその手で抱いてあげるべく頑張っている。…手を握って励ますことくらいしか俺にできることはないかもしれないけれど…でも、それでクリスが頑張れるなら。

「…っ、ぅ、はぁっ…はぁっ…んぅっ…んうぅぅぅぅぅっ……!!」

 苦しそうに息をつく度、クリスの手が俺の手を握る。爪が食い込んですごく痛いけれど、その何倍、何十倍もの痛みを、クリスは経験しているんだ。

「クリス、もう少しだ、頑張れ…頑張れ…!!」

 …そうして声をかけ続けて、何分、いや…何時間が経っただろう。瞬間------新たな命の誕生を知らせる産声が、分娩室全体に響き渡った。

「う…生まれた…。クリス…生まれたよ…女の子だ…俺たちの…俺たちの赤ちゃんだ…!!」

 俺が声をあげているうちに、産湯に通された赤ちゃんが、大きく息をつくクリスの枕元に横たえられる。

「はぁ…はぁ…あ…わたしの…わたし達の、赤ちゃん…。誠さん…わたし…お母さんになれたんですね…。」

 まだ痛みが残っているであろう体を少しずらして、クリスが涙ぐみながら、俺たちの子供の手を握る。強く握りすぎると壊れてしまいそうな、その小さな手。クリスはそれを優しく握って、本当に愛しそうに頬を撫でる。

「待ってて、アンネにも伝えてくるよ。あぁ、珀亜さんや秀真さん、それからフィアナさんももう来てるかな…。珀亜さんなんか、早くおばちゃんになりたいー、って言ってたし。αのみんなや重樹たち、それにアナスタシアはさすがに船のこともあるから、すぐ来るのは無理だけど…でもすぐに見たいから生まれたらみんな飛んでくるって言ってたし、そのときに見せてあげることにして…それから…。」

 俺はそんなことを口に出し続ける。…まあ、珀亜さんと秀真さんよりも俺たちの方が子供を授かるのが早かった…なんてことは口が裂けても言えないけど。結構気にしてたみたいだし。

「あ…あの、誠さん…。」

 クリスが、俺の手をまた握り直し、こちらを向いて笑う。


「…まずは二人で、この子のお名前、呼んであげませんか…?もう決めているんですから。」


 …そりゃいいアイデアだ。ここでアンネたちを呼んできてしまったら、おそらくそれどころではなくなってしまうだろう。


「…真梨亜(まりあ)、はじめまして。お父さんだよ。」


 俺はクリスの横の赤ちゃん…真梨亜に、そう声をかける。

 女の子だということがわかったとき、俺の頭に浮かんだのがこの名前だった。この子がクリスのお腹の中にいる間にクリスにも話したところ、クリスはとても喜んでくれた。秀真さんと珀亜さんから一文字ずつもらっていたり、母親であるクリスがキリストの名前をもらっていることや、アンネの本名がアンネマリーということに目をつけたこともあって、自分としても本当にいい名前をつけられたと思う。…ここに関しては、クリスとアンネのご両親に感謝したい。人としてはいい人とは言えなかったかもしれないけれど、この子の名前を考えつくきっかけになったのが、他でもないクリスとアンネの名前だったのだから。


「真梨亜ちゃん…お母さんですよ。生まれて来てくれて、ありがとう…。」


 クリスがまた、真梨亜を愛しそうに撫でる。

 …出逢ったときには、自分は存在しない方がいい、なんて言っていたクリス。

 でも…彼女は今、最高のヴァルキリーとして、俺の奥さんとして、そして一児の母として、ここにしっかりと存在している。俺に、娘に、そして世界中の人たちに優しい笑顔を振り撒いてくれる、そんなかけがえのない存在として、ここにいる。その笑顔はきっと、外にいるアンネや珀亜さんと秀真さんの夫婦やフィアナさん、報せを受けて社島に来てくれるであろうパンツァーαのみんなや重樹たち、それにアナスタシアたちもみんな笑顔にさせて------そしていつの日か、きっと、この子…真梨亜にも、この笑顔の意味がわかる日が来ることだろう。

 

 ------俺の笑顔は、クリスが守ってくれる。

 ならば------俺はそんなクリスの笑顔を守っていこう。

 この先、どんなことがあっても、ずっと、ずっと。


 アンネたちを呼びにドアを開けるその時。

 俺はあの時------自分に、クリスに、みんなに…そしてフリードリヒさんに誓ったように呟いて、心の中に刻み込むように、強く、強く繰り返していた------



『Valkyrie Panzer-守りたい笑顔-』fin.


こんにちは、まきずしです。

前作『サイレント・ブラッド-魔法が紡ぐ家族の絆-』に続き、こちらのお話も投稿いたします。


さて、このお話、「Valkyrie Panzer」ですが、『ヴァルキリー三部作』と呼んでいる私のお話のストックのうちの第一作目になります。

昨今、兵器の擬人化作品をよく見かけます。歴史がとても好きな私ではありますが、このお話は、特にそういった擬人化物に似たようなお話を書きたいと思ったわけではなく、気がつくとなぜか構想ができていて書き始めていた、というものです。お話の展開上、本来ならば、このお話は昨年、2019年12月に投稿したかったものなのですが、それまでに間に合わなかったことや私の時間の都合もあり、小説家になろう様にて投稿させていただく前段階として、最初にpixiv様の方で投稿させていただいたのは、2020年8月後半のことでした。


さて、このお話で私が書きたいと思ったものは、「兵器の力を宿した女の子」、「女の子たちに力を与えられる男の子」、「力とは何か、何のために存在するのか」というものです。

特に、力とは何か、何のために存在するのか、とは、本当に難しい問題です。それらには十人十色の答えが存在し、そのどれもが正しく、尊いものであると思います。その中で、私はこのお話で、私が信じる、あるいは信じたいと願う力のあり方を、私なりの言葉を以て表現してみたい、と思いました。


最後に、ここで謝辞を述べさせてください。

前作『サイレント・ブラッド』も手伝ってくださったお友達、シロクマ君。今回は主に兵器監修を行ってくださいました。忙しい中、本当にありがとうございます。

ご興味を持ってくださった方々、私の拙い文章ではありますが、どうか最後までお付き合いいただけたら幸いです。また、もしもよろしければ、ご感想などもいただければと思います。


では、またお会いできる日を願って。


2020年8月23日 まきずし

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