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縁、解く。異世界離婚相談所~現世で999組を成婚させた末、異種族夫婦の離婚問題に取り組みます~  作者: 宮地拓海
五章

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相対する同志 -1-

 お前の両親に会いに行こう。

 そう告げると、ツヅリは「へっ!?」と驚いた顔をして固まってしまった。


 まぁ、驚くか。

 だが、こっちはアノ日から――ツヅリの部屋へ入ると腹を括った日からずっと考えていたのだ。


 ツヅリの両親に会う。

 会って……



 複雑にこんがらがった糸を解いてやるって。



「ツヅリは、両親が好きだよな」

「え……」


 問えば、ヘアテールがぴくっと揺れ、そしてふわりと膨らむ。

 緊張の表れだな、アレは。

 ツヅリと一緒にいるようになって、少し分かるようになってきた。ツヅリの感情や、クセが。


「……はい。大切だと、思っています」


 両親を大切に思いながらもツヅリが家を出て一人を選んだのは、両親をこれ以上不仲にしたくないからだ。

 自分が好きだと言ったものが目の前からなくなっていくという恐怖も確かにあったのだろうが、話を聞いた時はそれよりも両親が不仲になったことの方がつらそうに感じた。


 もしかしたら、それすらもひっくるめて――


『わたしが両親を好きだから、両親の仲が悪くなったのかも』なんて考えているのかもしれない。


 だから、その不安を解消してやる。

 結婚当初は仲睦まじかった夫婦が、今では会話もなければ視線も合わせないくらいにすれ違っている。

 そして、それは夫婦間に収まらず親子の間でもすれ違いを発生させた。


 そんな関係は歪だ。


 他人が訳知り顔で「俺がなんとかしてやる」なんてしゃしゃり出てくることを心底疎んでいた俺だが……


「ツヅリ。お節介を焼かせてもらうぞ」


 お前のためにじゃない。

 俺のためにだ。


 そのために、ちょっとした詭弁を弄する。


「離婚相談所エターナルラブは、待っているだけでは先細りしてしまう。今後はこちらから営業をかける必要も出てくるだろう。その試金石として、お前の両親を利用させてもらう」


 離婚相談所最初の、今後の運営方法の試金石として。

 そして、俺の望みを叶えるためにもな。


「娘から見て、苦しそうに見える夫婦関係ってのはやっぱ歪だよ。苦しみ続ける結婚生活を送るくらいなら、幸せな離婚を与えてやる。それが、お前がここを開設した理由なんじゃないのか?」


 なぜツヅリは『離婚相談所』なんてものを開設したのか。

 結婚相談所ではなく、離婚相談所だったのか。


 それは、苦しそうに見える夫婦を間近で見てきたからではないのか。

 そんな二人を救ってやりたいと思ったからではないのか。


 苦しむ二人を、幸せにしてやりたいと思ったから。では、ないのか。


「離婚……」


 呟いて、ツヅリの表情が曇る。

 やはり、両親が離婚するのは寂しいのだろう。


「その方が、幸せになれるなら……それも必要なのかもしれませんね」


 ザックハリー司祭とハルス司祭のように、離れることでいい関係になれる者たちもいる。

 あそこまで極端に改善しなくとも、今の苦しみから解放されて気が楽になることもあるだろう。


 だが、ツヅリはその一歩をずっと踏み出せないでいた。

 離れた方がいいのかもしれないと、こいつはずっと思っていたのだろう。だが、それを認められなかった。

 単純に、両親には一緒にいてほしい。子供が親に対して当たり前に抱く感情だ。


 でもツヅリは、『自分のせいで両親の仲が悪くなった』と思い込んでいる。


 自分がいなくなりさえすれば、両親の仲は元通りになると考えたのだろう。

 だから、家を飛び出したのだ。

 ツヅリの口から語られた昔話では、ツヅリは『自分が好きになるものが消えてしまう』恐怖と重圧に耐えかねて逃げ出したと、そんなニュアンスが前面に出ていた。

 だが、違う。

 こいつは、ツヅリという少女は、何よりも自分を犠牲にするタイプの人間だ。

 もし、その場に留まることで両親の仲がよくなるのであれば、自分への重圧や恐怖などには目を瞑りそこに留まったはずだ。


『誰かのために何かをしたい』


 ツヅリの思考回路は、常にそこを軸としている。


 だから背を押してやる。

 普段はどこまでものーてんきな性格のくせに、自分のこととなると途端にネガティブな感情が顔を覗かせる、このツヅリという少女の。

 強がりきれていない小さな背中を両手で押してやる。

 ただし突き放すのではなく、しっかりと支えるようにそっと包み込んで。


「ただ、ウチの相談所は少々変わっていてな。相談者の離婚率が極めて低い離婚相談所なんだ」


 名前負けもいいところだ。

 離婚したいって相談に来た相手に、「離婚する必要はない」って思い留まらせてばかりなんだからな。


「どうしようにもないように見えている夫婦間の事情も、話を聞いてみれば案外たいしたことなくスッキリ解決するかもしれない」


 これまで、俺たちが関わってきた者たちがそうであったように。


「結果だけを見れば、この相談所は相談者の望みをことごとく却下して、蹴って、こっちの都合を押しつける変わった相談所なんだ」


 冗談めかして言ってやると、ツヅリがくすりと笑みをこぼす。

 両手を広げて肩をすくめる。「困ったもんだな」と嘆息すれば、ツヅリは「くすくす」と肩を揺らした。


「バッサリ縁を切って別れさせてやろうとしてるのに、なぜかいつも相談者夫婦は真実の愛に気付いて、手を取り合い、新婚かってくらいにラブラブになって帰っていくんだ」

「看板に偽りあり、ですね」


 楽しげな声で言って、相談所を見上げるツヅリ。

 自分で掲げた看板を、満足げに見つめている。


「ただ、そんな業績なのになんでか知名度が上がってきているようで、ここの相談員が若干自信をつけてきてるんだとさ」

「そうなんですか。でしたら、その相談員さんにお願いすれば安心ですね」

「きっぱり縁を切りたいなら、別の離婚相談所に行ってもらわないといけないけどな」

「ですが、幸せになりたいなら、この離婚相談所がお勧めですよ」


 この相談所の戸を叩いた者たちは、みんな幸せになった。

 結果はどうあれ、みんな幸せそうに笑っていた。


 その姿を見て、ここの所長が一番幸せそうに笑っていた。


 ここは、そういう場所なのだ。


「きっと、ここの所長には幸運の女神の血が流れてるんだろうよ」


 離婚達成率わずか数パーセントのこんな零細相談所が、今なお営業を続けられるなんて、幸運の女神の恩恵だとしか思えない。

 そんな冗談を口にしたら、ツヅリがきょとんとした顔で言ってきた。



「わたしに流れているのは、破壊神と豊穣の女神の血ですよ?」



 ……え、お前の父親、破壊神なの?



「……それって、もしかしてザックハリー司祭とハルス司祭が鎮めたっていう、アノ魔神の乱の?」

「はい、そうです。両司祭というより、ほとんど龍族の方が、ですけれど。両司祭は復興の場面でその辣腕を振るわれたと伺っています」

「破壊神だったのか……」

「はい。こちらの世界では一括りに『魔神』と称されているのですが、以前の世界では破壊神だったと聞き及んでいます」


 この『世界』を揺るがした伝説の魔神――破壊神が、ツヅリの父親だったとは……


「ですが、とんがっていたのは昔のことで、今は丸くなっているんですよ。絵本の読み聞かせで泣いたりしていましたし」


 随分可愛らしい破壊神だな……

 ただ、絶対丸くはなっていないはずだ。

 なにせ、ツヅリに粉をかけようとした貴族が謎の失踪を遂げているからな。


 ……そんなヤツを相手に、話なんか通用するのか?

 いや、させるほかないんだけれども。


 ……こいつは、強敵だな。


「あの、アサギさん。……本当に、両親と会うおつもりですか?」


 不安げな瞳が俺を見つめてくる。

 危険な両親を俺に会わせることを不安に思っているのか。

 はたまた、両親に関与することで二人の仲を決定的に破壊してしまうのではないかと憂慮しているのか。


 その真意は分からなかった。

 だが、これだけははっきりと分かった。


 ツヅリの不安げな瞳の奥には微かに、ほんのわずかにだが、それでも確実に『期待』がこめられていた。



 もし、可能であるならば――両親を幸せな夫婦に戻してあげたい。



 そんな期待が。


 よし。いっちょ、気合い入れるか。


「営業の許可をもらえるか、所長?」


 ツヅリの部屋へ足を踏み入れると決めた時から、もう覚悟は決まっていた。

 お前の過去に触れる。

 干渉して、口を挟んで、不安を全部拭い去ってやる。


 お前たち家族の問題に、部外者の俺が踏み入ってあれこれ口出しさせてもらうってな。


 そのための許可が必要だ。

 離婚相談所『エターナルラブ』の活動を行うには、所長の承認がな。


「……はい。初めてなので失敗するかもしれませんが」


 そんな不安をにじませて、でも力強く頷いたツヅリ。


「やってみましょう」


 この瞬間、はっきりと動き出した。

 俺の計画が。

 ツヅリの家庭に干渉して、こんがらがった縁を解きほぐす。


 不仲になった両親の縁と――疎遠になってしまっている親子の縁をな。


「じゃあ、ツヅリは出かける支度をしておいてくれ」

「今日行くんですか?」

「いや、ちゃんと許可を取ってからにするつもりだが、相手が大物過ぎるんでな、会うために必要な物や許可関連のものを洗い出しておいてくれると助かる」


 なにせ、この国のナンバー2に会うのだからな。

 俺は、そこら辺のマナーやルールには疎い。というか、まったく知らない。


「そういうことでしたら任せてください。そうですね、アサギさんの服も新調しましょう。わぁ、本当ですね。やることがたくさんあって、今から準備しないと間に合いませんね」


 ぽんっと手を打って、「さすがアサギさんですね」なんて見当違いな称賛を寄越してくる。


「たとえ、離婚することになろうと、両親がこの先の未来を幸せに生きていけることが一番の望みです。今、そう確信しました」


 もう一度看板を見上げて、ツヅリが呟く。


「アサギさんに出会えて、わたし、よかったです」


 俺に笑顔を向け、「えへへ」と照れ笑いを浮かべた後、赤く染まった頬を隠すように背を向けて事務所へと駆け込んでいく。

 離婚をすることになろうとも幸せに。

 けれど、離婚せずに幸せに暮らせるのが一番の望みなのは間違いない。


 俺も、ツヅリのマネをして看板を見上げる。



『離婚相談所 エターナルラブ』



 最初は「なんじゃそりゃ」と思った名前だが、今ならしっくりとくる。

 この名前には、ツヅリの願いがこめられていたんだな。


「エターナルラブ、か」


 ツヅリが消えた階段を見つめ、俺は一つ息を吐く。

 そして、背筋を伸ばして階段へ向かう。

 ツヅリが駆けていった内階段ではなく、屋上へと続く外階段へ。



 あいつと、話を付けなければな。






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